18 / 105
庇護欲をそそるという言葉は、何も女子供に向けてのものだけじゃない
11
しおりを挟む
「─── 明後日はお給料日だね。あまり聞いて良いことじゃないかもしれないけど……ノアは、お給料は何に使うのかな?」
ぎゅっとノアの腰を抱いたまま、アシェルが唐突に切り出した。
「そうですね、ほとんどはお世話になった孤児院に仕送りしています。でも、屋根が───」
「そっか。ノアは優しいね。でも、せっかく自分で稼いだお金なんだから、ちょっとは自分の為に使ってごらん」
「……ううーん、自分の為にですかぁ」
これは退職願いを口にするチャンスだと思ったノアではあるが、さらりと話題が変わってしまい渋面を作ってしまう。
「欲しいものは無いのかな?」
「無いですよ」
「キノコも?」
「キノコは好きですけど、どっちかっていうと自分の手で新種のキノコを見つけるのに喜びを感じているので、市場に行って買おうとは思いませんね」
正確に言うなら、庶民の市場で購入できるキノコは既に食べつくしているし、このお城で高級キノコも毎日食べさせていただいているから、大切なお給料から買う必要は無いのだ。
でも、そんな懇切丁寧な説明を受けたところで興味は無いだろう。聞きたくもない話を聞かされるのは、長ったらしいお説教を聞くより苦痛でしかない。
そんな理由でノアが端的な説明を終えると、アシェルは「なるほどね」と言ってくつくつ笑う。
アシェルの顔は今、ノアのお腹にくっついている。だから彼が笑うたびに、お腹が揺れて少しくすぐったい。
思わずもじっと身を捩れば、それを阻止するようにアシェルの巻き付く腕の力が強くなる。
でも彼は笑いを止めない。そして、笑いながら問いを重ねる。
「じゃあ、誰かに何かを贈りたいとも思わない?」
「ですから、孤児院に仕送りしてますよ」
なんで同じ質問を2度も繰り返すのかと思うが、きっとアシェルは自分がした質問すら忘れるくらい疲れているのだろうとノアは結論付ける。
でも、そうではなかったようだ。
「違う違う。特別な誰かに何かをあげたいんじゃないかなと思ってさ」
”特別な誰か”その含みのある響きに、ノアはまったく気付くこともしないで「いないですよー」とあっけらかんと答える。
実際、居ないのだ。孤児院の仲間は家族のように大切だし、ロキもおっかないけれど実の親より愛情を持っているが、ノアにとったら一括りの複数形である。
もちろん、恋慕う相手もいないし、そういう出会いも皆無だった。
そんなわけでやましい気持ちゼロのまま即答したノアに、アシェルは「……そっか」と呟く。つまらなそうというよりは、何かそこに思惑があるような響きだった。
けれど、残念ながら今回もノアはそれに気付かない。
それよりも退職願を切り出す方に重点を置いていた。そして意を決して、口を開く。
「あのう殿下、実はですね、私明後日のお給料をいただいたらそろそろ───…… え?」
普段から眼を閉じているアシェルだけれど、今はくすくす笑いが止まっている。そして規則正しい、微かな息遣いがお腹に伝わってきた。
(寝ちゃったかな?)
グレイアス先生の授業を免除してもらう代わりに膝を差し出したので、このまま寝られることに対して意義を唱えるつもりはない。
それに、こんな貧相な膝で心地よく寝てもらえるのは、飼いたての子犬から心を許されたかのようで、何だか嬉しくて誇らしい。
「……ゆっくり休んで下さいね。殿下」
ノアはそっとアシェルの前髪に触れる。
さらさらとした銀色の髪は、指の隙間をすり抜けてアシェルの顔を隠す。
(寝顔を見るのは、失礼だよね)
無防備な殿下の寝顔を見ることなんてこの先一生無いから、もうちょっとだけ見たかったけれど、デリカシーの無い奴と思われるのは不本意なのでノアは眼を閉じる。
雨は相変わらず、ざあざあと降り続いている。
でも、その音がまるで子守歌のように心地よく─── 気づけば執務部屋では二つの寝息が重なっていた。
ぎゅっとノアの腰を抱いたまま、アシェルが唐突に切り出した。
「そうですね、ほとんどはお世話になった孤児院に仕送りしています。でも、屋根が───」
「そっか。ノアは優しいね。でも、せっかく自分で稼いだお金なんだから、ちょっとは自分の為に使ってごらん」
「……ううーん、自分の為にですかぁ」
これは退職願いを口にするチャンスだと思ったノアではあるが、さらりと話題が変わってしまい渋面を作ってしまう。
「欲しいものは無いのかな?」
「無いですよ」
「キノコも?」
「キノコは好きですけど、どっちかっていうと自分の手で新種のキノコを見つけるのに喜びを感じているので、市場に行って買おうとは思いませんね」
正確に言うなら、庶民の市場で購入できるキノコは既に食べつくしているし、このお城で高級キノコも毎日食べさせていただいているから、大切なお給料から買う必要は無いのだ。
でも、そんな懇切丁寧な説明を受けたところで興味は無いだろう。聞きたくもない話を聞かされるのは、長ったらしいお説教を聞くより苦痛でしかない。
そんな理由でノアが端的な説明を終えると、アシェルは「なるほどね」と言ってくつくつ笑う。
アシェルの顔は今、ノアのお腹にくっついている。だから彼が笑うたびに、お腹が揺れて少しくすぐったい。
思わずもじっと身を捩れば、それを阻止するようにアシェルの巻き付く腕の力が強くなる。
でも彼は笑いを止めない。そして、笑いながら問いを重ねる。
「じゃあ、誰かに何かを贈りたいとも思わない?」
「ですから、孤児院に仕送りしてますよ」
なんで同じ質問を2度も繰り返すのかと思うが、きっとアシェルは自分がした質問すら忘れるくらい疲れているのだろうとノアは結論付ける。
でも、そうではなかったようだ。
「違う違う。特別な誰かに何かをあげたいんじゃないかなと思ってさ」
”特別な誰か”その含みのある響きに、ノアはまったく気付くこともしないで「いないですよー」とあっけらかんと答える。
実際、居ないのだ。孤児院の仲間は家族のように大切だし、ロキもおっかないけれど実の親より愛情を持っているが、ノアにとったら一括りの複数形である。
もちろん、恋慕う相手もいないし、そういう出会いも皆無だった。
そんなわけでやましい気持ちゼロのまま即答したノアに、アシェルは「……そっか」と呟く。つまらなそうというよりは、何かそこに思惑があるような響きだった。
けれど、残念ながら今回もノアはそれに気付かない。
それよりも退職願を切り出す方に重点を置いていた。そして意を決して、口を開く。
「あのう殿下、実はですね、私明後日のお給料をいただいたらそろそろ───…… え?」
普段から眼を閉じているアシェルだけれど、今はくすくす笑いが止まっている。そして規則正しい、微かな息遣いがお腹に伝わってきた。
(寝ちゃったかな?)
グレイアス先生の授業を免除してもらう代わりに膝を差し出したので、このまま寝られることに対して意義を唱えるつもりはない。
それに、こんな貧相な膝で心地よく寝てもらえるのは、飼いたての子犬から心を許されたかのようで、何だか嬉しくて誇らしい。
「……ゆっくり休んで下さいね。殿下」
ノアはそっとアシェルの前髪に触れる。
さらさらとした銀色の髪は、指の隙間をすり抜けてアシェルの顔を隠す。
(寝顔を見るのは、失礼だよね)
無防備な殿下の寝顔を見ることなんてこの先一生無いから、もうちょっとだけ見たかったけれど、デリカシーの無い奴と思われるのは不本意なのでノアは眼を閉じる。
雨は相変わらず、ざあざあと降り続いている。
でも、その音がまるで子守歌のように心地よく─── 気づけば執務部屋では二つの寝息が重なっていた。
47
あなたにおすすめの小説
これが運命ではなかったとしても
gacchi(がっち)
恋愛
アントシュ王国に生まれたルーチェ王女は精霊付きのため、他人と関わらないように隔離されていたが、家族には愛され不自由でも幸せに育っていた。そんなある日、父と兄が叔父に毒を盛られ捕縛される事件が起こり、精霊に守られ無事だったルーチェは塔へと閉じ込められる。半年後、ルーチェを助けてくれたのは隣国の国王の命令で派遣されてきた王弟アルフレッド。保護されたルーチェは隣国へと連れて行かれるが、そこでは生き別れの双子の妹シンディが王女として育てられていた。
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた
リコピン
恋愛
高校三年生の夏休み直前、勇者として異世界に召喚された明莉(あかり)。無事に魔王討伐を終えて戻ってきたのは良いけれど、召喚される前とは色んなことが違っていて。
ずっと大好きだったイケメン幼馴染みへの恋心(片想い)も、気づけばすっかり消えていた。
思い描いていた未来とは違うけれど、こちらの世界へついてきてくれた―異世界で苦楽を共にした―友達(女)もいる。残りわずかの高校生活を、思いきり楽しもう!
そう決めた矢先の新たな出会いが、知らなかった世界を連れてきた。
―あれ?私の勇者の力は、異世界限定だったはずなのに??
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち
せいめ
恋愛
侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。
病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。
また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。
「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」
無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。
そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。
生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。
マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。
「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」
三度目の人生はどうなる⁈
まずはアンネマリー編から。
誤字脱字、お許しください。
素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる