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第二章
72 -ルークside- ㉖
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「そういえば、2カ月前の違法魔法具に件で、何か進展はあった?」
今更どうしようもないことをあれこれ考えるのが面倒になって、俺は他に気になっていたことを姉さんに尋ねた。
「ああ。うちの研究室で調べたところ、お前に"魅了"をかけたあの魔法具は、領内で回収された違法魔法具と同様、チェトホフで作られた魔導具だと判明した」
ここ、アヴァンテンシア王国の西に位置する、隣国チェトホフ。あの国の人々は魔力が宿りにくく、宿ったとしてもごく少量という特徴がある。そのため、遥か昔から魔法研究がどの国よりも盛んで、研究の果てに少量の魔力でも発動できる『魔術』が生み出された。魔術を発動させる術式が刻まれた物は『魔導具』と呼ばれ、魔力を持たないものでも使えるらしい。
魔術は体形的な技術や法則に基づいて発動するため、知識や技術があれば誰でも扱えるという画期的な力だ。それを他国に奪われないようにと、チェトホフは現在に至るまで、国交を断絶している。
そんな国が、自国で作られた魔導具を、流出させるようなことをするか?
「お前の考えていることは分かる。私も疑問に思って、諜報員にチェトホフの内情を探らせた。どうやらこの件には、あちらの王族が絡んでいるらしい」
「王族?」
「どういう目論見があるのかは、残念ながら掴めなかった。これ以上むやみに動くと、国際問題にもなりかねん。この件は国王陛下に報告して、こちらは手を引くことにした」
「既に出回っている魔導具はどうする?すべて回収できているわけじゃないだろ?」
「その点に関しては、町村に派遣している騎士団や冒険者ギルドと、連携して取り締まることにした。見つけ次第回収し、取り扱っていた店を尋問し、入手ルートを掌握する。そして回収した魔導具を調べ上げ、チェトホフの技術を参考に新たな産業の足掛かりとする」
至って冷静な顔をして話しているが、その声が次第に弾んでいくのがわかった。今は領主代理として領地経営を担っている姉さんは、錬金術師より領主の方が向いていると思う。錬金術師だけでなく薬師としての知識も技術も持つこの人なら、今まで以上に領地を発展させていくに違いない。
「あと…、まだちゃんと言えてなかったけど、"忘却"を解呪してくれてありがとう。おかげで、大切な記憶を取り戻せた」
俺がそう言うと、姉さんは一瞬目を見開いて、それからにやりと笑った。
「…お前が心からそう思っているのなら、私の願いを聞いてくれるか?」
俺に使った解呪魔法は、発動者の魔力を大幅に削る。魔法の発動後、姉さんは魔力が回復するまで身体を動かすのも辛かったかもしれない。嫌な予感を抱きつつも、その借りを返せるならと俺はその申し出を受け入れた。
本当はすぐにでもユイのいる場所まで行きたいけど、あのイヤーカフを着けている限りはどこにいても分かるし、ユイ自身も守られる。
「…何をすればいい?」
「話が早くて助かる。実はお前に、ある魔法薬を作ってほしい」
「魔法薬の調合なら、俺より姉さんの方が得意だろ?」
几帳面な姉さんは、調合する分量の正確性が重要となる魔法薬を作るのが抜群にうまい。更には自身のスキル<生成>を使って、魔法薬に必要な物質を作り出すこともできる。
「私は今、領主代理として領地運営をしている。魔法薬の製作に時間をあまり割けない。それに、この魔法薬を完成させるには、お前のスキルが必要不可欠だ」
「何を作っているんだ?」
「かつてお前が、もう一歩のところで完成させられなかったエリクサーだ」
姉さんのその言葉に、俺は開いた口がふさがらなかった。さっきあれほど生命の理やら何やらと語っていたのに、舌の根も乾かぬうちにエリクサーの製作を持ちかけるなんて。
「お前はエリクサーの『不老不死』の部分に囚われすぎだ。確かにエリクサーは、完成すれば服用した者を不老不死とするが、万病を治す万能薬という側面もある」
「…つまり、『不老不死の霊薬』ではなく『万能薬』を作り出すと?」
「そのとおり。エリクサーを不老不死の霊薬たらしめるのは、<世界樹>を素材として使用しているからだ。それを除いて製作すれば、エリクサーは『不老不死』の薬ではなく、どんな病も治せる『万能薬』となる…はずだ」
確信はないのか。だが、考え方は悪くないと思う。もちろん、そんな簡単にできるようなことではないが。
「お前には、あと一歩のところまでエリクサーを作った実績がある。それは<錬成>というスキルが発現したことも要因の一つだが、何より技術と根気があったからだ。そんなお前なら、必ず万能薬であるエリクサーを作り出せると、私は思っている」
俺の腕を評価してもらえるのは、素直にうれしい。それに、医術師にはどうすることもできない病にかかった人の希望となる薬があれば、その人だけでなく家族の心も救えるかもしれない。
でも……。
「…それは、今じゃなきゃダメか?」
今はすぐにでも、ユイの所に行きたい。
「…エリクサーの完成は王命だ。期限をはっきり決められたわけではないが、最近『開発が長引くようなら、クイントス家の婚姻に関する取り決めを是正し、有力貴族家と共同開発せよ』と、遠回しに脅してきた。つまり、このままエリクサーを完成させなければ、私やお前の婚姻は王命で決まるということだ」
クイントス家は相手の身分に関係なく、自由に婚姻を結べる。それは、これまで魔法具や魔法薬の開発による、国や王家への貢献度が高いからだ。でなければ、優秀な錬金術師を輩出するクイントス家は、とっく王家に有益な家と婚姻させられ、政治的に利用されていたはずた。
俺はユイ以外の人間と、生涯添い遂げるつもりはない。もしかしたら姉さんも、誰か想う人がいるから、この件を早く進めたいと考えているのかもしれない。
「…分かった。早急に取り掛かる」
ほんの数か月前までは、成人したら何のしがらみもなくユイと一緒に過ごせると思っていたのに…。
どうにもままならなくて、俺は深く溜息をついた。
今更どうしようもないことをあれこれ考えるのが面倒になって、俺は他に気になっていたことを姉さんに尋ねた。
「ああ。うちの研究室で調べたところ、お前に"魅了"をかけたあの魔法具は、領内で回収された違法魔法具と同様、チェトホフで作られた魔導具だと判明した」
ここ、アヴァンテンシア王国の西に位置する、隣国チェトホフ。あの国の人々は魔力が宿りにくく、宿ったとしてもごく少量という特徴がある。そのため、遥か昔から魔法研究がどの国よりも盛んで、研究の果てに少量の魔力でも発動できる『魔術』が生み出された。魔術を発動させる術式が刻まれた物は『魔導具』と呼ばれ、魔力を持たないものでも使えるらしい。
魔術は体形的な技術や法則に基づいて発動するため、知識や技術があれば誰でも扱えるという画期的な力だ。それを他国に奪われないようにと、チェトホフは現在に至るまで、国交を断絶している。
そんな国が、自国で作られた魔導具を、流出させるようなことをするか?
「お前の考えていることは分かる。私も疑問に思って、諜報員にチェトホフの内情を探らせた。どうやらこの件には、あちらの王族が絡んでいるらしい」
「王族?」
「どういう目論見があるのかは、残念ながら掴めなかった。これ以上むやみに動くと、国際問題にもなりかねん。この件は国王陛下に報告して、こちらは手を引くことにした」
「既に出回っている魔導具はどうする?すべて回収できているわけじゃないだろ?」
「その点に関しては、町村に派遣している騎士団や冒険者ギルドと、連携して取り締まることにした。見つけ次第回収し、取り扱っていた店を尋問し、入手ルートを掌握する。そして回収した魔導具を調べ上げ、チェトホフの技術を参考に新たな産業の足掛かりとする」
至って冷静な顔をして話しているが、その声が次第に弾んでいくのがわかった。今は領主代理として領地経営を担っている姉さんは、錬金術師より領主の方が向いていると思う。錬金術師だけでなく薬師としての知識も技術も持つこの人なら、今まで以上に領地を発展させていくに違いない。
「あと…、まだちゃんと言えてなかったけど、"忘却"を解呪してくれてありがとう。おかげで、大切な記憶を取り戻せた」
俺がそう言うと、姉さんは一瞬目を見開いて、それからにやりと笑った。
「…お前が心からそう思っているのなら、私の願いを聞いてくれるか?」
俺に使った解呪魔法は、発動者の魔力を大幅に削る。魔法の発動後、姉さんは魔力が回復するまで身体を動かすのも辛かったかもしれない。嫌な予感を抱きつつも、その借りを返せるならと俺はその申し出を受け入れた。
本当はすぐにでもユイのいる場所まで行きたいけど、あのイヤーカフを着けている限りはどこにいても分かるし、ユイ自身も守られる。
「…何をすればいい?」
「話が早くて助かる。実はお前に、ある魔法薬を作ってほしい」
「魔法薬の調合なら、俺より姉さんの方が得意だろ?」
几帳面な姉さんは、調合する分量の正確性が重要となる魔法薬を作るのが抜群にうまい。更には自身のスキル<生成>を使って、魔法薬に必要な物質を作り出すこともできる。
「私は今、領主代理として領地運営をしている。魔法薬の製作に時間をあまり割けない。それに、この魔法薬を完成させるには、お前のスキルが必要不可欠だ」
「何を作っているんだ?」
「かつてお前が、もう一歩のところで完成させられなかったエリクサーだ」
姉さんのその言葉に、俺は開いた口がふさがらなかった。さっきあれほど生命の理やら何やらと語っていたのに、舌の根も乾かぬうちにエリクサーの製作を持ちかけるなんて。
「お前はエリクサーの『不老不死』の部分に囚われすぎだ。確かにエリクサーは、完成すれば服用した者を不老不死とするが、万病を治す万能薬という側面もある」
「…つまり、『不老不死の霊薬』ではなく『万能薬』を作り出すと?」
「そのとおり。エリクサーを不老不死の霊薬たらしめるのは、<世界樹>を素材として使用しているからだ。それを除いて製作すれば、エリクサーは『不老不死』の薬ではなく、どんな病も治せる『万能薬』となる…はずだ」
確信はないのか。だが、考え方は悪くないと思う。もちろん、そんな簡単にできるようなことではないが。
「お前には、あと一歩のところまでエリクサーを作った実績がある。それは<錬成>というスキルが発現したことも要因の一つだが、何より技術と根気があったからだ。そんなお前なら、必ず万能薬であるエリクサーを作り出せると、私は思っている」
俺の腕を評価してもらえるのは、素直にうれしい。それに、医術師にはどうすることもできない病にかかった人の希望となる薬があれば、その人だけでなく家族の心も救えるかもしれない。
でも……。
「…それは、今じゃなきゃダメか?」
今はすぐにでも、ユイの所に行きたい。
「…エリクサーの完成は王命だ。期限をはっきり決められたわけではないが、最近『開発が長引くようなら、クイントス家の婚姻に関する取り決めを是正し、有力貴族家と共同開発せよ』と、遠回しに脅してきた。つまり、このままエリクサーを完成させなければ、私やお前の婚姻は王命で決まるということだ」
クイントス家は相手の身分に関係なく、自由に婚姻を結べる。それは、これまで魔法具や魔法薬の開発による、国や王家への貢献度が高いからだ。でなければ、優秀な錬金術師を輩出するクイントス家は、とっく王家に有益な家と婚姻させられ、政治的に利用されていたはずた。
俺はユイ以外の人間と、生涯添い遂げるつもりはない。もしかしたら姉さんも、誰か想う人がいるから、この件を早く進めたいと考えているのかもしれない。
「…分かった。早急に取り掛かる」
ほんの数か月前までは、成人したら何のしがらみもなくユイと一緒に過ごせると思っていたのに…。
どうにもままならなくて、俺は深く溜息をついた。
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