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第一章
15 -ルークside- ②
しおりを挟む彼──ユイに朝食と着替えを持っていた時に、彼が異世界からきた人間だということに気づいた。魔法を初めて見たときのユイはとても驚いた顔をしていたが、それと同時に動揺の色も隠せていなかった。もしかしたら、彼も気づいたのかもしれない。ここが、自分のいた世界とは違う世界だということに……。
だから、ユイの気を紛らわせたくて少し揶揄ってみた。
「ところで、俺はこのままこっちを向いてていいの?それとも、手伝ってほしい?」
「…えっ?何のこと?」
「着替え。これから洗濯するから、ユイが脱いだら持っていこうと思って」
「あっ、あっち向いてて!」
「身体拭くのとか──」
「大丈夫だから!!」
どうやら成功したようだ。顔を赤くして慌てる姿が可愛くて、つい笑ってしまった。ユイは急いで脱ごうとするものの、着なれていない服なのか手間取っているようだった。一方で俺も、布が擦れる音が聞こえる度に、何だか落ち着かない気分になった。
中庭の洗い場で洗濯している時や子ども達の相手をしている間も、ユイのことが気になって仕方がなかった。そんな俺に気づいたのか、シグルド司祭が夕食はユイとふたりでとるようにと言ってきた。
身体を冷やさないよう、ショールを掛けるためにユイの正面に立つと、彼の目線は自分より高いところにあった。どうしようもない事から気を逸らすように、ダイニングに移動することを提案すると……。
「ありがとう、ルーク」
ユイが初めて俺に優しく微笑みかけた。
ユイの笑顔をずっと見ていたくて、しばらく目を離すことができなかった。
食事中にこの世界のことを話すと、ユイは真剣に聞いてくれた。とくに魔法に興味を持ったようで、魔力や<スキル>の話題に食いついた。もしユイに魔力があるようなら、操作方法は俺が教えよう。
そして、これから暮らしていくこの村のこと話すと、少し不安げになっていた。
「うまく馴染めるといいけど…」
ユイならすぐにでも馴染めるはずだ。柔らかい物腰で気遣いだってできるし、何より綺麗な面差しをしている。男女問わず魅了するだろうし、むしろ男をたくさん寄せつけそうだ。
「夜明けの空みたいな紫の瞳も、艶のある黒髪も、こんなに俺を惹きつけてるんだから」
自分の想いを率直に伝えたつもりだった。でもユイは、俺が揶揄っていると思ったらしく、まともに取り合ってくれなかった。
とりあえず、可笑しそうに笑うユイの顔を見れたから良しとしよう。
食事が終わって、ユイが入浴から戻るころを見計らって、再び部屋を訪れた。教会に馴染むために明日から着る黒の長衣を渡したら、寝間着の上から試着をしてくれた。サイズに問題もなく、ハンガーに掛けてベッドに座ると、その拍子に髪から雫が弾ける。
「まだ髪が濡れてる。ちゃんと乾かさないと、また風邪引いちゃうよ?」
俺は近くにあったタオルを優しくユイの髪に押し当てながら、しっかり水分を吸い取った。魔法を使えばすぐに乾かせるが、ユイに触れられるチャンスをわざわざ不意にすることはない。
ところどころ少しくせのある黒髪は、濡れているとより一層艶やかに見える。
「ん、これでよし」
おおよそ乾かし終えてユイの顔を見ると、じっと俺を見つめていた。跳ねあがる心臓を落ち着かせながら、平静を装って声を掛ける。
「どうかした?」
「……ルークの瞳が、空みたいな青色でつい──」
ユイのその一言で急に顔が熱くなって、鼓動をより早くさせた。ランプの灯りだけだったから良かったものの、昼間だったら変に思われたかもしれない。
「…そんな風に言われるの、初めてだ……」
ユイの瞳から目を逸らせず、もっと触れたくて堪らなくなった。そんな中で、自制心を働かせられたのは称賛されるべきだろう。
笑顔であいさつをして部屋を出たときは、大きな溜息がでた。
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