ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ

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手紙

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スバルはフリースクールからの帰り道、スクールバスに乗って帰宅する。バスから降りて長屋から少し離れたポストを見るのが日課になっている。スバルは今日もいつも通りポストの中を見た。
一通、ピンク色の封筒が入っている。宛名はヒメリだった。
差出人を見てみたがスバルはその文字を読み取ることが出来なかった。すごく癖のある文字だ。まるで有名人のサインのようである。気になったが、とりあえず長屋に入る。

「兄ちゃん、お帰りー!」

「ただいま、オリオ。ヒメ兄ちゃんは?」

「この間ピーチパイを注文した人から注文が入ったんだって!またピーチパイ焼いてるよ!」

オリオが無邪気に笑う。

「あれは美味かったもんね」

「うん、美味かった。で、それなに?」

オリオに手紙を指差されて、スバルは頷いた。

「ヒメ兄ちゃんに手紙。渡してくる」

「一緒におやつ貰ってきてね!」

スバルが厨房に入ると、ヒメリはちょうど窯にパイを入れた所だった。

「お帰り、スバル。お腹が空いたのか?」

「ヒメ兄ちゃんに手紙」

スバルが手紙を渡すとヒメリも差出人を確認している。スバルは気になってヒメリに聞いてみた。よく考えると、自分たちはヒメリのことをあまり知らない。こんなに一緒にいるのにだ。

「それ、誰から?」

「妹からだよ」

「ヒメ兄ちゃんって妹がいるんだ」

ヒメリは笑った。

「そういえば言っていなかったな。つい皆知ってるって思っていたよ」

ヒメリは器用に封筒を開けて中身を取り出す。
そしてそれを読み始めた。

「ふーん」

「なんて書いてあったの?」

いつものスバルなら遠慮して聞かなかっただろう。だが、今日は何故だか聞かざるを得なかった。ヒメリが笑う。

「この間のパーティは覚えているか?」

「うん、すごく怖かったよね」

「また例のペテルギウス三世が動き出したらしいっていう噂だ。妹も学校で薬について習ったらしい」

「へえ、ヒメ兄ちゃんの妹さんって学生なんだ?」

「あぁ。スバルと同い年だぞ」

「えー?」

「スバル、お帰り」

クロードがふらりとやってくる。最近ヒメリとクロードの様子が変わったとスバルは思っていた。
二人が一緒にいるとなんだか、ハートが飛び散っている様に見えるのである。
初めは気の所為かと思っていたが、そんなことはなかった。幸せそうな二人を見ると、スバルもなんだか嬉しくなる。

ヒメリがクロードにも手紙の内容を話している。

「あいつは本当に懲りねえな」

クロードが忌々しそうに呟く。
スバルは今日は何故か、理由を聞かずにはいられなかった。
それで答えてもらえなくても今日は平気そうだ。

「クロー兄ちゃんとペテルギウスって、二人の間に何かあったの?」

「スバル、なかなか察しがいいな。
昔、俺とあいつは同級生だったんだよ。
学生時代、あいつはあんなに派手なやつじゃなかったから驚きだ」

クロードの言葉にヒメリも驚いていた。
皆、まだお互いのことをほとんど何も知らない。だが、毎日少しずつ新たな面を知って好きになっていく。
スバルはふと父親のことを思い出していた。
酒を飲んでは暴れる父親のことを。

「スバル、大丈夫か?」

ヒメリが顔を覗き込んでくる。自分が暗い表情をしていると、ヒメリは必ず声を掛けてくれる。

「父さんのこと考えてた」

スバルは正直に話した。ヒメリにぎゅっと抱き締められる。

「父さん、このまま死んじゃうの?」

「それは誰にも分からない。でもスバルは自分の人生を大切にするんだ」

「俺の…人生?」

スバルはヒメリを見つめた。ヒメリはやはり今日も美しい。

「スバルはもっと幸せになれる。俺が保証する」

「幸せ…」

スバルにはまだよく分からなかった。今だって充分幸せだ。だが、更にその先に道は広がっているのだろうか。
そう考えるとその先に行ってみたいと思う。
これから自分がどこまで行けるのか試したい。
そんな考えがどこからか生まれてきて、スバルは自身に戸惑った。それは紛れもなく希望の光だ。

「ヒメ兄ちゃん、俺もちゃんと大人になれる?」

「もちろんだよ、スバル」

ヒメリに頭を撫でられる。

「そのためには毎日勉強したり遊んだりしなきゃな」

クロードにも言われて、スバルは頷いていた。
もっと自分に力を付けよう、どこまでも歩いていけるように。スバルはそう、一人決意していた。
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