ぼくが風になるまえに――

まめ

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「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」

 学園祭の夜。多くの生徒が笑い、踊り、にぎやかに交流する講堂で――突然の大声に、フロルはびくんっ!とその場に凍りついたように立ちすくんだ。
 精霊の血をひき、人より繊細な感覚を持つ彼にとって、大きな音や叫び声は、何より苦手なものだった。

 小さい頃からの幼馴染みであり、婚約者でもあるダレンは、そんなフロルにいつも穏やかに接してくれた。そもそもこの婚約は二人が想い合い、ダレンからのプロポーズによって結ばれたものだった。
 そのダレンが今、唾を飛ばすような勢いでまくしたて、婚約の終わりを告げている。いつも短く整っていたキャメルブラウンの髪は乱れ、穏やかだったトパーズの瞳には、見たことのない熱が宿っていた。

 フロルは、ダレンの様変わりに驚きつつも、素直にその言葉を受け入れた。
 もともと子供を成すことの出来ない同性同士の結婚、さらに自分が長くは生きられないと知っている身──そんな自分が、ダレンの婚約者でいていいのかと、ずっと自信がなかった。
 でも一番の理由は、明るく素直で、誰とでも友だちになれる人気者のダレンを、人見知りで閉鎖的な自分が一人占めするなんて、なんか間違ってると思っていたからだ。彼を好きになればなるほど、良いところを知れば知るほど、申し訳なく思ってしまうのだった。
 ダレンが太陽なら、自分は月だろう。うっすらと雲のかかった朧月。
 彼が特定の生徒と仲を深めているのには、気がついていた。しかし、フロルはそれを遠くから眺めることしか出来なかった。

 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
 
 そう。フロルはどこかで覚悟していたのだ。
 もちろん、ダレンのことは大好きだし、彼には幸せになってほしいと思っている。だから――
 胸の奥がきゅっと痛むのを感じながら、フロルは精一杯のほほえみを浮かべた。

「……婚約解消、承りました。……今まで、ありがとうございました……」

 それだけ告げると、フロルはダレンに深々とお辞儀をし、ざわめく講堂を静かに立ち去った。
 二人のやりとりに気づいていた者はいたかもしれない。けれど、誰もフロルの背を追おうとはしなかった。

 なぜなら、その直後、講堂のステージ上で第二王子スチューベンが、自らの婚約者を断罪し、婚約破棄を告げたのだ。
 まるで物語のような一幕に、生徒たちは一瞬たりとも見逃すまいと、目を釘付けにした。
 派閥に属する家の子息たちは、この一件をいち早く親に報告しなければと、そちらのことで頭がいっぱいだった。


 その一連の騒動の混乱や後始末の中で──いつのまにか、フロルが学園から姿を消していたことに、気づいた者はいなかった。

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