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43聖女じゃありませんから!①
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曲が流れ始めシリウスが友梨香の手を取り玉座から降りてくると、フロアの中央から引潮の様に人の姿が無くなり空間が出来た。
その中央で二人がダンスのポージングを取る。
ゆったりとした出だしの曲調に静かにステップを踏み始める二人に人々の視線が釘付けとなった。
大柄なシリウスと小柄な友梨香の身長差は友梨香がヒールを履いてもかなりあるが、全くそれを感じさせない程しっくりと合っている。
暫くスローな動きが続く。優雅な動きに加え一瞬たりとも見つめ合ったお互いの瞳を離さず柔らかい笑みを浮かべ踊る二人の姿を見て若い令嬢たちは頬を染め見入っていた。
曲調が変わりテンポが早くなった。
シリウスは長い脚を友梨香の歩幅に合わせながらも大胆に彼女をリードしていった。
友梨香はそのリードに後れを取る事なくピタリと合わせてくる。
「ほぉー」
「素敵」
ホールのあちらこちらからため息が漏れた。
踊りながらも周りを反応を視野に入れていたいるシリウスがニヤリと薄笑いを浮かべ友梨香をターンさせると、ハープアップして下ろしていた髪とドレスの裾が綺麗に広がった。
曲が終わり二人は向かい合いお辞儀をすると割れんばかりの拍手が沸き起こった。
シリウスが友梨香の手を取り自分の方へ引き寄せると皆が見ている前で突然口付け、友梨香が苦しくなる度長く唇を奪った。
が、その時だった。
「えっ!」「あれは!」「まさか!」「どういうことですの!?」「嘘だろう?」
周囲から様々な声が飛び交い始めたのだった。
「もう、シリウスったらこんなところで!」
会場の騒めきに突然キスをされた友梨香が小さな声でシリウスに文句を言いながら彼の顔を見上げると、シリウスは自分を見つめたまま固まっている。
「えっ?」
何が起こったのか全く分からない友梨香はそのまま周囲を見回すも、紳士淑女たちもまたシリウスと同じように呆然としたまま自分の事を見ている事に気付いた。
――なに、どうしたの?
するとまた会場の何処からか今度はハッキリと聞こえて来た。
「御髪の色が……」
――へっ?
「黒髪の聖女だったのか?」
――く、黒髪?
どこからか聞こえてきた声に、友梨香は思わず自分の頭に両手を覆った。
「えっ、まさか、嘘でしょう……」
「はっ、そのまさかだ、ユリカ」
シリウスはそう答えながら自分のマントを外すと友梨香の身体を覆いそのまま抱き上げる。
「ちょ、ちょっとなに……」
「良いから黙って置け」
「……」
シリウスが友梨香にだけ聞こえるように言う。
そしてホールに日々渡る声で皆に伝えた。
「まだ宴が始まったばかりではあるが、我が婚約者は体調が優れぬようなので下がらせてもらう」
そう告げると友梨香を抱いたまま大股でその場を後にし、扉の近くでこれから会場入りしようとしていた宰相のドミニクに耳打ちをした。
「ドミニク、後は頼んだ」
「はっ?この騒ぎは一体、陛下何が!」
「見た通りの緊急事態だ。何とかこの場を頼む」
ドミニクはシリウスの腕の中でマントに包まれた隙間から垣間見えた婚約者の髪を見て絶句した。
「これは……。えっ?」
「後で説明する故、今はユリカをここに置いておく訳にはいかぬのだ」
ドミニクはユリカを心配するシリウスを見て胸中を察した。
「分かりました。陛下、後はお任せください」
後から来たドミニクには会場でどのようなことが起こったのかは分からないが、突然髪色が黒く変化した友梨香に対して驚きと好奇の目が向けられたことは理解できた。
それは自分も一緒ではあるが、どうにかこの場を収めなくてはならない。
何とかするのが宰相たる自分の役目である。
ドミニクは大きく深呼吸をしてから一段高い位置に上がりどよめく人々に向かった。
「静かに!」
低い声が響き渡り徐々に喧騒がなくなり壇上の宰相に人々の視線が集まっていく。
「お静かに願います。陛下の婚約者であられますユリカ殿の御身に予想だにしない出来事が起きたようでございますので、これにて閉宴とさせていただきたいところではありますが、本日は目出度き新年の集いではあります。陛下へのご挨拶も済まされたようですので、後は皆様同士の親交を深める場として引き続き宴を楽しまれて頂きたいと思います。そして今ここで目にしたことは口外されぬように願いたい」
会場内がまた騒めき始める。
「異世界人殿はやはり聖女だったのですか?」
「なぜ今まで隠しておられたのか!」
どこからか声があがった。
「私の口からは何も言えない。追って陛下からお言葉があると思われるのでそれを待っていただきたい」
ドミニクの言葉にひそひそと言葉を交わす貴族たちであるが、言うなと言われれば言いたくなるのが人の心情だという事はドミニクにも分かっている。
宴はその後も続いたが、やはり話題の中心はユリカが聖女ではないかという事に絞られていた。
最初からそうであったのか。
はたまた先ほど突然覚醒し、黒髪に変化したのか。
貴族たちの話は尽きなかった。
新年の祝いの場はとんでもないハプニングにより一時は大騒ぎとなったが、終宴の頃には落ち着きを取り戻していた。ホールを後にしていく客の後ろ姿を見送りながらドミニクは一人ごちる。
「ユリカの殿がただの異世界人ではなく聖女かもしれないという噂はすぐぐに広まってしまうだろう。これほど重要な事を何故陛下は宰相である私にも秘密にしてたのか……全く陛下は何を考えているのだ」
これから起こるであろう問題に頭を悩ませるドミニクであった。
その中央で二人がダンスのポージングを取る。
ゆったりとした出だしの曲調に静かにステップを踏み始める二人に人々の視線が釘付けとなった。
大柄なシリウスと小柄な友梨香の身長差は友梨香がヒールを履いてもかなりあるが、全くそれを感じさせない程しっくりと合っている。
暫くスローな動きが続く。優雅な動きに加え一瞬たりとも見つめ合ったお互いの瞳を離さず柔らかい笑みを浮かべ踊る二人の姿を見て若い令嬢たちは頬を染め見入っていた。
曲調が変わりテンポが早くなった。
シリウスは長い脚を友梨香の歩幅に合わせながらも大胆に彼女をリードしていった。
友梨香はそのリードに後れを取る事なくピタリと合わせてくる。
「ほぉー」
「素敵」
ホールのあちらこちらからため息が漏れた。
踊りながらも周りを反応を視野に入れていたいるシリウスがニヤリと薄笑いを浮かべ友梨香をターンさせると、ハープアップして下ろしていた髪とドレスの裾が綺麗に広がった。
曲が終わり二人は向かい合いお辞儀をすると割れんばかりの拍手が沸き起こった。
シリウスが友梨香の手を取り自分の方へ引き寄せると皆が見ている前で突然口付け、友梨香が苦しくなる度長く唇を奪った。
が、その時だった。
「えっ!」「あれは!」「まさか!」「どういうことですの!?」「嘘だろう?」
周囲から様々な声が飛び交い始めたのだった。
「もう、シリウスったらこんなところで!」
会場の騒めきに突然キスをされた友梨香が小さな声でシリウスに文句を言いながら彼の顔を見上げると、シリウスは自分を見つめたまま固まっている。
「えっ?」
何が起こったのか全く分からない友梨香はそのまま周囲を見回すも、紳士淑女たちもまたシリウスと同じように呆然としたまま自分の事を見ている事に気付いた。
――なに、どうしたの?
するとまた会場の何処からか今度はハッキリと聞こえて来た。
「御髪の色が……」
――へっ?
「黒髪の聖女だったのか?」
――く、黒髪?
どこからか聞こえてきた声に、友梨香は思わず自分の頭に両手を覆った。
「えっ、まさか、嘘でしょう……」
「はっ、そのまさかだ、ユリカ」
シリウスはそう答えながら自分のマントを外すと友梨香の身体を覆いそのまま抱き上げる。
「ちょ、ちょっとなに……」
「良いから黙って置け」
「……」
シリウスが友梨香にだけ聞こえるように言う。
そしてホールに日々渡る声で皆に伝えた。
「まだ宴が始まったばかりではあるが、我が婚約者は体調が優れぬようなので下がらせてもらう」
そう告げると友梨香を抱いたまま大股でその場を後にし、扉の近くでこれから会場入りしようとしていた宰相のドミニクに耳打ちをした。
「ドミニク、後は頼んだ」
「はっ?この騒ぎは一体、陛下何が!」
「見た通りの緊急事態だ。何とかこの場を頼む」
ドミニクはシリウスの腕の中でマントに包まれた隙間から垣間見えた婚約者の髪を見て絶句した。
「これは……。えっ?」
「後で説明する故、今はユリカをここに置いておく訳にはいかぬのだ」
ドミニクはユリカを心配するシリウスを見て胸中を察した。
「分かりました。陛下、後はお任せください」
後から来たドミニクには会場でどのようなことが起こったのかは分からないが、突然髪色が黒く変化した友梨香に対して驚きと好奇の目が向けられたことは理解できた。
それは自分も一緒ではあるが、どうにかこの場を収めなくてはならない。
何とかするのが宰相たる自分の役目である。
ドミニクは大きく深呼吸をしてから一段高い位置に上がりどよめく人々に向かった。
「静かに!」
低い声が響き渡り徐々に喧騒がなくなり壇上の宰相に人々の視線が集まっていく。
「お静かに願います。陛下の婚約者であられますユリカ殿の御身に予想だにしない出来事が起きたようでございますので、これにて閉宴とさせていただきたいところではありますが、本日は目出度き新年の集いではあります。陛下へのご挨拶も済まされたようですので、後は皆様同士の親交を深める場として引き続き宴を楽しまれて頂きたいと思います。そして今ここで目にしたことは口外されぬように願いたい」
会場内がまた騒めき始める。
「異世界人殿はやはり聖女だったのですか?」
「なぜ今まで隠しておられたのか!」
どこからか声があがった。
「私の口からは何も言えない。追って陛下からお言葉があると思われるのでそれを待っていただきたい」
ドミニクの言葉にひそひそと言葉を交わす貴族たちであるが、言うなと言われれば言いたくなるのが人の心情だという事はドミニクにも分かっている。
宴はその後も続いたが、やはり話題の中心はユリカが聖女ではないかという事に絞られていた。
最初からそうであったのか。
はたまた先ほど突然覚醒し、黒髪に変化したのか。
貴族たちの話は尽きなかった。
新年の祝いの場はとんでもないハプニングにより一時は大騒ぎとなったが、終宴の頃には落ち着きを取り戻していた。ホールを後にしていく客の後ろ姿を見送りながらドミニクは一人ごちる。
「ユリカの殿がただの異世界人ではなく聖女かもしれないという噂はすぐぐに広まってしまうだろう。これほど重要な事を何故陛下は宰相である私にも秘密にしてたのか……全く陛下は何を考えているのだ」
これから起こるであろう問題に頭を悩ませるドミニクであった。
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