7 / 16
3-1 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番①
しおりを挟む
この日、神太郎は繁華街に足を伸ばしていた。王国で最も人が溢れ、活気のある場所。魔族の脅威に晒されながらも、人々の必死の営みを感じられるここは彼のお気に入りである。それは彼女も同じようだ。
「活気があっていいわね」
隣を歩くルメシアが楽しそうに言った。辺りを見回すその目には、好奇心が宿っている。本来なら、彼女のような公爵令嬢が来るようなところではないだろう。……というか、また彼の隣にいる。神太郎は突っ込まざるを得なかった。
「相変わらず付いてくるんだな、ルメシア」
「何よ、いいじゃない別に。それに、今日の用は私も無関係ってわけじゃないんでしょう?」
「やっぱ異世界転生ってモテるんだなぁ」
「はぁ? 寝惚けないの。というより、アンタこそ私に惚れてるんじゃないの?」
「まぁな」
「え?」
「可愛いし、気が効くし、優しいし、品もあるし、責任感もあるし……」
思いつく限りの褒め言葉を口にする神太郎。その度に、ルメシアの顔はどんどん紅くなっていく。
そして最後に……、
「何より、上司だからな。恋人にしたら、仕事を融通してくれてサボり易くしてくれるだろうし」
そう本音を送ると、彼女の顔は能面のように無表情になった。そして、こう返した。
「アンタだけとは絶対に付き合わない」
その後、神太郎らは繁華街の裏に入っていった。路地は狭くなり、どことなく薄暗くも感じる。自然と人のガラも悪くなっていった。当然、ルメシアもここに来るのは初めてだろう。
「何か、物騒そうなところね」
どこからともなく聞こえてきた怒鳴り声が、彼女にそう漏らさせた。
「神太郎、本当にこんなところなの?」
「一回来たきりなんだが……多分この辺だな」
やがて、彼の記憶にある建物が見えてきた。とは言っても、周りと変わらないボロい一軒家だが。
神太郎はそこのドアをノックをし……返事がないので勝手に入っていった。中は薄暗く人気は感じられなかったが、彼は目的の人物である家主が在宅だと分かっているよう。真っ直ぐベッドへ向かった。そして、その上に転がっている物体を揺らす。
「おい」
「……」
「おい、起きろ」
「あん? ……何だ、神兄ちゃんか」
神太郎が何度か呼び掛けると、家主は寝惚け声で返事しながらやっと身を起こした。若い小柄な男である。恐る恐る様子を伺っていたルメシアに、神太郎は紹介する。
「コイツは弟の三好又四郎。三好兄弟の四番目だ」
「へー、弟さん」
正体が分かったからか、彼女も少しは表情が柔らかくなった。
一先ず、このままじゃ話も出来ないので三人は席に着く。又四郎も寝惚けつつももてなしの茶を出した。茶殻で作った薄い茶だったが。
「で、何の用だよ、神兄ちゃん。彼女を自慢しに来たのか?」
「それもあるが……」
ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、彼は無視して続ける。
「この間、千満姉ちゃんが暗殺者に襲われたんだ。一応、犯人の目星は付いてるが、お前、何か知らないか?」
これが神太郎たちの用件。この間の千満暗殺未遂事件の捜査である。主犯は予想出来ているが、それだけでは断罪出来ない。犯人たちも玄人だからか何も証拠を得られず、何かしら手掛かりが必要だった。
「姉ちゃんが? マジで? 何だよ、俺にやらせてくれればいいのに」
「馬鹿言うな。殺されるぞ。実際、暗殺者の一人は姉ちゃんの連撃を食らわされていたからな」
「ひぇ……。ソイツ、生きてるの?」
「一応手加減していたみたいで、運ばれていったときはまだ息はあったが……。運良く助かっても重い障害が残るだろうな」
「ソイツ、前世に相当悪いことをしたんだろうな」
又四郎がそう言うと、
「いやいや、現世でも悪いことしてるだろう」
神太郎はそう突っ込んだ。そして兄弟で爆笑。そんな二人を呆れながら見比べているルメシアが、一つ質問をする。
「弟さんは何をされてるの?」
「暗殺者」
「暗殺者!?」
兄が答えた。次いで弟が一言付け加える。
「ただの暗殺者じゃない。S級暗殺者だ」
「S級?」
聞き慣れない言葉だったからか、彼女は首を傾げていた。それは神太郎も同じ気持ちだったが、弟のために更に補足する。
「悪いな、コイツは中二病なんだ」
「中二病?」
「ああ、もう中学三年生なのに、まだ中二病なんだ。可哀想に……」
「それは……お気の毒に」
神太郎の嘆く様を見て症状の重さを理解したのか、ルメシアも同情の言葉を掛けた。尤も、当人は全く納得していないようだが。
「おい、変なことを言うな!」
案の定、又四郎が吼えたので神太郎は諭す。
「変なことを言ってんのはお前だろう。何が暗殺者だ。何がS級だ。もっとまともな職に就け」
「折角異世界転生をしたんだぞ。神兄ちゃんみたいなしょぼい門番なんてやってられるか!」
「そもそもS級って何だよ?」
「そりゃ、A級の上だろ」
「Sの前はR。Sの後はT。アルファベットで十九番目だ。Aの前でもなければ、一番上でもない。ちゃんと勉強をしないから、そんな恥ずかしい間違いを犯すんだ」
「ちゃう! Sはスーパーとかスペシャルって意味だ。S級とかSランクとか、S表記はもう市民権を得てるんだぞ」
「それはオタク界隈の話だろう。まぁ、お前がオタクなのは気にしない。異世界転生の知識もお前から得られたんだからな。しかし、生活の方はどうなんだ? 暗殺者とか言ってるが、ちゃんと仕事はしているのか?」
「……まだ依頼はない」
「ほれみろ」
「俺はS級なんだぜ? 俺への依頼はハードルが高いんだ」
「宣伝とか広告とか出してるのか?」
「S級なんだから安売りはしねぇよ。そもそも暗殺の宣伝なんて出来るか」
「じゃあ、どうやって仕事を得るんだ?」
「そりゃ……そのうち依頼人が俺を捜し出して……」
「お前が暗殺者なのを知ってる奴、どのくらいいるんだ?」
「……家族だけ」
……仕事など来るはずがなかった。
「ここまで中二病が酷くなっていたなんて……」
兄は頭を抱えながら嘆いた。隣のルメシアも、今のやり取りで中二病がどういうものなのか理解したよう。
「大丈夫よ。弟さん、いつかきっと良くなるわ」
そして神太郎に同情し、その肩を優しく撫でるのであった……。
当然ながら、又四郎本人は二人の態度に不満噴出である。
「うっせー! 神兄ちゃんこそ、人のこと言えるのかよ。ハーレム作るなんて、それこそ中二病だろ!」
「俺はそのための努力をしている。見ろ、このルメシアも俺の逞しさに惚れてここにいるんだ」
ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、彼は無視して続ける。
「又四郎、お前もただ待っていないで行動してみせろ。行動だ。自分から行動しないと何も得られないぞ」
それは弟を思っての窘めだった。
しかし、馬の耳に念仏。やはり兄弟なのだろう。神太郎が自由気ままに生きているように、又四郎もまた己の道を突き進んでいるのだ。受身という生き方で。
「いや、これは異世界転生で、俺は主人公なんだ。絶対上手くいくんだ!」
「主人公だぁ?」
その弟の宣言に、兄はつい聞き返してしまった。
「そうさ。今まで隠していたけど、俺にはスキルがある」
「スキルぅ?」
「この世界にはスキルというシステムがあって、どの人間にも備わっているんだ。しかし、皆それを認知出来ていない。それは神の領域だからな。けれど、俺だけはそれを知ることが出来る。何せ、この世界に転生するとき神からその力を授けられたんだからな」
「神? 俺は会っていないぞ」
「だろう? それだけで俺が主人公の理由になる。俺は神から特別なスキル『ユニークスキル』を与えられたんだ。そのうちの一つに、『ステータスオープン』ってのがあってな、対象の人物のステータスを見ることが出来るのさ」
「ステータスぅ?」
「まぁ、プロフィールみたいなもんだ。見てろよ……ステータスオープン!」
又四郎はそう叫びながら、神太郎とルメシアの前で掌をスライドさせた。そして、「ふむふむ」と二人に見えない『何か』を閲覧する。
「三好神太郎、十七歳。職業『衛士』。レベルは……12か。取得スキルは『病気耐性(強)』、『酒豪』、『ハゲ防止』の三つ。魔力値は驚異の0! こりゃ驚きだ。戦闘系のスキルも無いし、酷いなー」
又四郎はそれはそれは馬鹿にするように笑った。先ほどの神太郎の『呆れ』への仕返しのつもりなのだろう。因みに、『衛士』とは門番の正式名称だ。
「『酒豪』スキル? そういえば、俺酔い潰れたことないな」
ただ、弟も適当に言っているようではなく、兄にも思い当たる節はあった。
「へー、そんな力が……。凄い。それに『ハゲ防止』ってとても有用だと思うよ。ってか、絶対必要だよ、それ」
ルメシアも何故か熱心に褒める。
次いで、その彼女の番だ。……が、
「ルメシア・ケルヴェイン、十七歳。職業『衛長』。レベルは21。取得スキルは『勇敢Lv1』、『不屈Lv1』、『美肌』。魔力値は220で、取得魔術は《レイフィッシュ》、《アッパーム》など計四個。あと処女で……」
不意を突かれた言葉に、ブー! と茶を噴き出すルメシア。彼女が「おい、コラぁ!」とドスを効かせた抗議をすると、流石の又四郎も「ご、ごめんなさい」と素直に謝った。
それはともかく、神太郎たちはそのステータスとやらを見ることは出来ないが、一応、又四郎のことは信じた。意外な才能を知る。ただ、一つ確認を……。
「それ、魔術とは違う類なんだよな?」
「勿論さー」
「でも、スキルってのはその人物のただの個性って感じがするな」
「それは凡人だからスキルも他愛のないものになってるんだよ。俺ほどのレベルになると、スキルも有能なものばかりだぜ。『剣術Lv9』とか、『状態異常耐性Lv9』とか、『スキル無効化』とか……。因みに、俺のレベルは9999ね」
「うわぁ……。小学生が考えたみたいな数字」
「うるせー! ともかく、俺は選ばれし者なんだ。果報は寝て待て。その時が来るのをジッと耐え忍んでいるのさ」
見事に居直る弟。しかし、現実はどうだ? 兄はそれを突きつける。
「言い分は分かった。……だが、本当に時が解決してくれると思っているのか?」
「……」
「何もせず、ただ待っているだけで勝手に仕事が舞い込んでくると、本当に思っているのか?」
「……ぅ」
「ある日、突然そのドアが叩かれ、依頼が飛び込んでくるとでも思っているのか?」
「く、来るさ! 見てろよ。働かないからって三好家を追放された三男の俺。だけど、その実は一族最強のS級暗殺者。世界に名を轟かせた後で戻って来いって言われても、もう遅い!」
「追放って何だよ……」
「両親を悪徳政治家に殺された超絶美少女が、なけなしの金を持って俺に助けを求めてやっててくるんだ。そんでもって、俺は無料で仇を討ってやって、結果その子に惚れられて最高ラブラブ新生活を送るんだよ!」
高々と宣言される又四郎の将来設計。その構想に神太郎は呆れた。ルメシアも呆れていた。
そして最後に……、
「絶対、やってくる。今にもな!」
又四郎がそう叫びながら家のドアを指した時……、
ガチャ――。
そのドアが本当に開いた。
「「「え!?」」」
「活気があっていいわね」
隣を歩くルメシアが楽しそうに言った。辺りを見回すその目には、好奇心が宿っている。本来なら、彼女のような公爵令嬢が来るようなところではないだろう。……というか、また彼の隣にいる。神太郎は突っ込まざるを得なかった。
「相変わらず付いてくるんだな、ルメシア」
「何よ、いいじゃない別に。それに、今日の用は私も無関係ってわけじゃないんでしょう?」
「やっぱ異世界転生ってモテるんだなぁ」
「はぁ? 寝惚けないの。というより、アンタこそ私に惚れてるんじゃないの?」
「まぁな」
「え?」
「可愛いし、気が効くし、優しいし、品もあるし、責任感もあるし……」
思いつく限りの褒め言葉を口にする神太郎。その度に、ルメシアの顔はどんどん紅くなっていく。
そして最後に……、
「何より、上司だからな。恋人にしたら、仕事を融通してくれてサボり易くしてくれるだろうし」
そう本音を送ると、彼女の顔は能面のように無表情になった。そして、こう返した。
「アンタだけとは絶対に付き合わない」
その後、神太郎らは繁華街の裏に入っていった。路地は狭くなり、どことなく薄暗くも感じる。自然と人のガラも悪くなっていった。当然、ルメシアもここに来るのは初めてだろう。
「何か、物騒そうなところね」
どこからともなく聞こえてきた怒鳴り声が、彼女にそう漏らさせた。
「神太郎、本当にこんなところなの?」
「一回来たきりなんだが……多分この辺だな」
やがて、彼の記憶にある建物が見えてきた。とは言っても、周りと変わらないボロい一軒家だが。
神太郎はそこのドアをノックをし……返事がないので勝手に入っていった。中は薄暗く人気は感じられなかったが、彼は目的の人物である家主が在宅だと分かっているよう。真っ直ぐベッドへ向かった。そして、その上に転がっている物体を揺らす。
「おい」
「……」
「おい、起きろ」
「あん? ……何だ、神兄ちゃんか」
神太郎が何度か呼び掛けると、家主は寝惚け声で返事しながらやっと身を起こした。若い小柄な男である。恐る恐る様子を伺っていたルメシアに、神太郎は紹介する。
「コイツは弟の三好又四郎。三好兄弟の四番目だ」
「へー、弟さん」
正体が分かったからか、彼女も少しは表情が柔らかくなった。
一先ず、このままじゃ話も出来ないので三人は席に着く。又四郎も寝惚けつつももてなしの茶を出した。茶殻で作った薄い茶だったが。
「で、何の用だよ、神兄ちゃん。彼女を自慢しに来たのか?」
「それもあるが……」
ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、彼は無視して続ける。
「この間、千満姉ちゃんが暗殺者に襲われたんだ。一応、犯人の目星は付いてるが、お前、何か知らないか?」
これが神太郎たちの用件。この間の千満暗殺未遂事件の捜査である。主犯は予想出来ているが、それだけでは断罪出来ない。犯人たちも玄人だからか何も証拠を得られず、何かしら手掛かりが必要だった。
「姉ちゃんが? マジで? 何だよ、俺にやらせてくれればいいのに」
「馬鹿言うな。殺されるぞ。実際、暗殺者の一人は姉ちゃんの連撃を食らわされていたからな」
「ひぇ……。ソイツ、生きてるの?」
「一応手加減していたみたいで、運ばれていったときはまだ息はあったが……。運良く助かっても重い障害が残るだろうな」
「ソイツ、前世に相当悪いことをしたんだろうな」
又四郎がそう言うと、
「いやいや、現世でも悪いことしてるだろう」
神太郎はそう突っ込んだ。そして兄弟で爆笑。そんな二人を呆れながら見比べているルメシアが、一つ質問をする。
「弟さんは何をされてるの?」
「暗殺者」
「暗殺者!?」
兄が答えた。次いで弟が一言付け加える。
「ただの暗殺者じゃない。S級暗殺者だ」
「S級?」
聞き慣れない言葉だったからか、彼女は首を傾げていた。それは神太郎も同じ気持ちだったが、弟のために更に補足する。
「悪いな、コイツは中二病なんだ」
「中二病?」
「ああ、もう中学三年生なのに、まだ中二病なんだ。可哀想に……」
「それは……お気の毒に」
神太郎の嘆く様を見て症状の重さを理解したのか、ルメシアも同情の言葉を掛けた。尤も、当人は全く納得していないようだが。
「おい、変なことを言うな!」
案の定、又四郎が吼えたので神太郎は諭す。
「変なことを言ってんのはお前だろう。何が暗殺者だ。何がS級だ。もっとまともな職に就け」
「折角異世界転生をしたんだぞ。神兄ちゃんみたいなしょぼい門番なんてやってられるか!」
「そもそもS級って何だよ?」
「そりゃ、A級の上だろ」
「Sの前はR。Sの後はT。アルファベットで十九番目だ。Aの前でもなければ、一番上でもない。ちゃんと勉強をしないから、そんな恥ずかしい間違いを犯すんだ」
「ちゃう! Sはスーパーとかスペシャルって意味だ。S級とかSランクとか、S表記はもう市民権を得てるんだぞ」
「それはオタク界隈の話だろう。まぁ、お前がオタクなのは気にしない。異世界転生の知識もお前から得られたんだからな。しかし、生活の方はどうなんだ? 暗殺者とか言ってるが、ちゃんと仕事はしているのか?」
「……まだ依頼はない」
「ほれみろ」
「俺はS級なんだぜ? 俺への依頼はハードルが高いんだ」
「宣伝とか広告とか出してるのか?」
「S級なんだから安売りはしねぇよ。そもそも暗殺の宣伝なんて出来るか」
「じゃあ、どうやって仕事を得るんだ?」
「そりゃ……そのうち依頼人が俺を捜し出して……」
「お前が暗殺者なのを知ってる奴、どのくらいいるんだ?」
「……家族だけ」
……仕事など来るはずがなかった。
「ここまで中二病が酷くなっていたなんて……」
兄は頭を抱えながら嘆いた。隣のルメシアも、今のやり取りで中二病がどういうものなのか理解したよう。
「大丈夫よ。弟さん、いつかきっと良くなるわ」
そして神太郎に同情し、その肩を優しく撫でるのであった……。
当然ながら、又四郎本人は二人の態度に不満噴出である。
「うっせー! 神兄ちゃんこそ、人のこと言えるのかよ。ハーレム作るなんて、それこそ中二病だろ!」
「俺はそのための努力をしている。見ろ、このルメシアも俺の逞しさに惚れてここにいるんだ」
ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、彼は無視して続ける。
「又四郎、お前もただ待っていないで行動してみせろ。行動だ。自分から行動しないと何も得られないぞ」
それは弟を思っての窘めだった。
しかし、馬の耳に念仏。やはり兄弟なのだろう。神太郎が自由気ままに生きているように、又四郎もまた己の道を突き進んでいるのだ。受身という生き方で。
「いや、これは異世界転生で、俺は主人公なんだ。絶対上手くいくんだ!」
「主人公だぁ?」
その弟の宣言に、兄はつい聞き返してしまった。
「そうさ。今まで隠していたけど、俺にはスキルがある」
「スキルぅ?」
「この世界にはスキルというシステムがあって、どの人間にも備わっているんだ。しかし、皆それを認知出来ていない。それは神の領域だからな。けれど、俺だけはそれを知ることが出来る。何せ、この世界に転生するとき神からその力を授けられたんだからな」
「神? 俺は会っていないぞ」
「だろう? それだけで俺が主人公の理由になる。俺は神から特別なスキル『ユニークスキル』を与えられたんだ。そのうちの一つに、『ステータスオープン』ってのがあってな、対象の人物のステータスを見ることが出来るのさ」
「ステータスぅ?」
「まぁ、プロフィールみたいなもんだ。見てろよ……ステータスオープン!」
又四郎はそう叫びながら、神太郎とルメシアの前で掌をスライドさせた。そして、「ふむふむ」と二人に見えない『何か』を閲覧する。
「三好神太郎、十七歳。職業『衛士』。レベルは……12か。取得スキルは『病気耐性(強)』、『酒豪』、『ハゲ防止』の三つ。魔力値は驚異の0! こりゃ驚きだ。戦闘系のスキルも無いし、酷いなー」
又四郎はそれはそれは馬鹿にするように笑った。先ほどの神太郎の『呆れ』への仕返しのつもりなのだろう。因みに、『衛士』とは門番の正式名称だ。
「『酒豪』スキル? そういえば、俺酔い潰れたことないな」
ただ、弟も適当に言っているようではなく、兄にも思い当たる節はあった。
「へー、そんな力が……。凄い。それに『ハゲ防止』ってとても有用だと思うよ。ってか、絶対必要だよ、それ」
ルメシアも何故か熱心に褒める。
次いで、その彼女の番だ。……が、
「ルメシア・ケルヴェイン、十七歳。職業『衛長』。レベルは21。取得スキルは『勇敢Lv1』、『不屈Lv1』、『美肌』。魔力値は220で、取得魔術は《レイフィッシュ》、《アッパーム》など計四個。あと処女で……」
不意を突かれた言葉に、ブー! と茶を噴き出すルメシア。彼女が「おい、コラぁ!」とドスを効かせた抗議をすると、流石の又四郎も「ご、ごめんなさい」と素直に謝った。
それはともかく、神太郎たちはそのステータスとやらを見ることは出来ないが、一応、又四郎のことは信じた。意外な才能を知る。ただ、一つ確認を……。
「それ、魔術とは違う類なんだよな?」
「勿論さー」
「でも、スキルってのはその人物のただの個性って感じがするな」
「それは凡人だからスキルも他愛のないものになってるんだよ。俺ほどのレベルになると、スキルも有能なものばかりだぜ。『剣術Lv9』とか、『状態異常耐性Lv9』とか、『スキル無効化』とか……。因みに、俺のレベルは9999ね」
「うわぁ……。小学生が考えたみたいな数字」
「うるせー! ともかく、俺は選ばれし者なんだ。果報は寝て待て。その時が来るのをジッと耐え忍んでいるのさ」
見事に居直る弟。しかし、現実はどうだ? 兄はそれを突きつける。
「言い分は分かった。……だが、本当に時が解決してくれると思っているのか?」
「……」
「何もせず、ただ待っているだけで勝手に仕事が舞い込んでくると、本当に思っているのか?」
「……ぅ」
「ある日、突然そのドアが叩かれ、依頼が飛び込んでくるとでも思っているのか?」
「く、来るさ! 見てろよ。働かないからって三好家を追放された三男の俺。だけど、その実は一族最強のS級暗殺者。世界に名を轟かせた後で戻って来いって言われても、もう遅い!」
「追放って何だよ……」
「両親を悪徳政治家に殺された超絶美少女が、なけなしの金を持って俺に助けを求めてやっててくるんだ。そんでもって、俺は無料で仇を討ってやって、結果その子に惚れられて最高ラブラブ新生活を送るんだよ!」
高々と宣言される又四郎の将来設計。その構想に神太郎は呆れた。ルメシアも呆れていた。
そして最後に……、
「絶対、やってくる。今にもな!」
又四郎がそう叫びながら家のドアを指した時……、
ガチャ――。
そのドアが本当に開いた。
「「「え!?」」」
40
あなたにおすすめの小説
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる