ぼくが風になるまえに――

まめ

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15 愛の力

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 しばらくすると、王都にある医療研究所から、フロルに手紙が届いた。
 それには、先日魅了魔法を解除したサシェについて詳しく聞きたいと書かれていた。
 ダレンもそういえば、なぜ原因がわかったのか、どうやってあれを作ったのか、不思議だったのに、聞くのをさっぱり忘れていた。

 フロルは、前世の話を明かしたら、ややこしいことになるのが目に見えていたので、全て夢に見たことにした。
 もちろんそんな簡単にごまかせるとは思えない。自分にもわからないけど、たぶん『愛の力』で神様が助けてくれたのだろうと、超常現象のせいにして、薬のレシピと一緒に王都に返信した。
 手紙に書かれた『愛の力』なるパワーワードを、めざとく見つけたダレンは、ただ浮かれた。
 この単純な恋人は、それだけで納得して、鼻の下を伸ばしてにこにこしている。フロルは、ダレンのそういうところが好きだった。

 ◇◇◇ 

 今夜もダレンは、フロルを抱き締めて寝る気満々だった。寝る前のキスも慣れてきた様子に、今日こそはフロルの中に入りたいと思っていた。

「フロル、口を開けて……」

 ダレンが頼むと、フロルは恥じらいながら薄い唇を開いた。そのわずかな隙間に、ダレンは自分の舌を差し入れた。フロルの中に入るのは初めてだった。
 お互いの舌が軽く触れる。

「!」

 フロルの目がなにかを見つけたかのように見開かれ、夢中になって、ダレンの舌をちゅうちゅうと吸いはじめた。心なしか、頬に赤みがさしている。最初は、積極的なフロルに驚いたダレンだったが、しばらくすると、これは恋人同士の甘いキスではなく、親鳥から餌をもらう雛鳥に似ていると思い始めた。
 そして、フロルの舌が、ダレンの口の中に入ってきた。縦横無尽という言葉がふさわしいくらいに、ダレンの口内を動き回る。
 ダレンは、フロルの精霊の血というものが、自分の唾液に反応しているのではないかと思った。フロルの背中をとんとんとやさしく叩き、彼を正気に戻す。唇を無理やり離すと、フロルは、ほうっと、大きなため息をはいた。

「やばい……、ダレンが美味しすぎて、おかしくなってた」

「美味しいってなにが?」

「自分でもよくわからないけど、ぼくの体がダレンを求めているみたい。えへへ」

 フロルは、恥ずかしさに手をひらひらとした。

「ちょっと!その手見せろ!」

 右手のもやが濃くなっている。ダレンが手を伸ばすと、そこにはなにかが存在する感触があった。握ってみると、ちゃんと掴むことが出来た。

「……フロル、これ!……おまえの手が戻ってきた!」

「うわっ、ほんとだ!ダレンが掴んでるのがちゃんとわかる。少しだけど力が入るよ!」

 フロルは震える指で、ダレンの手を握り返した。まだ完全に戻った訳ではないが、この世界に、ダレンに、また触れることが出来た喜びに、胸の中が熱くなった。

「やったな!」

「つまり、ぼくはダレンとのえっちなキスで戻ってきたと言うこと?訳がわからないよ」

「愛の力ってやつだろ。フロルも手紙に書いてたし」

 あれは違うんだけどなあと、フロルは思った。しかし、これはどうやら違わない。ダレンのなにかがぼくをこちらに引き戻しているようだ。フロルは、色が濃くなった右手を、握ったり開いたりして、感覚を楽しんだ。

「さあ、フロル、いっぱい俺を吸え!」

 ダレンがまた唇を重ねてきた。それは、さっきの甘美な味を知ってしまったフロルには、抗いがたい誘惑で――

「いただきます!」

 フロルは、ダレンに深く口付けた。やはりダレンは美味しかった。夢中でちゅうちゅうと吸い上げていると、ダレンの体の中心が硬くなっていることに気がついた。それすらいとおしくて、フロルはダレンの体に自分を押し付けながら、口付けを続けた。

 ダレンは、フロルの「いただきます!」を聞いたとき、なんかキスが違う方向に流れていってると思った。しかし、夢中で吸い付くフロルは、いきいきとして愛らしく、全てが輝いてみえた。
 もしかして朝までずっとこれが続くのかなと思いながらも、「消えちゃうのが怖い」と漏らした彼の助けになるなら、何でもしてやりたかった。

 ◇◇◇ 
 
 翌日、ほとんど眠れなかったダレンとは、対照的に元気にあふれたフロル。
 朝食の席、手袋をした右手でカトラリーを持つフロルに、セージは驚いて、フォークを床に落とした。

「フロル……その手は?」

「手品ですっ! ほら、手が戻ってきた!」

 フロルは手袋を外し、色が濃くなり存在感を増したもやをお披露目した。

「何をしたら、そうなったんだ?」

 フロルは恥ずかしそうに、ダレンを見た。ダレンは眠そうに目をこすりながら、パンにバターを厚塗りしていた。

「もしかして、フロル……ダレンと……?」

「……うん、……すごいキスしたら、こうなった。ギャー! 恥ずかしい! ちい兄のバカ!」

 セージは、まだキスまでしか進んでいない二人に、拍子抜けしつつも、キスだけでこうなるんなら……と、先の想像をして、期待に胸をふくらませた。ほんとうに『愛の力』ってすごい!
 家族のみんなは、フロルが研究所に送った返信に目を通していた。なにやら薬草を集めて調合を繰り返しているのは知っていたが、『愛の力』で魅了魔法を解いたのは、返信を読んで初めて知ったのだった。
 みんなが思った。

 『愛の力』ってすごい!

 
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