悪役令嬢は間違えない

スノウ

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波乱の王立学園

悪い噂

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 その日以来、リリー様の話が学園中の噂になっている。
 いい噂ではない。アルフレッド様に媚びを売る下品な女生徒としての噂だ。

 今回のアルフレッド様は前回に比べて素行が悪く、生徒達からの評判も良くない。
 まあ、入学式がアレだったから、アルフレッド様を良く思っている生徒が少ないのは仕方のない事だと思う。

 そんな評判の悪いアルフレッド様に媚びを売り、食堂やら廊下やら、とにかく目立つ場所に陣取ってふたりで騒いでいる。

 普通の貴族であれば、当然そんな女生徒とは距離を置くわよね。
 彼女は一般クラスでも遠巻きにされ、周囲から浮いた存在になっているそうだ。
 前回とはまったく違うリリー様の行動に、噂を聞いたわたくしも驚きを隠せない。

 
 わたくしは、食堂にリリー様がいる時は教室に戻ってお弁当を食べる。
 そんな時は必ずダリルが後をついてくる。

 ダリルはお弁当を持参していないため、毎回わたくしのお弁当を分けてあげる流れになる。

 わたくしは以前の失敗を反省し、必ずフォークをふたり分用意しているのだが、フォークをダリルに手渡すと、ダリルは高確率でフォークを落とす。

 仕方なくもう1本のフォークを手渡そうとするが、ダリルはフォークを落とした拍子に利き手をひねったと自己申告してくる。

 そのままではダリルがお弁当を食べられないため、結局わたくしは以前のように『あーん』をする流れになってしまうのだ。解せぬ。

 なんだが腑に落ちない気もするが、ダリルとふたりきりで過ごせるこの短い時間は、わたくしにとってとても大切な時間になっている。
 くすぐったくもあり、ちょっぴり切なくなるような、そんなふたりだけの時間だ。





「ねえ見て、ジゼット様よ」

「まあ、あのドレス、新作よね。バリミーアではいつ売り出すのかしら」

「待ち遠しいですわ~」

「ええ、同感ですわ~」

「……」


 ここは学園内の廊下。
 今のわたくしはスージーがデザインしたドレスを着用している。
 パーティー用のドレスではないし、お茶会用のものでもない。普段着用のドレスだ。

 この学園には制服はないので、それぞれが自分で用意したドレスを着用しているのだが、スージーはここでも手を抜かなかった。

 わたくしに内緒で学園用のドレスを何着もデザインしていたのだ。
 スージーにはあれだけ休みなさいと言ったのに、全然聞かないんだから。困ってしまうわ。

 とまあ、スージーへの愚痴はさておき、わたくしのドレスは瞬く間に学園のご令嬢達の憧れの的となり、彼女達の熱い要望を受け、学園用のドレスをバリミーアでも扱うことになった。

 表向きは『普段着用ドレス』として売り出したのだが、これが大ヒット。

 ドレスは売れに売れ、顧客も貴族だけにはとどまらず、平民の富裕層にまで広がっていった。
 バリミーアは王国内にいくつもの支店を出すまでになり、その勢いはとどまるところを知らない。
 
 今では王立学園の女生徒の半数以上がバリミーアのドレスを着用しており、わたくしのドレスへの注目度は日に日に高まっているというわけだ。

 
「……」


 あまり注目され過ぎるのも落ち着かないのだが、バリミーアの売り上げのために、ここは我慢よ。

 わたくしは平静を装いつつ、足早に廊下を通り過ぎたのだった。






「わあ、思っていたより広いわね」

「そうですわね」

「ここなら勉強がはかどりそうだわ」

「……」


 ここは学園の敷地内にある図書館だ。

 試験日が近いため、試験勉強のためにここへやってきたのだ。
 メンバーはわたくし、メアリー様、バーバラ様、ダリルの4人だ。
 他のクラスメイトはめったに授業に出てこないため、必然的にこのメンバーで行動することが多くなっている。


「こんなに蔵書が豊富なら、もっと早くにくれば良かったわ」


 教室と食堂以外の場所にはほとんど立ち寄らなかったことを、わたくしは少し後悔した。

 図書館の奥に勉強できるスペースを見つけ、わたくし達はそこへ向かった。
 そこにはすでに先客がいた。


「ええと、あなたは確か、クロフォード様でしたわね」


 彼はわたくしと同じ特別クラスの生徒だったはず。
 確か、伯爵家の跡取り息子だと言っていたかしらね。


「ん?ああ、あなた方は特別クラスの」

「はい」

「お久しぶりです」

「クロフォード様も試験勉強のためにここへ?」


 メアリー様の質問に、クロフォード様はゆるくかぶりを振った。


「いいえ。私は領地経営について調べるためにこの図書館に通っています」


 クロフォード様の発言に、わたくしは思わず声を上げた。


「まあ!ここには領地経営についての本もあるのですか?」

「そうですよジゼット嬢。私がこの学園に通う理由の大半がコレ目当てですから」

「……わたくし、多くの時間を無駄にしてしまったような気がしますわ」

「はは。学園生活は二年間あります。そんなに焦る必要はないのでは?」

「ふふ、それもそうですわね」


 わたくしとクロフォード様はクスクスと笑い合った。
 そんなわたくし達を陰で見つめる兄妹がいた。


「……同じ目標を持つ者同士、急速に縮まる距離。跡継ぎ同士とはいえ、要注意ですわね。ダリルお兄様、油断していると思わぬ伏兵に横からかっさらわれてしまいますわよ?」

「……」

「しっかりしてくださいませお兄様!」

「……」


 わたくし達のやり取りの裏でそんな会話が繰り広げられていることなどわかるはずもなく、わたくしはクロフォード様との会話を終え、勉強に取り掛かった。


「ええと、ここの計算に必要なのは確か……」

「パーダルの公式です」

「そうそう、そうだったわ。ダリル、ありがとう」

「……」



 わたくしはクロフォード様に聞こえないように小声でダリルにお礼を言い、問題の続きに取り掛かる。


「うーん……公式は間違えてないはずなのに、どうして答えが合わないのかしら」

「途中の計算でケアレスミスをしてます」

「ええ?……あ、本当だわ。ありがとう、ダリル」

「……」


 わたくしはダリルに再度お礼を言い、それからも問題を解き続けた。
 その後、わたくしが問題に詰まるたびにダリルは横からアドバイスをくれた。
 ありがたいことだが、さすがに申し訳ない気持ちになってくる。


「ダリル、わたくしのことはいいから、自分の勉強をしてちょうだい」

「俺には試験勉強は必要ありません」

「そ、そうなの……?」

「はい」


 さすが首席合格者。

 凡人のわたくしとは違い、一度授業を聞けばすべてを理解できるのだろうか。うらやましい反面、ちょっぴり嫉妬してしまいそうだ。

 わたくしはダリルの言葉に甘え、それからも勉強を手伝ってもらった。


「ふう、今日はこれくらいでいいかしらね」

「お疲れ様です」

「ふふ、ダリルも。わからないところを教えてくれてありがとう」

「当然のことです」


 わたくしとダリルが試験勉強を終え、ふと周りを見れば、クロフォード様がメアリー様に勉強を教えていた。

 バーバラ様は何故かにんまりしながらこちらを眺めている。何故だ。

 そろそろ勉強を切り上げて帰ろうかと思ったのだけれど、メアリー様はもう少しかかりそうね。
 わたくしは領地経営の本でも読んで待つことにしましょう。

 わたくしは静かに立ち上がると、目的の本を探しに向かった。
 



「領地経営……領地経営……」


 あれからもう15分以上は経つが、目的の本はまだ見つからない。

 クロフォード様に訊けば教えてくれるとは思うが、彼はさきほどメアリー様に勉強を教えていた。邪魔をするわけにはいかないだろう。


「今日はもう諦めて、一旦皆のところへ戻りましょうか」
 

 わたくしがちょうどそう思って立ち止まった時、目の前の書架がこちらに向かって倒れてきた。
 突然のことに、わたくしはその場から動けない。

 ダメ、ぶつかる……っ!

 わたくしはとっさに頭を庇い、ぎゅっと目を瞑った。

 

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