診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
84 / 357
第5章 2号館、屋上から動き出す

82話 西村サイド・うどん

しおりを挟む
 院長が薦めてくれたから、川瀬先生に棚卸を手伝ってもらった。

川瀬先生は、なんだかヨレヨレのTシャツに、これまた着古したズボンをはいていた。

……この人って、本当に女手がかかっていないんだなあ。

ちょっとかわいそうになった。だって医者だったら高収入のはずなのに。

食品庫の棚卸は、先生がどんどん読み上げてくれるから、あっという間に終わった。

やっぱり頭のいい人は違うわ。

でも、台所の方はずっと細かい。嫌になっちゃうかな?と心配したけど、戸棚や引き出しに細かい調味料や乾物がいっぱいあっても、淡々と書きつけてくれる。

しかも文字が中々達筆で読みやすい。

……基本的に私は頭の良い人が好ましいのよね、エへへへ。

だってさ、もう頭の悪い男は嫌い。言っても分かんないんだもん。

前の夫がそうだった。あれは見込み違いというか、若気の至りだった。

もう遅いけどさ……。

買い物に行って山のような荷物も嫌がらず、どんどん手伝ってくれた。

久しぶりに、自分が「女になった」ような気がした。

だって、夫婦連れなんてみんな旦那に荷物を持たせるでしょう?

「いれば便利だな」って思っちゃった。こっちは大荷物なんだから。

トイレットペーパーやタオルペーパーも、寮の備品は私が補充している。

今日は車があるからと思って、洗剤類もまとめ買いした。

――よし、これで当分は買わなくていいぞ。

買い物を片付け終わってふと見ると、川瀬先生はソファで寝ていた。

気持ちよさそうな顔をしている。

きっとお腹も空いていたんだろうけど、催促はしないんだな。

前の夫とは大違いだ。あの人は、こっちが何をしていようと「腹が減ったら飯!」だったから。

でも川瀬先生は、こうやって自分が我慢する人なんだ。

――よし、お昼ごはんを作ろう。

お弁当はあるけど、温かい汁ものがいいかなと思って、おうどんを二人分作った。

「川瀬先生、お昼ですよ」

「うん、あっそう? お腹空いた、食べようかな」

私がおうどんを出していたら、先生がじっと見ている。

「川瀬先生もおうどんを食べますか? 一応二人分作ったんだけど……」

「うん、食べる!」

急に笑顔に変わった。……ふふふ、なんだか小学生みたい。

おうどんを出してあげると、フーフーしながら勢いよく食べている。

「ああ、ちょっと待って、ゆっくり食べた方がいいかも~」

そう言うと、ニヤッと笑って――「忘れてた!」だって。

川瀬先生にはお弁当もあるんだよね。

「お弁当も温めましょうか?」

「はい、お願いします」

お弁当を温めていると、他の寮生たちがやって来た。

川瀬先生のおうどんを見るなり、わっと寄って来る。

「ええ~? いいなあ~川瀬先生は。寮母さんに作ってもらったの?」

ウプッと喉を詰まらせながら、先生が笑っていた。

西村「今日は朝から棚卸やスーパーの買い物を手伝ってくれたの。だからいいでしょう?」

そう言うと、みんな「はーい!」とあっさり納得したみたい。

全く……皆、頭はいいくせに子どもなんだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...