診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第17章 夏輝・人気と自由と……

336話 励ましのロビーコンサート

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 ヴォクシヴが専属契約をしてから最初の日曜日の午後。

芸能組の弦楽チーム「ナツ・アンサンブル」によるロビーコンサートが、2号館11階の休憩室で行われた。
演奏されたのは、誰もが知っている軽いポピュラーやジブリ音楽。

これは入院患者さんにも楽しんでもらえるようにご案内したものだった。
でも、本当は芸能組が入院中のヴォクシヴのメンバーを励ましたかったらしい。

他の芸能組も全員来ていて、初めてお互いを紹介する良い機会になった。
トーマ君は車いすだったけれど、メンバー全員が揃った。

莉子と桃香も聴きに来たし、桐生さんや村瀬さんも休日出勤。

「うちの病院でコンサートなんて、まるでよその大病院みたいだね」と莉子がこっそり言っていた。

ふっ、まあ、その通りだ。ちょっと笑った。

うちの病院でコンサートなんて想像もしたことがない。
そもそも夏が芸能界に入ること自体が青天の霹靂なのに、
人気ポップスグループのヴォクシブがうちに入るなんて__もう有り得ない。

事務所がコツコツと新人から丁寧に育てて人気者になったのとは違う。
棚からぼた餅的にもらってしまい……後ろめたさ100%だ。
まあ、向こうの事務所が悪かったとはいえ、こっちは医者がいっぱいいるからな。
所属タレントの健康は100%守るさ。

夏は社長夫妻を招待して、ヴォクシヴのメンバーを紹介した。
そして芸能組も全員揃ったので、皆も社長に挨拶をした。
社長と会うのはみんな初めてだったと思う。

劇場を作ってくれるという話に皆が感激し、その御礼を伝えていた。
社長もにこやかに話していたから、きっとキャスト達と会って喜んでくれたのだろう。

ところで桐生さんがまた人材を募集した。
募集中のヴォクシブ専任マネージャー2名のほかに、ファンクラブの仕事が増える一方なのでスタッフを2名募集。

グッズの物流も忙しくなるから、そろそろ組織を作らないと駄目だと言っていた。
でも待てよ。オリオンだって今までヴォクシヴのグッズを作っていたんじゃないか?

それはどうしたんだろう?と思って桐生さんに聞いたら――

「ああ~それですか、捨ててもいいのにねえ。しょうがないから、捨て値で買ってやりました」

ふ~ん、そうなんだねえ……。でも結構量があるらしい。
夏に聞いたら、置くところがないから工場に置かせてもらっているそうだ。

それからファンや芸能関係者へのお知らせとして、
正式にオリオンから Natsu Entertainment Group に移籍したことを発表した。

桐生さんはHPやインスタなどを新たにヴォクシヴのために立ち上げた。
もちろんファンクラブもだ。

そして今後1年間は「充電期間」にすると正式に発表した。

まあ俺はもちろんノータッチ。
彼らが元気になればそれでいい。

今やキャストの健康を守るのが俺の仕事になってしまった。
つまり産業医として、菜の花病院から派遣されていることになっている。

夏に「産業医としていくらもらえるの?」と聞いたら――

「お兄さん、医者は患者を診ないとお金にならないから、皆に給料が払えないんです。
お兄さんは菜の花病院で診療をしていないから、せめてキャストの診療くらいはしてもらわないと困ります」だって‥‥‥、聞くんじゃなかった......。



あれから一か月後、予定より早く全員が退院して本館5階の個室に移った。
退院といっても本館に場所を変えただけだから、それほど変わらない。

KAI君とストレス性腸炎のジュン君は、今後は投薬による治療。
肋骨骨折のリョウ君は、胸の痛みが完全に無くなったら、背中の不調を整体師にも調整をしてもらおうと思う。

膝を手術をしたトーマ君には理学療法士が来てリハビリをしてくれる。
ノア君はしばらく投薬による鬱の治療は続くが、ずっと入院する必要はなくなった。

鬱の原因がなくなったしね。
あとは皆と一緒に触れ合う方がきっと元気になると思う。

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