診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第4章 菜の花、未来を味わう

73話 莉子と屋上庭園とデザート

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  火曜日。この日は莉子の日に決めていたから、午後から俺も莉子も休みにして、一緒に過ごすことにした。

 前の夜、莉子に希望を聞いた。

「莉子、明日の休みはどうしたい? なんでもいいよ、言ってみて」

「う~んとね、まず春ちゃんのことを見せびらかして歩きたい」

「ええ? それどういう意味?」頬が緩んできた。

「そのまんま。おしゃれして、最近できたビルの屋上庭園に行きたいの。すごいらしいよ。

それから百貨店でカチューシャを買いたい。桃香の分もね。

あと、バナナを使ったデザートのお店があるんだって。そこでお茶する」

「ふふっ、普通のデートだね。じゃあお昼ご飯は?」

「う~ん、それがまだ決まってないの」

「じゃあ、百貨店の近くのホテルにある中華にしようか? すごく美味しいらしいよ」

「うん、いいよ。そこにしよう」



 当日。エリナさんがコーディネートしてくれた服で出かけた莉子は、めちゃくちゃ可愛い。

俺でいいのか? 年齢差が怪しまれないかなと心配になる。

「莉子、すごく可愛いよ。でも俺と年齢差を感じない?」

「え? 全然平気」

 あっそう。莉子が気にしていないなら、それでいい。

それでも、家を出てから莉子はずっと俺の手を離さない。

人が多くなると、ひな鳥みたいに俺に寄り添ってきた。

ホテルは高層ビルの中にあって、レストランは大きな窓に囲まれ、都会の景色を一望できた。

とても中華とは思えないほど上品で、莉子も外の景色をうっとり眺めている。

「莉子、気に入ってくれた?」

「うん、素敵。景色がいいね」

「何にする? 軽めにしておこうか。あとでデザートもあるし」

「私ね、海鮮粥が好き。だからそれにする」

莉子は海鮮粥のセットを注文。点心も少し付いてくるらしい。


「莉子、こういうデートがしたかったの?」

……しばらく黙ったあと、小さくうつむいて言った。

「わかんない‥‥‥」

「もし疲れてたら、この上の部屋を取ろうか? 休んでから行ってもいいよ」

「食べてから考えてもいい?」

「うん、いいよ」

海鮮粥はエビやホタテがとろけるように柔らかくて、とても美味しかった。

デザートにはマンゴーのシャーベット、アイスジャスミンティー。

「屋上庭園って、どうやって知ったの?」

「アニメプラスで誰かが言ってたの。すごく素敵だったって」

「ふ~ん、楽しみだね。ここの上だよね?」

「うん。きっと景色がすごいよね」

 屋上庭園に向かうと、エレベーターは人でいっぱい。

莉子は俺の胸に隠れるように寄り添ってきたので、俺は両腕で包み込んで守った。

屋上に出た瞬間、思わず息をのんだ。

緑の木々があふれ、森でも林でもない、不思議な空間。

頭上には空がいっぱいに広がっている。

思いっきり深呼吸すると、木々の爽やかな匂いが胸いっぱいに広がった。

青や白、紫の小花がところどころに咲き、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

曲がりくねった通路にはベンチが点々と置かれていて、莉子の手を取りながら歩いた。

「素敵だよね?」莉子は目を輝かせている。

「今度できる2号館の屋上も、きっとこんな感じになるよ」

「そうだね……なんだか信じられないね」

人が多かったので、早めに切り上げることにした。

「莉子、疲れてない? 少し休んだ方がいいんじゃない?」

「そう見える?」

「うん、見える」

「じゃあ、休んでいく」





 下に降りてホテルでツインを取った。

部屋はシンプルながらも高級感があって落ち着く雰囲気。

窓からの景色はやはり素晴らしい。

すぐにバスタブに湯を張る。莉子はソファに腰を下ろし、ふうっとため息をついた。

「莉子、大丈夫か?」

冷蔵庫からドリンクを取り出し、莉子に渡す。

「少し休んでからお風呂に入ろう。洗ってあげるよ」

莉子がじろっと俺を見る。

「春ちゃん、下心あるでしょ?」

ぷっと笑った。「ある」

ない方がおかしいだろ?

 莉子はくすくす笑いながらそばに来たので、俺は手を取って抱きしめた。

「こういうの、嫌?」

「ううん、いいよ」

その後のことは――バナナのデザートよりも美味しかったかどうかはわからない。

ただひとつ言えるのは、莉子がとても色っぽくて、そして本当に愛おしかったということだ。

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