ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
70 / 85

しおりを挟む
その日の夜、テレスは自分の屋敷で宴を開いて今回の戦いに参加した者全員を労ってくれた。ペテルギウスは取り逃がしたが、平和な国を取り戻すことが出来たからと。もうこんなことがないようにする、という決意もこの宴には込められているようだ。

「クロード、ヒメリ」

テレスに呼ばれて二人は彼女に近付いた。周りの者は飲んだり食べたり話したりと忙しそうである。

「お主ら、婚約をしているのに指輪もせんで」

ぷりぷり、という効果音がしそうな表情でテレスが言う。ヒメリとクロードはお互いを見つめ合ってぱっと顔を反らした。
最近戦いばかりで、二人きりで過ごしていなかった。しかも指輪のこともヒメリはちらちらと思っていたのだが自分から切り出せなかったのである。それはおそらくクロードもだ。クロードにいつの間にか手を握られている。ヒメリはそれをそっと握り返した。

「せっかくじゃ。妾が指輪を特別に作らせた。ロウや」

「は!」

ロウが巨躯に似合わない豪奢な小箱を慎重に運んでくる。

「開けてみぃ」

テレスに促されて、ヒメリは小箱を開けた。

「わ!」

クロードも隣から覗き込んでくる。

「すごいな、銀細工じゃないか」

二人の反応にテレスが満足そうに笑った。

「ヒメリはイレギュラーに愛された子じゃ。
ちゃんとそれは汲んでおる」

ヒメリの指輪には青、赤、黄の宝石が嵌め込まれている。そう、ダンジョンツリーでヒメリが嵌めていたブレスレットと同じである。

「ほれ、着けてみぃ」

テレスに促され、ヒメリとクロードは指輪を左手の薬指に嵌めてみた。キラリ、と指輪が輝く。

「うむ。二人共、永く健やかにな」

ヒメリは今更気が付いていた。もうテレスたちとも別れの時が来ていることを。自分たちはクインを目指して、ラスタニカ港に来ているのだ。ここに来たのも、テレスやロウたちと出会ったのもすべて偶然なのだ。これが運命だったというなら自分の幸運に感謝せねばならない。

「テレス様」

ヒメリはテレスの白い両手を握った。

「良くしてくださり、本当にありがとうございます」

「ヒメリや、そなたは可愛い子じゃ。
幸せになれよ」

「テレスちゃん、ロウ、本当に世話になった」

「うむ。クロード、良きパートナーとしてヒメリを支えてやるのじゃぞ」

「はい」

「さ、湿っぽいのは終わりじゃ。たらふく食ってよく休め。明日には出発するのじゃろ?」

「はい」

「ヒメリや、妾の近くにおいで」

ヒメリは言うとおりにした。彼女の前で屈むように言われる。

「綺麗な赤毛だったのに儀式で持って行かれてしまったな」

「髪ならまた伸びますから」

「そうなんじゃがな」

テレスはそっとヒメリの髪の毛を指で梳いた。

「少し揃えてやろう。ましになるじゃろ」

テレスは鮮やかな手さばきで髪の毛を揃えてくれた。

「うむ。せっかく結婚するのだから綺麗でなくてはな」

「ありがとうございます」

テレスは寂しそうに笑った。ヒメリも同じくらい寂しくてテレスを抱きしめてしまった。

「テレス様、また会えますよね?」

「おやおや、ヒメリは本当に可愛らしいのう。大丈夫じゃ、我々は遠く離れても必ず繋がっておる」

テレスの力強い言葉にヒメリは少し勇気をもらえた気がした。
少しの間の冒険だったが、随分長いことここにいたような気がする。

寝る仕度を整えて、ヒメリがベッドに座ってお茶を飲んでいるとクロードがやって来る。

「ヒメリ」

クロードが隣に腰かけて来る。ヒメリは彼にもたれかかった。

「髪型可愛いな」

そう言いながらクロードが頭を撫でてくれる。

「ラスタニカに着いたらクインはすぐです。俺、兄さんに会うのちょっと怖い」

そう本音をぶつけるとクロードがぎゅっと抱き寄せてくれた。

「ヒメリは自分の気持ちをちゃんと話せばいいんだ。焦らなくていい」

二人はそっと唇を重ねた。久しぶりのキスはまるで麻薬のようで夢中になって貪ってしまう。

「好きだよ」

クロードの言葉がとにかく嬉しくて、ヒメリは彼に抱き着いたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、 ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。 強く、知的で、頼れる大人の男。 その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。 ──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。 「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」 そんな言葉には、もう慣れていた。 けれど本当の心は、 守られたい。愛されたい。 そして、可愛いと思われたい。 その本心に気づいてしまった来夢は、 本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。 これは、 愛されることを知った男と、 そのすべてを抱きしめたアイドルの、 とても幸せな恋の話。 独占欲強めな年下アイドル (櫻井 来夢)   × 愛に飢えた有能マネージャー (本郷 ルカ) ーー 完結しました! 来週以降、後日談・番外編を更新予定です。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

処理中です...