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ましろ
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「ふーん、まだまだ荒削りだけど、なかなかいいじゃねえか」
「本当ですか?良かった」
学校が始まって最初の日曜日。
樹は健悟に呼び出されていた。
聞かれたことは当然、試験に発表するための曲についてだ。
あれから樹なりに作曲作業を進めて、なんとか形にだけはしていた。
健悟は楽譜を見て時折メロデイを口ずさんでいる。
それが本当にかっこいい。
樹はそれに思わず見惚れてしまう。
健悟ならアイドルに間違いなくなれるだろう。
「なんだよ、人の顔ジロジロ見やがって」
健悟に睨まれて、樹は後ずさった。
やはり怖い。
「健悟、虐めはよくないよ?」
ふんわりとした声がどこからかして、樹は慌てて周りを見渡した。
健悟といえば、頭を抑えてため息を付いている。
「よっと」
ふわぁっと彼は空から下りてきた。
どうやら近くの木の上にいたらしい。
重力なんて関係ないようだ。
「真城、お前は急に現れるな!」
真城と呼ばれた彼は口に手を当ててくすくす笑った。
「健悟が小さい子を虐めてないか心配だったから」
「はあー?」
「こんにちは、樹くん」
真城にまっすぐ見つめられて、樹は困ってしまった。それは、彼があまりにも綺麗だったからだ。
「僕は花山真城。二年生のマネジメント科だよ。
カメラマン目指してる」
「えーと」
樹がどう返事をしたものか迷っていると、健悟にぎゅ、と抱き寄せられた。
それにまたドキドキしてしまう。
「お前な!一年を困らせんなよ」
「健悟ずるーい。健悟の方がよっぽど困らせてるくせに」
「はあ?いつ困らせたんだよ?とりあえずお前はあっちいけ。しっしっ」
「ひっどーい!」
二人の様子に樹はつい声を上げて笑ってしまった。
健悟と真城にじっと見つめられてしまう。
樹は口を抑えた。
「あ、えーと…すみません。お二人が仲良しなのかなって」
樹の言葉に健悟と真城が静かに互いから離れる。
「ま、まあダチではあるけれど」
「そう。お友達だよね。でも」
健悟と真城が同時にお互いを指差す。
「「こいつにだけは絶対に負けたくない!!!」」
二人が声を合わせて言うので、樹はまた噴き出してしまうのだった。
✣✣✣
「ふう、やれやれ」
樹はようやく健悟から解放されて、一人校内の廊下を歩いていた。
夢プロでは、休みの日でもボイストレーニング室や、この前使用したレコーディングスタジオ、音楽室、体育館、グラウンドまで学校の設備を自由に使うことができる。
使用時間は人数を問わず一時間半までだ。
今日、樹は音楽室にあるピアノを借りることにしていた。もうすぐ自分の番である。
音楽室に向かうと軽やかなピアノ演奏が聞こえて、樹は思わず聞き入ってしまった。
そっと中を覗くと、その人と目が合う。
そこにいたのは渚だった。
「あ!渚先輩!お疲れ様です!!」
「次は君の番だったんだね?」
にこやかな表情で渚が近寄ってくる。
やはり本物のアイドルはオーラが違うと樹が固まっていると、優しく抱き締められた。
「樹くん、指はまだ治っていないみたいだね」
樹の心臓がどくどくと鳴る。
うるさ過ぎて、耳を塞ぎたくなった。
指の怪我なら、もう気にならない。
ただ、克樹や風が心配するからという理由で、一番深かった傷にだけ絆創膏を貼っている。
「君が良ければ、少し話がしたい」
「え?」
何を話すのだろうと樹は彼の顔をぽかんと見上げた。
「君は本当に可愛らしい子だね。独り占めしたくなる」
「あの渚先輩、俺にピアノを教えてくれませんか?忙しいとは思うんですけど」
そうか、と彼は呟いて笑った。
「いいよ。
君のピアノ、聞かせてほしいな」
「はい!お願いします!」
樹はピアノの前に座った。
一度深呼吸する。
鍵盤に手を置く。
あとは流れに沿って緩やかな旋律を奏でる。
健悟と一緒に今日加えたフレーズもある。
大事な一曲だ。
弾き終わると、渚が拍手してくれる。
「君らしい優しい曲なんだね」
渚に後ろから細かい弾き方について教えてもらう。
(俺、めちゃくちゃ贅沢してる!)
渚の教え方は丁寧で分かりやすかった。
すぐに一時間半が経ってしまう。
「あの!渚先輩!!今日はありがとうございました!」
バッと頭を下げると、渚にぽん、と頭を撫でられた。
「樹くん、またお互いに時間が合ったらやろう」
そんな渚の言葉が嬉しかった。
「本当ですか?良かった」
学校が始まって最初の日曜日。
樹は健悟に呼び出されていた。
聞かれたことは当然、試験に発表するための曲についてだ。
あれから樹なりに作曲作業を進めて、なんとか形にだけはしていた。
健悟は楽譜を見て時折メロデイを口ずさんでいる。
それが本当にかっこいい。
樹はそれに思わず見惚れてしまう。
健悟ならアイドルに間違いなくなれるだろう。
「なんだよ、人の顔ジロジロ見やがって」
健悟に睨まれて、樹は後ずさった。
やはり怖い。
「健悟、虐めはよくないよ?」
ふんわりとした声がどこからかして、樹は慌てて周りを見渡した。
健悟といえば、頭を抑えてため息を付いている。
「よっと」
ふわぁっと彼は空から下りてきた。
どうやら近くの木の上にいたらしい。
重力なんて関係ないようだ。
「真城、お前は急に現れるな!」
真城と呼ばれた彼は口に手を当ててくすくす笑った。
「健悟が小さい子を虐めてないか心配だったから」
「はあー?」
「こんにちは、樹くん」
真城にまっすぐ見つめられて、樹は困ってしまった。それは、彼があまりにも綺麗だったからだ。
「僕は花山真城。二年生のマネジメント科だよ。
カメラマン目指してる」
「えーと」
樹がどう返事をしたものか迷っていると、健悟にぎゅ、と抱き寄せられた。
それにまたドキドキしてしまう。
「お前な!一年を困らせんなよ」
「健悟ずるーい。健悟の方がよっぽど困らせてるくせに」
「はあ?いつ困らせたんだよ?とりあえずお前はあっちいけ。しっしっ」
「ひっどーい!」
二人の様子に樹はつい声を上げて笑ってしまった。
健悟と真城にじっと見つめられてしまう。
樹は口を抑えた。
「あ、えーと…すみません。お二人が仲良しなのかなって」
樹の言葉に健悟と真城が静かに互いから離れる。
「ま、まあダチではあるけれど」
「そう。お友達だよね。でも」
健悟と真城が同時にお互いを指差す。
「「こいつにだけは絶対に負けたくない!!!」」
二人が声を合わせて言うので、樹はまた噴き出してしまうのだった。
✣✣✣
「ふう、やれやれ」
樹はようやく健悟から解放されて、一人校内の廊下を歩いていた。
夢プロでは、休みの日でもボイストレーニング室や、この前使用したレコーディングスタジオ、音楽室、体育館、グラウンドまで学校の設備を自由に使うことができる。
使用時間は人数を問わず一時間半までだ。
今日、樹は音楽室にあるピアノを借りることにしていた。もうすぐ自分の番である。
音楽室に向かうと軽やかなピアノ演奏が聞こえて、樹は思わず聞き入ってしまった。
そっと中を覗くと、その人と目が合う。
そこにいたのは渚だった。
「あ!渚先輩!お疲れ様です!!」
「次は君の番だったんだね?」
にこやかな表情で渚が近寄ってくる。
やはり本物のアイドルはオーラが違うと樹が固まっていると、優しく抱き締められた。
「樹くん、指はまだ治っていないみたいだね」
樹の心臓がどくどくと鳴る。
うるさ過ぎて、耳を塞ぎたくなった。
指の怪我なら、もう気にならない。
ただ、克樹や風が心配するからという理由で、一番深かった傷にだけ絆創膏を貼っている。
「君が良ければ、少し話がしたい」
「え?」
何を話すのだろうと樹は彼の顔をぽかんと見上げた。
「君は本当に可愛らしい子だね。独り占めしたくなる」
「あの渚先輩、俺にピアノを教えてくれませんか?忙しいとは思うんですけど」
そうか、と彼は呟いて笑った。
「いいよ。
君のピアノ、聞かせてほしいな」
「はい!お願いします!」
樹はピアノの前に座った。
一度深呼吸する。
鍵盤に手を置く。
あとは流れに沿って緩やかな旋律を奏でる。
健悟と一緒に今日加えたフレーズもある。
大事な一曲だ。
弾き終わると、渚が拍手してくれる。
「君らしい優しい曲なんだね」
渚に後ろから細かい弾き方について教えてもらう。
(俺、めちゃくちゃ贅沢してる!)
渚の教え方は丁寧で分かりやすかった。
すぐに一時間半が経ってしまう。
「あの!渚先輩!!今日はありがとうございました!」
バッと頭を下げると、渚にぽん、と頭を撫でられた。
「樹くん、またお互いに時間が合ったらやろう」
そんな渚の言葉が嬉しかった。
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