異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ

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あれから数年が経過している。

「シャナお兄ちゃん?何してるの?隠れないとマヨイお姉ちゃんに見つかるよ」

「…見てる」

トビアこと通称とびすけは、兄貴分であるシャナの後ろを付いて歩くことが多かった。今はみんなで隠れんぼをして遊んでいるのだが、シャナはそんなことはどうでもいいらしく、壁に掴まって何かを窺っている。とびすけは時々、シャナが何を言っているか分からない時がある。シャナは普段、異常なまでに言葉数が少ないからだ。

「何を見てるの?」

「とうさんたち」

え!ととびすけもシャナの背中に掴まって様子を窺った。確かに翔吾とルネシア、ピンフィーネの姿が見えた。

この3人を子どもたちは父と母として認識している。
大人たちがなにを言っているのか、とびすけは気になった。シャナも何も言わず勝手に拝借した端末を取り出す。
もうどうすればいいのか、彼にもよくわかっているのだ。シャナに手を緩く握られ、大人たちからなるべく離れる。とびすけは波導を使い、彼ら大人たちの言葉が端末から聞こえるよう設定した。ルネシアに気付かれないよう十分気を付ける。

「ふうん、海か。デートには良さそうだな」

ピンフィーネの楽しそうな声がする。

「子どもたちも一緒に連れて行こうと思っていて」

翔吾の言葉にルネシアも嬉しそうに頷く。

「皆で遊べたら楽しそうだもんね」

龍の加護は完全に復活し、モンスターの脅威も減っている。

「でもの傍だ。気を付けて行けよ」

魔王城は結局取り壊せなかった。取り壊そうとすると、死人が出たり事故が起きたりと、必ず邪魔が入る。結局、魔王城を避けるようにして連邦国家は作られた。城の中に入ると異世界に繋がっていると、子供たちの間で広く噂になっている。遊びで中に入った何人かの子供がいなくなったと最近報道されたばかりだ。

「どうしよう、魔王城だって。僕たち食べられちゃうよ」

とびすけがシャナを見つめると、彼は薄く笑った。その場にどっかりと座り込む。シャナは年齢より遥かに落ち着いた性格の持ち主だった。彼は気が乗ると饒舌になる。

「いい機会じゃないか。魔王城を俺たちで壊してやろうぜ」

「えぇ!!」

とびすけはその場で軽く飛び上がった。龍なので飛ぶことも可能なのだが、普段は人型でいる。

「とびすけ!!シャナ!!こっちに隠れるのは禁止って言ったよ!」

やって来たのはマヨイ、チサト、ルシアナである。ルシアナは通称ルーと呼ばれていた。

シャナが笑う。

「おいマヨイ。お前の城、ぶち壊すがいいな?」

「いいけどさ」

いいのか!!と内心驚いたとびすけである。

「二人で何話してたの?」

マヨイの質問にシャナは簡単に答えた。

「え?パパいたの?」

「珍しいだろ。ルネかあさんもいたぞ」

「レアキャラ過ぎる…」

チサトがポソっと呟いた。

「とびすけの波導によれば、とうさんたちは俺たちを海に連れて行ってくれるらしいぜ」

「海?!」

女の子たちが一斉に悲鳴をあげる。海というものがどんなものか、子どもたちは翔吾が読み聞かせてくれた絵本でしか知らなかった。

「ねえ、もしかしてそれって旅ってこと?」

ルーがおそるおそるシャナに尋ねる。

「そうだぞ、ルー。杖の手入れを忘れるなよ。俺たちで魔王城を壊すんだからな」

「なんで海に行くのが魔王城を壊すことになるの?」

チサトが首を傾げると、シャナは端末を弄りだす。

「これを見ろ。チサト」

チサトもそれを見て納得したらしい。頷いた。

「海の近くに魔王城はあるんだね」

近く、とは言っても約50キロは離れているのだが、子どもたちはやる気満々である。

「で、でも本当に子供がいなくなってるんでしょ?僕たちだけじゃ」

とびすけは怖がりである。一生懸命皆を止めようとした。

「トビア、お前は俺が守ってやる」

「っ…!!!」

シャナの言葉にときめいてしまうとびすけである。この気持ちは何なのだろう、ととびすけはずっと考えていた。だが分かるはずもない。とびすけはまだ5歳なのだ。

「とりあえずもうすぐ勉強の時間だろ、この辺で解散な」

シャナは拝借した端末を返しにいかなければならない。それにとびすけも付き合うことにした。二人は簡易ギルドにそーっと忍び込む。

「殿下、トビア様、なにをされているのですか?」

ニッコリ笑ったフィーナに見つかってしまった。

「あ、えーと」

フィーナは怒るとものすごく怖いと子供たちの間で定評がある。シャナは笑った。

「ちょっと借りただけ。地図を見たかったから。勉強してくる!」

嘘ではないがそれだけでは苦しい言い訳だ。シャナはとびすけの手を握ると逃げるように走り出した。

「お兄ちゃん、大丈夫かな?」

「フィーナ母さんはなんだかんだ厳しいからなぁ」

やれやれ、とシャナが首を振る。

「怒られるなら僕も一緒だからね」

とびすけの言葉にシャナは優しく微笑んだのだった。シャナの笑顔がなによりもとびすけは好きだった。普段からクールな印象を与えるシャナである。だが自分の前では楽しそうに笑ってくれる。それが特別感があって嬉しかった。
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