ぼくが風になるまえに――

まめ

文字の大きさ
33 / 33

32 番外編・精霊樹のこども 最終話

しおりを挟む

 ――それから
 
 長い年月ののち、フロルとダレンは、共に過ごしたセルフィーユ領の大地で静かに眠りについた。
  
 クマールは、自分を慈しんで育ててくれたふたりの父を同時に失ったことに、ごうごうと吠えるように泣いた。
 その頃には、彼には愛する妻との間にたくさんのこどもがいて、みんなも一緒にわんわん泣いた。
 素直で一途、純粋なクマールと、そのこどもたちは、その能天気さすら愛されて、セルフィーユ一族の中に深く根をおろすことになった。

「ねえ、フロルパパ。精霊樹に抱きつくと、とくんとくんって音が聞こえるんだよ」

「ぼくも聞こえるよ。クマールにこどもができたら、きっとその子にも聞こえる。ぼくらはつながっているんだよ」
 
 そんな言葉も忘れられるくらい、遥かな時を経ても、精霊樹はセルフィーユ領に在り、見渡す限りの世界と、我が子クマールの血をひく者たちを見守っていた。

◇◇◇ 

 その日、精霊樹は自分とつながる者が幹に抱きつくのを感じた。

 相手からは、とくんとくんと心臓の鼓動が伝わる。精霊樹の脈動も、伝わっているだろうか。
 久しぶりのふれあいに、精霊樹は眠っていた意識を引き上げた。

「ねえ、登ってもいい?」

 (いいとも)

 そのクマは、最初のクマによく似ていた。大きくて強そうで泣き虫の、人のよいクマだった。
 あれからどれくらいのクマが生まれては消えていったのか、精霊樹は覚えていないけれど、みな一様にかわいらしいクマだった。
  クマは、するすると上手に木に登りながら、精霊樹に話しかけていた。――うーん、久しぶりの会話にうまく言葉が出てこないなあ。……ぼく、話せるかな?

「おまえ、ご先祖さまなの? セルフィーユ領を見守ってるってほんとだったの? ごめん、ただの大木だと思っていた。じゃあ、オレの小さいときから知ってたりするの? ずっと登ってみたかったんだ。どこまで行けるかな」

 クマは、ずっと話し続けている。彼の心の大部分を占めるのは、諦念に近い悲しみだった。  
 その感情は以前から伝わってきてはいたが、肌を合わせるとより深く伝わってくる。

「ここから先は、枝が折れちゃうかもしれないな。遠くまで見えるなあ。地平線まで見えるよ。……あのさ、オレ小さいころから好きな子がいてさ。今はどこにいるかわからないんだけど……その子もこの景色の中にいるんだろうか。元気にしてるといいな。会いたい……ジュール」

 枝の心配をするクマに、精霊樹は苦笑した。――君の心のほうが折れそうで心配だよ。

「オレ、大人だから、あんまり泣いちゃいけないんだ。こんなに体も大きいだろ。涙が似合わないよな。それに、みんなが心配する。でも、おまえはオレよりすごく大人なんだろ。泣いてもいいよな」
「ご先祖様、ジュールのいる場所教えてよ……」

 大きな体でしくしくと泣くクマは、とてもかわいそうで、かわいらしかった。
 精霊樹は、ようやくはっきりした頭で思った。

 ――落ち込んで丸まったクマもかわいいけど、やっぱ元気なほうがいいな。仕方ない、手を貸してやるか。ちょっとだけ……

 精霊樹は、世界を見通す目で、クマに道を示した。

「なんか光った?気のせいかな? でも、見に行ってくるな」

『……がんばれ……くま……』

「なんか聞こえた?オレ、熊みたいだけど熊じゃないよ……」

 クマはするすると木を降りると、示した場所に一目散に走っていった。
 さっきまで悲しみにくれていたクマの中に、なにかが灯るのを感じた。走れ、走れ。あきらめるな、我が子孫よ。――さて、久しぶりに話したら、なんか疲れちゃったな。ちょっと寝よう。

 精霊樹は眠りについた。うつらうつらしながら、世界にクマがいることに、健やかに育っていることに安心して、また眠る。

 また長い時がめぐり、まわる――




 ◇ おわり ◇


─────────── 


最後までお読みくださり、ありがとうございました。
これにて、番外編は完結となります。

 


このお話に出てくるクマは、拙作『きみはぼくの明星』のフィートです。
第60話「つながる」とリンクしています。
話の主軸には関係ないので、読まなくても大丈夫です。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

おビ
2025.12.26 おビ

感想ラストです〜🌬️🌳

番外編まで読み、うわーーーっ😭🎊👏となり間が空きました…😭

ナディク!敵か!? 味方か!? ………オタクだーーーっ🤣キャンディスもですが、まめ先生のキャラは「純粋」なので…ナディクの「純粋」な好奇心がフロル達にどう影響するのかハラハラしました😵‍💫

「愛の力」に納得していたセルフィーユ家にニッコリ😊そして!怒涛の!説明ターン✊💥大事なことだけど、何回言うんだナディク!🤣頭がいっぱいになっているダレン、思春期すぎる!🤣そしてついに出た〜🪣🍮✨️🙌
セッ…へのそれぞれの想い、テンポ、めちゃくちゃツボです!🤣いよいよセッ…のタイトルが「するよ!」なのも2人らしくて良き…😊

神秘的な開花シーンにうっとりしていたら!? 😳どこまでも予想外で不思議な命に驚き…ぎゅっとフロルの手を握るダレンの姿に、フロルが続くはずだった風守達の宿命と、優しく見守っていたセルフィーユの人達が秘めていたであろう想いが迫り、こちらもスマホを握る手に力がこもりました😭

色々なものを乗り越えて…祝祭の晴れやかさ!!!楽しい〜😆混ざりたい〜😆幸あれ〜〜🙌と読み返すたびに思います🥳料理長、ここでもグッジョブ👍私は料理長が大好きです…👍

そして番外編!「なんか中にいるよね」が気になっていて…精霊フロル!やっぱり🍮好きだよね!😂ちい兄ちゃん、パパになってる!🙌フロルとダレンのイチャイチャも良き…🙌領民を巻き込んでの新しい生命の誕生にワクワクしましたが…うわ〜〜〜😭読了後に湧き上がった想いは「また会いに行くからね」でした。
賑やかな精霊フロルが、クマ達やナディクのような人、領民達にずっと愛されていてほしい。またいつかまめ先生の中でセルフィーユの物語が生まれて、精霊フロルと再会できたらいいな。私も時々物語を読み返して、セルフィーユ領の人達や、自然、風…精霊フロル、あなたに会いに行くからね、と胸がいっぱいになりました🫂💕

「きみはぼくの明星」、実は双子兄’sが怖く止まっていたのですが、そうだよ精霊フロルがいる!と読む勇気が湧いてきました💪✨️

愛しい物語をありがとうございました💐

2025.12.27 まめ

おビさま、ラストまでたどり着いてくださり、ありがとうございます!
丁寧にお読みくださり、楽しんでいただけたようで、とてもうれしく思います。
婚約破棄から始まったくせに、恋愛パートそっちのけのへんてこファンタジーになりました。
キャラクターを好いてくださり、ありがとうございます!

明星のほうは、面白いのかどうかわかりませんし、やたら長いので、いつかほんとにひまになったときにお読みください。
時間がもったいないかも。
小説を書いていて、自分の面白いは、必ずしも人の面白いとは同じではないと実感しています。
でも、また懲りずに駄作を生み出しますので、どうぞよろしくお願いいたします!

解除
おビ
2025.11.25 おビ
ネタバレ含む
2025.11.25 まめ

おビさま、感想ありがとうございます!

丁寧に読んでくださって、作者としてとてもうれしく思います。
このお話の魅了くんは、自分の欲に忠実で無邪気なんです。立場的には悪役ですが、かわいくて好きです。
お話が佳境にさしかかり、16話から新しいキャラクターが登場します。
引き続きお楽しみいただけると幸いです。

解除
おビ
2025.11.21 おビ

プロローグから第5話までの感想です🌬️🌱

優しい色彩の絵本のような。めくったページが起こすかすかな風を感じているかのようなやわらかい文章。
「セルフィーユ」という領名の語感や「風守」という存在、その宿命の持つ儚さに引き込まれました。

が。

まさかの🪣🍮!夢はでっかく🪣🍮!フロル、そこ!? そこなのかい!? 🤣ちょいちょい挟まるコミカルシーンにニッコリ😊
おや?もしかして?な「異世界テンプレ」の不穏な滲み出し方にもぞわぞわ😨

宿命を背負い、諦観を宿したフロルと、フロルを見守るフロル一家の愛情深いやりとりがせつないです🥲

やさしく清浄な風の描写とちい兄ちゃんが好きです🙌
また続きを読んだらこちらにお邪魔します〜🙌

2025.11.21 まめ

おビさま、お読みくださりありがとうございます!感想もありがとうございます!
楽しんでいただけているようで、とてもうれしいです。

ムードが盛り上がってくると、書いていて気恥ずかしくなるので、コミカルな部分を入れて雰囲気ぶち壊しにする習性があります。
みんなちょっとずつカッコ悪くてかわいいのが好きです。
続きもどうぞよろしくお願いいたします。

解除

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

Bランク冒険者の転落

しそみょうが
BL
幼馴染の才能に嫉妬したBランク冒険者の主人公が、出奔した先で騙されて名有りモブ冒険者に隷属させられて性的に可哀想な日々を過ごしていたところに、激重友情で探しに来た粘着幼馴染がモブ✕主人公のあれこれを見て脳が破壊されてメリバ風になるお話です。 ◯前半は名有りモブ✕主人公で後半は幼馴染✕主人公  ◯お下品ワードがちょいちょい出てきて主人公はずっと性的に可哀想な感じです(・_・;) ◯今のところほとんどのページにちょっとずつ性描写があります

BL「いっぱい抱かれたい青年が抱かれる方法を考えたら」(ツイノベBL風味)

浅葱
BL
男という性しか存在しない世界「ナンシージエ」 青年は感じやすい身体を持て余していた。でも最初に付き合ったカレシも、その後にできたカレシも、一度は抱いてくれるもののその後はあまり抱いてくれなかった。 もうこうなったら”天使”になって、絶対に抱かれないといけない身体になった方がいいかも? と思ってしまい…… 元カレ四人×青年。 天使になってしまった青年を元カレたちは受け入れるのか? らぶらぶハッピーエンドです。 「抱かれたい青年は抱いてもらう方法を考えた」の別バージョンです。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。