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【番外編】そこにある、確かなもの。
2. -ユイside- ①
しおりを挟む「証が欲しい。僕がこの世界で生きた証。そして、僕と君の間に、確かな愛があったっていう証」
───違う。
本当は、ただ君を縛りたいだけ。
誰にも君をとられたくないという、僕の醜い独占欲。
だから、どうかお願い───。
───早く、僕を………。
「お店、順調そうだね」
ある日の<ノクターナ>への出勤日、開店前にホールの掃除をしているとディーンさんがそう声をかけてきた。
ルナシスさんから贈られた新居で魔法具兼薬屋を始めて2カ月、ディーンさんの言うとおり、客足は順調に伸びてきている。ルークが作る魔法具や魔法薬は質がよく良心的な価格設定だから、平民に留まらず貴族にも評判が広まりつつある。
本来なら僕ももっと店に出て、ルークのサポートをするべきだろうが、今でもこうして<ノクターナ>で働いている。それは、ルークが有能で一人でもお店を回せるし、ウィルさんとディーンさんの希望もあったからだ。
結婚を機に退職を申し出たら、二人は困ったような顔で引き留めてきた。
『せめて週2・3回、昼に入ってくれたら嬉しいな』
『ユイがお店をしばらく休むってなった時も、常連の何人か泣いてたのよ』
その話をしたときは、まだお店をやることをルークと話し合う前だったこともあり、僕は快く了承した。
ウィルさんに「助かるわ」とカウンター越しに頭を撫でられ、年の離れた兄のような態度に面映ゆくなっていると、隣に座るルークの視線が妙に刺さったのを覚えている。
「はい。ディーンさんやウィルさんが、常連さんに紹介してくださったおかげです」
「本当におすすめしたいお店だからね。エイミーもすっかり常連らしいし」
「私がどうかしましたか?」
お店前の掃除を終えたらしいエイミーが、明るい声でホールに入ってきた。
エイミーはナイトレイ侯爵家から派遣されていた元使用人だ。ここでの仕事が性に合っていたのか、侯爵家での事件後に僕がお休みをもらって間もなく、侯爵邸を辞めて本格的に<ノクターナ>で働き始めたらしい。
西方辺境伯領への遠征後、復帰の相談で店を訪れたときに見た彼女は、16歳とは思えないほどの働きぶりだった。
「エイミーはユイ君のお店の常連だよねって話してたんだよ」
「はい!護身用魔法具はデザインが素敵だし、取り扱うお薬はどれも効果抜群!そしてお店のご夫夫は超絶美形!大変素晴らしいお店ですっ」
エイミーは両手で拳をつくり、目を輝かせながら称賛した。僕たち夫夫については何とも言い難いが、ルークが作る魔法具や薬を褒めてもらえるのは、彼の伴侶として心から嬉しく思う。
「そう言ってもらえると、ルークも喜ぶよ」
「ルークさんと言えば、最近彼を狙っているご令嬢が多いとの噂を聞きました」
「ああ…、うん」
僕も最近、そのことで悩まされている。
お店が知られるにつれて、ルーク目当てで店を訪れる女性客が多くなった。それが売り上げに繋がるならと、ルークは嫌な顔を見せず接客しているが、僕はあまりいい気がしない。商品説明にかこつけてルークに触れたり、わざと身体を寄せたりする人もいる。それを目にするたびに胸がモヤモヤして、仕事に集中できない。
だから<ノクターナ>での仕事の時はそんな場面を見なくて済むし、いいストレス解消にもなっている。
「…でも、それはもう仕方ないかなって思うよ。実際ルークは見目がいいし」
「まぁ、ルークさんに限った事ではないですけどね…」
「ユイ君、エイミー!そろそろ開店時間だよ」
「あっ、はい!」
エイミーが呟いた言葉の意味を問い返そうとたら時間が来てしまい、僕たちの会話はそこで途切れた。
この日も店内は多くのお客さんで溢れ、昼食の時間帯は慌ただしく時は過ぎていった。常連さんは僕の顔を見ると相変わらず声をかけてくれるし、冗談を交えながら軽い雑談をするだけで、気持ちが明るくなった。
午後のティータイムの時間帯になると客足も落ち着き、お茶やスイーツを楽しむお客さんが席を埋めていった。ゆったりとした雰囲気の中、空いたテーブルを片付けていると、カウンター席で話をする女性客とディーンさんの声が聞こえてきた。
「ディーンさんのお茶のおかげで、悪阻がひどい時期も乗り切れたわ」
「お力になれてよかったです。旦那さんも心配してましたよ?」
「あの人ってばついこの間まで夜はふらふら遊びまわっていたのに、子どもができた途端、何かと世話を焼こうとして離れないんだから」
女性客の言葉は厳しいが声は明るく、嬉しそうな表情で自分のお腹を撫でている。
「それにしても、子どもができたら夫だけじゃなくて周りの人も変わるのね。今まで夫を遊びに誘っていた女友達なんか、全く来なくなったもの」
「あー、確かに。俺の前の職場でもそんな女性いましたよ。既婚男性にちょっかい出してたんですけど、子どもができたら興味を失って見向きもしなくなってました」
「そもそも既婚者に言い寄ること自体がおかしいのよ」
そんな風に話が盛り上がり、近くに座るお客さんを巻き込んで家族談義をしていた。少し離れたところから聞き耳を立て、その内容にほっこりしていると、会話の中心にいた女性客が突然僕に話を振ってきた。
「ユイ君のところは、まだ子どもは考えていないの?」
「えっ、ウチ…ですか?」
僕がどう答えるのか気になるらしく、話の輪に入っていたお客さん達も興味津々といった様子で僕を見つめている。
いきなりの質問に戸惑っていると、ディーンさんがすかさず女性客を窘めてくれた。
「こらこら、ミーナさん。そんな下世話な話を振っちゃいけませんよ。家庭にはそれぞれ事情というものがあるんですから」
「あ…、そうよね。ごめんなさいね、ユイ君」
「いえ、お気になさらず」
すぐにまた各々の家族の話になり、僕は思わずホッとしてしまった。
……子ども、か…。
ルークと結婚して、僕たちは互いが唯一無二の存在だと公的に認められた。しかしそれは、その気になればいつでも解消できるような脆い繋がり。
でも、二人の間に子どもができたら……。
仕事が終わって<ノクターナ>を出ても、子どもの話が頭から離れず、思考が囚われたまま帰路についた。
そういえば、どうしたら男性同士で子どもができるのか知らない……。
魔法具を使うことは知っているが、具体的な手順は何だか恥ずかしくてルークにも聞いたことがない。
遅かれ早かれいつかは知ることになるし、僕は意を決して、夕食後にルークに尋ねてみた。ルークは僕の質問に動揺したようだが、すぐに気を持ち直して分かりやすく説明してくれた。
結論を言えば……、
「身籠るためには、たくさんエッチするってことだね」
……ということらしい。
僕は仕事終わりに、ディーンさんからこっそり言われた言葉を思い出した。
『もし子どもが欲しいなら、早い方がいいよ。体力いるから。……いろいろと』
子どもを産んだ経験のあるディーンさんの言葉には、すごく説得力がある。子どもを作るにしても、まだもう少し先にでもいいかと思っていたが、体力がある若いうちに励んだ方が身体にかかった負担も回復しやすいかもしれない。
そんなことを考えていたら、皿を拭き終わったルークが僕を抱き寄せ、神妙な面持ちで続けた。
「魔力を送る側は相当な魔力量が必要だし、身籠る側は身体のつくりが変わる分、負担が大きい。だから子どもが欲しいなら、相応の覚悟がいる。女性であっても出産は命がけだしね。それでも欲しい?」
「───欲しい」
ルークとの確かな繋がり。僕がこの世界で生きたという証。そして何より、ルークとの新しい家族が。
僕が真っ直ぐ見つめて答えると、ルークは目元を緩めながら「わかった」と返した。
それから1ヵ月半が経ち、年の瀬が迫ったある晩にルークはできあがった<生命の環>を見せてくれた。左手の小指に嵌めてくれた指輪は、宝石のように煌めく魔石と繊細な細工で、装飾用の指輪にしか見えない。
「子どもができても、産まれるまでは外しちゃだめだよ?指輪は身体の状態に合わせて大きさが変化する素材で、サイズがきつくなることはないから」
「うん、わかった」
ルークは小指に嵌められた指輪に唇を一つ落とすと、僕が逃げられないように腰をきつく抱きしめ、唇を重ねてきた。
「ふぅ…んっ……」
重なった唇の角度が何度か変わると、ルークの手が妖しく動き出し、腰のラインをなぞりながら徐々に服の中に忍び込ませてきた。そうやってゆっくりズボンを下ろされ、お尻に触れられたところで我に返り、僕は慌ててルークから唇を離した。
「っはぁ…、ルークっ…!お風呂っ、準備しないと…」
「ならお風呂でシよ?」
「……この前のぼせた」
「じゃあ、ここで…」
いつの間にか僕のブラウスのボタンはすべて外され、両肩が露わになって下半身は下着だけになっていた。
「せ…せめて、ベッ、ドで……っ」
恥ずかしいのを我慢しながらそう言うと、ルークは「仕方ないなぁ」と言いながら、僕を軽々と横抱きにして足早に寝室に向かった。
その日から時間があれば昼夜問わずルークに抱かれ、家の中で抱かれていない場所がないほど、所かまわず繋がった。
いつもは「痕も消えちゃうから」とポーションを使わせたがらないルークも、翌日の僕の状態を見て考えが変わるほど、激しい日もしばしばあった。
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