診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第14章 2号館がオープンへ

264話 夏輝のショック

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 ようやく夏の嗚咽が落ち着き、玄関から中へ入った。

「お帰り~」と、莉子と桃香が出迎えてくれた。
でも、俺たちの表情を見て、莉子は瞬時に察してくれたようだった。

「お茶でも飲む? お弁当もあるよ」

「俺、寝る」
そう言うと、夏はそのまま4階へ上がっていった。

「えっ?」
莉子が驚いた顔をしていた。

「夏はどうしたの? 泣いてたの?」

「うん、ちょっとね。なんかあったんじゃないかな。芸能界だもん、いろいろあると思うよ」

「じゃあ、どうする? ご飯も食べてないんでしょう?」

「いいよ、俺がスープでも作って持っていくから。気にしなくていいよ」

「うん、わかった」

俺はポタージュとおにぎりを作ってラップで包み、
温かいお茶をポットに入れた。

それを持って、4階へ向かった。

夏は俺の寝室のベッドに入って、布団をかぶったまま、また泣いていた。

俺もベッドに入り、手を取り、胸に抱きしめた。
かわいそうに……これから何度でも、こうして泣くことがあるんだろうな。

夏の柔らかな髪の匂いが、鼻をくすぐった。

背中をさすっていると、嗚咽がだんだん収まり、少し落ち着いてきたようだった。

「夏、温かいポタージュを作ってきたから、少しでも飲んで」

「うん」
そう頷いたので、上半身を起こして、背中にクッションを当ててやった。

ぬるくなってしまったポタージュを、少しずつ口に運んでいた。

俺はベッドのそばに椅子を持ってきて、黙って見守った。

「おにぎりも食べて。元気が出るよ」

飲み終えたカップを受け取り、代わりにおにぎりを渡した。

ポットから温かいお茶を注いだ。

おにぎりを一個食べると、すぐにお茶を飲み、
「もう歯磨きして寝る」と言って洗面所へ向かった。

……これはダメだな。
明日、桐生さんに事情を聞くしかないだろう。



翌朝、夏は起きなかった。
まあ、放っておくしかない。

下に降りて、莉子と桃香に「おはよう」と声をかけた。

莉子がそばに来て、「夏は大丈夫なの?」と心配そうに聞いてきた。

「う~ん、分からないけど……なんか傷ついてるみたいだから、
自分から話すまで、そっとしておいてやって」

「うん、わかった……」
莉子も沈んだ表情だった。

夏が傷つくと、莉子も心が痛むんだよ。
家族だから、気持ちが移っちゃうんだ。



その後、本館へ行き、朝礼をすませた。
院長室には、桐生さんと村瀬さんも来てくれた。

「昨日は理事の面倒を見てくれてありがとう。お疲れさまでした」

「あの……理事の様子はどうでしたか?」
桐生さんが心配そうに尋ねた。

「うん、しばらく泣いていたよ。なんかショックなことがあったの?」

桐生「ああ……やはり、そうでしたか……」

村瀬さんと顔を見合わせていた。
やはり、困るようなことがあったようだ。

桐生「実は、撮影が事前に聞いていた内容と、まったく違っていたんですよ」

「ふ~ん、どういうことなの?」

桐生「最初は、KAI君と二人でデュエットして、
あとは3曲ほど、みんなで歌いながら踊る予定だったんです。

ところが、実際はKAI君なしで、理事が一人で歌って、
残りは3曲ではなくて、2曲を理事がメインで歌い、他のメンバーは全員、周りで踊るだけという構成に変わっていたんです。

それで、KAI君もショックを受けて、顔色が変わっていました」

「なんでそんなことになったの?」

桐生「それが分からないんです。
オリオンのマネージャーの橋本さんに聞くと、TV局の要望だと言っていました。
でも、それも変だと思ったんですよ。
もしかしたら、オリオンの社長の何か思惑があるのかな……と。
ただ、そこまでは情報がなくて、はっきりとは分かりませんでした」

「ふ~ん……そうなんだ……。
そうだ! 今度入った新人に、芸能界に詳しい人がいたよね?
その人に、どこか伝手があるなら、理由を探ってもらえないかな?

人間関係にひびが入ると、理事もつらいからさ。
KAI君は、夏の唯一の友達だし……
もしかしたら、夏が芸能界を辞めるって言い出しかねないからね」

「そうですね。ちょっと手を回して、調べてもらいますよ」

「うん、お願いしますね」


その後も、夏はずっとふさぎ込んだまま、ベッドに横になっていた。

……そんなに、ショックだったんだ。


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