【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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第一章

46 -ルークside- ⑯

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 目の前にいるサラのこと以外、何も考えられない。ただひたすら彼女に触れたい、何者も近づけさせたくない、そんな想いが頭の中を占めていた。

「ルーク?どうし──」

 サラが言い終わる前に、俺は彼女を強く抱きしめた。小柄な身体は腕の中にすっぽり収まり、花の甘い香りがした。

「サラ……、今まで君を傷つけるような態度を取ってきて、本当にごめん。…愛してる」
「!!……ルーク。そんなの、いいの。私も…愛してるわ」

 サラの告白に昂揚した俺は、口づけを交わし、その唇に夢中になった。雨が降り始めてようやく唇を離すと、熱の籠ったまなざしを向けられて離れがたくなった。

「中に入ろう。風邪をひく」
「うん」

 頬を紅潮させて笑うサラが、何とも愛らしく見えた。


 その後、後ろ髪を引かれる思いでサラの元を後にし、俺は孤児院に戻った。帰りが遅くなって院長にあれこれ言われたが、サラのことで頭がいっぱいで何も耳に入ってこない。

「ルーク!聞いてるの!?……はぁ、全く。もういいわ。ちょっとユイの様子を見てきてくれる?長い間雨に濡れてたから、もしかしたら具合を悪くしてるかもしれないわ」

 なぜ院長は俺を行かせるんだ?ユイとはこの2年間、だ。様子を見に行かせるなら、一番懐いているリリィか、頼りになるユアンの方がいいだろうに。

 そう思ったが、門限を破ってしまった手前、口答えをするわけにもいかない。仕方なく俺は、ユイの部屋へと足を運んだ。ノックをするとユイはすんなりとドアを開けた。でも顔色が悪く、俯いて俺と目を合わせようとしない。

「夕食の時間だけど、食べられる?」
「……ごめん、気分が悪くて。食事はいらない」
「そう、分かった」

 返事だけ聞くと、俺はすぐにその場を離れ、院長にそのことを報告した。子ども達は心配そうに何かを話していたが、そんな話は耳に入らず、俺はサラのことばかり考えていた。


 サラと恋人同士になってから、俺は連日サラの元を訪れた。彼女がそばにいないと落ち着かず、抱きしめると心が安らいだ。いつでも快く迎えてくれるサラに、愛しさが募っていくのを感じた。

「私、ルークとずっと一緒にいたい…」

 空が爽やかに晴れ渡るある日の午後、村外れの小さな丘で一緒に過ごしていたとき、サラがぽつりと呟いた。最近は村の人たちに好奇の目を向けられるため、人気のない場所で二人きりの時間を過ごしていた。

「じゃあ、結婚する?」

 俺がそう言うと、サラは一瞬嬉しそうな顔をしたものの、すぐに不満げな表情になった。

「なんでそんなに軽く言うの?もっとちゃんとプロポーズして!」
「ははっ、ごめん」

 頬を膨らませて言うサラの正面に跪き、今度は手を取って改めて言った。

「サラ、俺と結婚してください」
「……はい!」

 俺はサラを抱きしめると、サラも俺の背中に腕を回して抱きしめ返した。そして、まるで結婚を誓い合うかのように、そっと口づけを交わした。


 その翌日、サラにプロポーズしたことをシグルド司祭に報告するため、教会の執務室を訪れた。するとシグルド司祭は、今まで見たことのないような怒りを滲ませた顔で、声を押し殺しながら聞き返してきた。

「本気で言っているのか?ルーク」
「本気です。成人したら、サラと結婚します」

 どうしてそんなに怒るのかが分からない。俺はただ愛する人と共に生きたいだけなのに。

「ここ最近の行動には違和感を感じていたが、まさかここまでとは…。お前は、ユイを何だと思っているんだ!」
「…?なぜそこで、ユイが出てくるんです?」
「──!!…今まで静観していた、私がばかだった。すぐにお前の家に手紙を送る。返事が来るまで、お前は外出禁止だ」
「はっ?いきなり何を──」
「いいから、言う通りにするんだ!」

 納得できなかったが、シグルド司祭に気圧されて言われるがままに執務室を出た。裏口から外に出ようとドアを開けると、そこでユイが地面に座り込んでいるのが見えた。

 また気分が悪いのか?

 もしそうなら、さすがにこのまま放置できない。そう思って、動く気配のないユイに声をかけた。

「そんなところで何してるの?気分でも悪い?」

 ユイの正面に跪いて、顔色を確かめるように覗き込んだ。ユイは一瞬驚いたように目を見開くと、紫色の瞳を揺らし、一粒の涙を零した。

「僕のことは、…もう好きじゃない?……僕じゃ…ダメだった…?」

 一粒の涙は次第に大粒となり、微笑むユイの頬を濡らした。その表情を見た途端、俺はなぜか胸が苦しくなり、それと同時に頭に激痛が走った。


『ユイが俺を通して別の誰かを見ているのは、前から分かってた』

『ごめん。僕がいつまでも、あの人…理人さんのことを引きずっているせいで……』


 なんだ…?これは…俺とユイの声?


「……それは、あなたの方でしょ?あなたが見ていたのは、俺じゃない。リヒトって人だ。だから俺は、俺を見てくれるサラを選んだ」


 俺の意思とは無関係に、そんな言葉が口をついて出た。

 なんで俺、こんなことを……。

 突然よぎった記憶に混乱しながら、俺はその場を後にした。なぜか、それ以上ユイの顔を見ることができなかった。


 さっき頭に響いたあの会話は一体何だったんだ…。ユイとはあんな会話をした覚えはないし、それほど親しい関係にはなっていない。



 なのになんで、こんなに胸が苦しいんだろう──。



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