診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
113 / 357
第6章 菜の花寮の大騒動

111話 弁護士の聞き取り調査

しおりを挟む
 社長から「全面的に応援する」と伝言をもらった。

そして午後には弁護士が来てくれるそうで、それまでに経緯をまとめてほしいと言われた。

桐生さんにまとめをお願いすることにした。

会議室で俺と理事が昨夜の経緯を時系列で思い出して話し、それを録音。

桐生さんがメモを取り、後でAIに要約させるという。おかげで30分後にはもう資料が仕上がっていた。

聞き取り調査には、昨夜の当事者全員が必要だ。
受付にいたのは寮の吉岡誠君と佐藤翔太君。
他のスタッフにも14時に来てもらうようお願いした。

俺が一番問題だと思っているのは次の点だ。

1.麻酔医も病室もない菜の花に、なぜ8か月の妊婦を送ったのか。

2.本来なら、手術入院設備のある病院へ搬送すべきだった。

3・大学の救急で一度は診療したのか? 帝王切開が必要と分かっていて菜の花に送ったのか? ならば麻酔医が同行すべきだった。

4.それが無理でも、あとから麻酔医を派遣すべきだった。

5.妊婦の容態が悪く、うちから他院に送る時間はなかった。

6.佐久間医師が全身麻酔を引き受けてくれたから助かったが、個人の裁量に頼るのは大きなリスクだ。
大学病院とは何の協定もないのだから。

7.急な依頼でスタッフのシフトは乱れ、予定外に医師が診療を休む事態となり、徹夜に至った。
これは病院としての損失だ。

――言いたいことは山ほどある。



約束の14時、弁護士の岡田雄二先生が来てくれた。

とても柔和で穏やかな印象だ。

岡田「今回は大変でしたね。社長から依頼を受けていますので、全面的に協力いたします」

全員が順に聞き取り調査に協力してくれた。

終了した人から戻っていき、最後に川瀬先生だけ残った。

「岡田先生、少し休まれませんか? 甘いものはお好きですか? ケーキがありますが」

岡田「ああ、ありがたい。私は甘いものに目がなくてね」

理事がうなずいて用意してくれた。

岡田「書類は大体揃いました。ただ、大学病院には早めに時間を取っていただきたい。今から電話しますか? 明日の朝にしますか?」

院長「実は私が心配しているのは、明日からの川瀬医師の立場です。病院側は当然彼に事情を聞くでしょう。しかし圧力をかけられたり、仕事がしにくくなる心配はないでしょうか?」

川瀬「あ、すみません。途中ですが一言。

私は病院からの派遣じゃないんです。水曜日を休みにしてもらっただけで、勝手に菜の花で働いています。病院長も承知しています。

もちろん佐久間先生がここに来たのは有名な話で、病院関係者なら誰でも知っています。

私は来年3月に大学を辞めて菜の花に移ることを病院長も了承済みです。

今さら圧力をかけられても構いません。むしろ、早く菜の花に来られてうれしいくらいです。いいチャンスですよ」

みんなでくすくす笑った。

岡田「それは頼もしい。私もやりやすくなりました。では今から病院長に電話しましょう。お聞きいただいて結構です。向こうも調査が必要でしょうから」

岡田弁護士はその場で病院長に電話した。

桐生さんが頷き、すぐ録音を開始する。


岡田「菜の花病院に搬送された帝王切開患者の件について、医療安全上の重大な懸念がございます。
特に麻酔科医不在の状況下での搬送判断について、貴院の責任の所在を確認したく、正式な協議の場を設けたいと考えております。
現場の状況を貴院でも調査いただき、今後の連携体制の見直しを含めて誠実にご対応くださいますようお願い申し上げます」

――胸がすっとした。思わずみんなで拍手してしまった。

岡田弁護士も笑っていた。

病院からの返事は翌々日。

ただし患者はその日の午後、救急車で大学病院に搬送されていった。

本当に、ほっとした。

スタッフにはただ「お疲れさま」としか言えなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...