診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第1章 サテライトオープン

11話 甘えたくて

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 吉岡君は、早速15時からサテライトの受付事務に見習いとして入ることになった。

今までは物流のサブで入っていたんだけど、代わりに看護助手の野原希《のぞみ》さんが担当することになった。

ただし、西村さん曰く「若い男性でないときついから、続かないかも」とのことだったので、次の担当者が来るまでのつなぎとしてお願いすることにした。

もう1名の募集プリントは、今日の休憩時間に掲示したのだけど、すぐに反応があった。

メールで「希望します。ぜひ大至急お願いします!」と届いていた(笑)。

さっそく、夏もいる時に院長室に呼び出した。

希望者は、本館1階受付事務の佐藤翔太君、32歳だ。

なんだなんだ? だって女性に囲まれて良かったんじゃないのか?

「どうしたの? そんなに急いでいたの?」

なんだか妙に焦っているように見えた。

佐藤「はい、実は寮生がうらやましくて、仲間って感じが良いなあって前から思っていたんですよ。

それに僕は今、女性に囲まれているので、なんだかちょっと気を使ってしまって……。僕でもいいでしょうか?」

「もちろんかまわないよ。ありがとうね。

今、宿直室に入る人のために4階に大きな物置を設置しようとしているんだよ。

もうすぐ来るんだけど、いつから来れますか?」

佐藤「僕は明日からでも大丈夫です。15時からですよね? それまでに身の回りの荷物をまとめておくので、すぐ入れます」

理事「佐藤君は、今はどういうところに住んでいるの?」

佐藤「僕は実家住まいなのですが、いろいろと事情があって居づらいんです。それで、早く出たいと思っているんです」

「うん、それなら明日からいらっしゃい。寮母さんも美味しい朝食を作ってくれるしね。甘えるといいよ」

佐藤「うわ~、なんだかその……“甘える”って言葉を忘れていました……うっ__」

そう言ったそばから、涙がぽたぽたと落ちてきた。

えっ? 驚いて夏と目を合わせた。

「佐藤君、おいで」

俺は立ち上がって彼の手を取り、抱きしめた。

なんだか、そうせずにはいられなかった。

しばらく嗚咽が止まらなかった。

ふと見ると、夏がティッシュを箱ごと持ってそばに控えていた。

ふっ、「ほら、大丈夫だから。鼻かんで」

ティッシュを何枚か渡した。

なかなか止まらないようだった。

かわいそうに……。そんなに実家が辛いなんてね。

理事「物置は多分明日来るから、引っ越しは日曜日にすれば、みんなも手伝ってくれると思うよ」

「寮母さんにもよく言っとくから、安心して。明日は身の回りのものだけ持っておいで」

佐藤「はい。分かりました。どうぞよろしくお願いします」

まだべそをかきながら、部屋を出て行った。

はあ……。

理事「お兄さんの方が辛くなったんじゃないの?」 うん、確かに。

「菜の花があって良かったよ。こんなに喜ばれるなんてね。そのうち社員寮を作りたくなるかもね」

理事「俺だって、そんな日が来るような気がしてるよ。でも、それは今は禁句にしようよ。投資ばっかりなんだもん」

「ははっ、そうだよね。禁句にしようね」


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