異世界で王城生活~陛下の隣で~

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25郷愁

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 白い肩をひんやりとした風が撫でていく。

 一人でまったりと入る露天風呂は最高だよ。
 最近何かにつけ陛下のお手伝いをしていて、以前のように頻繁にここへ通うことがままならくなっていたからね。
 あの夜から陛下が私の部屋へ一人で来ることは無くなったけど、執務室へ行けば普通と言うか依然と同じく接してくれてはいるんだけど。
 それがなんかちょっと寂しく思ってしまう。

 はぁ―考えるのはやめた。
 やっぱり露天風呂は最高だわ。

 目の前の林は紅葉が始まり葉が色づき始めている。
 どうやらこの異世界の季節は日本と同じらしい。

 異世界、グランティア王国に来てもうすぐ四ヶ月になるのね。生きていれば、キャンちゃんで、紅葉狩りの計画とかしてたんだろうな。
 …………
 しっかりしろ、友梨香。
 私はもうこの異世界で生きていくしかないんだから!
 だけど……そう思ってはいても時々ホームシックになる。
 ああ、そう言えば、秋のお彼岸は過ぎたんだ。
 家族でお墓参りしてくれたんだろうな。
 うん、そうだよね。

 もう会う事のない家族の事を思いながら川の向こうの林を見ていると、何かが動いた。

「えっ、ナニ?うそ、もしかして陛下が言ってた……?」

 林から辺りを気にしながら出てきたのは鹿の親子だった。
 私は身動きせず、じっと親子の様子を伺う。
 母鹿の後ろにピッタリと仔鹿がついてきた。


 うっ、可愛い。温泉の川に入りにきたんだ。
 親子鹿はゆっくりと川の脇にある水溜まりのようなところに入っていく。
 きっと湯が滲み出て湯溜まりになっているんだと思う。川の水が少し流れ込み温度を下げているのね。深さは三十センチくらいかな?
 親子は周囲を確認すると、その中で足を折りカラダを湯に浸からせた。

 気持ち良さそうだねー。そういえば小さい頃はお爺ちゃんとキャンプに行ってよく一緒に温泉に入ってたね。
 懐かしい……

 親子鹿の寛ぐ姿を見ていたら心もほっこりと癒された。
 それと同時にまた家族への思いが込みあげてきてしまう。
 こんな時は酒だ、酒!ワインを飲もう!
 露天風呂から上がり着替えを済ませると、私は外で待っていた護衛騎士ルードさんをキャンちゃんの中に呼び寄せた。

「今日はちょっとワインが飲みたい気分なの。少しだけ付き合って」
「私は仕事中です。ユリカ殿」
 きっぱりと断るルードさん。
 まあ、当然だよね。
 だけど今は無理を承知で押してみる。

「大丈夫よ少しくらい。酔いを醒ましてから戻ればいいじゃん。それにルードさんはお酒強いから一杯くらい付き合ってもバレないと思うわ」
「しかし……」
「さっきね、景色を見てたら故郷を思い出しちゃったの。そしたらシカの親子が温泉に入りにきて。
 何か家族の事も思い出しちゃって……」

 何となくいつもとは違うトーンで話す私に気付いて、ルードさんが困惑した顔になっている。

「分かりました。一杯だけですよ」
「ありがとう、ルードさん。はい、座って」

 席を勧めワインを注ぎカチンと小さくグラスを合わせる。

「私ね、ルードさんくらいの兄がいたの。結構イケメンでモテるのよ。その兄と成人を過ぎてから時々一緒にお酒を飲んだりしていて……」
「そうでしたか」
「うん、それでね……」


 ルードウィックにもう会う事のない兄の姿を重ねていたのだろう。
 彼はグラスのワインをチビチビと舐めるようにしながら友梨香の止めどもない話に付き合った。
 友梨香もまた独り言のように言葉を繋ぎながらグラスのワインを何度か継ぎ足していく。

 どのくらいの時間が過ぎたのか、外は茜色に染まりつつあった。
 友梨香はいつの間にかウトウトし始めてしまう。
 慌てたルードウィックは、門番のところに走り王宮に使いを出して貰った。
 そしてユリカの元へ戻って来ると、上着を脱ぎ彼女の肩に掛け車外に出て侍女たちがやって来るのを待った。

 待つこと暫し、少し離れた門に馬に乗った人影が二つ現れた。
 門番と簡単な言葉を交わし、その内の一人が馬の背に揺られゆっくりと緩やかな坂を上り彼の元に近づいて来る。

「陛下!?」
「メルヴィン、使いを出してくれて礼を言う。門番の詰め所小屋で休んでよいぞ、キャステルも居る。酒とつまみも奴に持たせてある」
「えっ?よろしいのですか?」
「ああ、よい」
「ありがとうございます。ユリカ殿は風呂の後ワインを飲まれそのまま寝てしまわれました。その……何だか元の世界を思い出されたようで、淋しくなられたご様子でした。いつも明るく気丈に振る舞われているユリカ殿のお姿が……申し訳ありません。護衛中でありましたが、ユリカ殿にお付き合いさせて頂き一杯だけ飲んでしまいました」
 そう言って、ルーウィック・メルヴィンは馬から降りたシリウスに深々と頭を下げた。

「そうか、弱っているユリカの愚痴を聞いたのがメルヴィンというのが些か面白くはないが、酒の事は良い。気にするな」
「はっ!」

「ユリカには私が付いておるから、おまえはキャステルの元へ行ってよい」
「分かりました。失礼いたします」

 ルードウィックが自分の馬に跨り詰め所に向かうのを見送り、シリウスが車内へと入っていくと、テーブルに突っ伏して寝ている友梨香の姿があった。


 
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