【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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第二章

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 収穫祭に向けた飾り付けが日に日に街を彩り、行き交う人々も多くなっていった。王都での収穫祭は3日に渡って行われるらしく、近隣諸国からも見物客が大勢訪れるほどのお祭り騒ぎになるそうだ。各地区の主要な広場では屋台が出店し、ダンス大会など様々な催しも行われるみたいだ。
 それを聞いたとき、僕は以前ルークと「次の収穫祭では一番最初に踊ろう」と約束したことを思い出した。約束した翌年の収穫祭は前日から雨が降り続き、当日は野外での催しは全て中止になってしまった。結局、あの時のルークとの約束は果たされないまま、これからもきっと、果たされることはないだろう。


 収穫祭が近づくにつれ、<ノクターナ>の客足もまた多くなった。目が回るような忙しさが連日続き、数日前に判明した自分のスキルについて、考える余裕が全くなかった。

『いいかね?スキル発動の際は細心の注意を払い、信用の足らん人間にはくれぐれも口外しないことだ。<言霊>というのは、発した言葉が現実に影響を与え、様々な事象を引き起こす。もちろん、その事象にも限界はあるが…』

 鑑定をしてくれた司教様がそう教えてくれた。しかし、発動条件や効果についてはっきりせず、帰り道も辻馬車に揺られながらアパートに着くまでずっと考え込んでしまった。おかげでまともに観光することもできず、行きがけに嗅いだ、あの美味しそうな匂いの正体も分からずじまいだ。
 大聖堂に行った次の日、ウィルさんとディーンさんから観光は楽しかったかと聞かれたが、スキルについては何も聞いてこなかった。基本的にスキルを持つ者は、自分のスキルを他人に教えない。知られることで悪用されたり、犯罪に巻き込まれるリスクがあるからだ。それが分かっているから、敢えて二人は僕に聞いて来ないのかもしれない。そういう気遣いが、素直にうれしかった。

 二人にだったら、言ってもいいかもしれない。折を見て相談してみよう。

 そう思いながらも、結局仕事に忙殺されて収穫祭が終わるまで何も話せず、ようやく話せたのは、年の瀬間近の仕事納めの晩だった。店を閉めたあと、僕がスキルのことで相談したいと切り出すと、二人は姿勢を正して真剣に話を聞いてくれた。

「<言霊>ねぇ…。なんだか、これまでのことが腑に落ちたわ」
「そうだな」

 納得したように頷き合う二人を見て、まったく心当たりのない僕は焦りが募った。

「どういうことですか?」
「アルが産まれたとき、祝福の言葉を言ってくれたこと覚えてる?あれから半年近く経つけど、この子一度も病気にかかってないのよ」

 ウィルさんがアルを膝の上であやしながら、嬉しそうに言った。アルも楽しそうにキャッキャと笑っている。

「俺も産後の肥立ちがすごくいいって、医術師せんせいに言われたよ。妊夫の大半は体力が回復するまで、一月以上かかるらしいのに。ユイ君はあのときアルだけじゃなくて、俺たち家族も祝福の言葉に含めてくれたよね?これって<言霊>の効果かも」
「アタシもアルが産まれてからこっち、ずっと身体の調子がいいわ」

 僕の何気ない一言に、そんな効果があったなんて。

 自分の持つ力が、急に恐ろしくなった。もし僕が、誰かを傷つけるような言葉を放ったら、その人はどうなるんだろう?スキルが判明するよりも前に、力が発現してはいなかったか?今更そんなことを考えても仕方がないのに、考えずにはいられなかった。

「誰が発する言葉でも、力は宿る。ユイ君は、それが少し人より強いだけさ」
「そうよ。思いつめて言葉を殺すと、心まで死んでしまうわ。それに<言霊>の力って、想いの強さに影響されると思うの」
「想いの…強さ」
「ええ。誰かの言葉が心に響くことってあるでしょ?それこそ、相手の想いが強いからじゃない?それが愛の言葉なら尚更よね」


『ユイ、好きだよ。……愛してる』


 急にルークの声が頭の中にこだまして、胸が苦しくなった。
 ウィルさんの言う通り、あの時の言葉はどんなに拒もうとしても拒めないほど心に響いていた。想いの強さによって<言霊>がもたらす効果に変化が出るのなら、難しい時もあるかもしれないけど、コントロールできるかもしれない。

「ありがとうございます、ウィルさん、ディーンさん。何だか僕、このスキルと上手くやっていけそうな気がします」

 僕の顔を見て、二人は安心したように笑った。温かい空気に応えるように、アルも嬉しそうに笑い声を上げた。


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