結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜

文字の大きさ
13 / 64
捕獲された花嫁と、交渉する花婿

10

しおりを挟む
 一分一秒が永遠と思われる中、ヨーシャ卿が緊張に耐えきれなくなり、わずかに身動ぎをしたと同時に、教会の扉が開く。

 そして開いた扉の先に、予想よりはるかに狭い教会内部がヴェール越しに見えた。
 
 ......左右の参列者のバランスがかなり悪い。
 そして8割りがた軍人だけのこの光景は、なんかもう結婚式というより、公開訓練前の朝礼か、はたまた出兵前の出陣式のよう。

 ただ、出兵するのはここにいる軍人ではない。シャンティとヨーシャ卿である。

「では、参りましょう」
「はい」

 短い会話の中に、互いの武運を祈りつつシャンティとヨーシャ卿は、足並み揃えて出陣した。

 とはいえ教会が狭ければ、当然ながらヴァージンロードも短い。
 ヨーシャ卿にとっては、シャンティをギルフォードの所まで届ければミッション完了である。難易度は低い。

 けれどシャンティからすれば、一歩一歩、震える足を叱咤しながら歩いてはいるけれど、その心境はとても複雑であった。

 本来ここは、長年育ててくれた最愛の父親のエスコートで歩くもの。そして、これまで与えてくれた沢山の愛情と思い出を胸に、一歩一歩、これまでの人生を振り替えるための道。

 そして、その先にはこれから共に歩む伴侶がいる。

 だからバージンロードとは、愛しさと切なさと、確約された未来へ向かう心強さでできている。

 なぁーんて、思っていた。
 きっと自分は祖父にエスコートされながら、感無量な気持ちになるとシャンティは思っていた。

 けれど実際には、知らないおっさんのエスコートで、歩いている。え?ちょ、マジで?という戸惑いオンリーの感情をだけを胸に、一歩一歩。

 そして、その先には私を恐喝してここまで誘拐してきた軍人がいる。

 ……え?なんか違くね?

 荘厳なパイプオルガンの音色がパロディにしか聞こえない。ちゃんちゃらおかしいぞ、オイ。

 そんなツッコミを入れつつ、視界がぼやける。もちろんこの涙は花嫁が流すそれではない。

 けれど、ヴェール越しにシャンティが目の端に涙を浮かべていることなど、誰も気付かない。しつこいけれど、ヴァージンロードは、とても短い。

 だからシャンティが、なんだかんだとツッコミを入れていれば、すぐに花婿の元まで到着してしまう。
 付け加えるならば、ヨーシャ卿の足取りが急に早まったのも理由の一つ。

 そしてこの伯爵さまは、間違いなくシャンティを引き渡した途端、脱兎の如く花嫁の親族席に消えるだろう。生気が甦った偽装の父親の横顔は、人を蹴落としても生き延びたいという人間の業がありありと現れていた。

 薄情ものっ。

 シャンティはヴェール越しに、ヨーシャ卿を睨みつける。

 でも、もし逆の立場だったら間違いなく同じことをしていた。けれど実際問題、取り残されたのはシャンティなので、やっぱり悪態くらい付く権利はある。

 ただその権利はあるけれど、逃げ出す権利は剥奪されている。......目の前の軍人花婿もとい悪魔に。

「さぁ、おいで」

 イケメンという仮面を被った悪魔ことギルフォードは、祭壇の前に到着したシャンティに向かって、蕩けるような笑みを向けた。

 まるで、今日という日をどれだけ待ち望んだかといわんばかりのそれ。

 いや、そんな小細工まで必要?!

 シャンティは本日もう何度目かわからないツッコミを入れてみた。

 けれど、ヨーシャ卿は罪人を警護団に引き渡す善良な市民よろしく、無理矢理自身の腕からシャンティの腕を引き剥がし、ギルフォードに託す。

 そして予想通り、一目散に花嫁の親族席に戻る。一仕事終えたような充実感を醸し出しながら。

 戦場に残された戦友にエールすら贈ることをしない薄情ぶりに、またしてもシャンティは王都の世知辛さを知った。

 けれど、式は順調に進んでいく。
 気づけばシャンティは祭壇に膝を付いて、神父さんの何やら有難いお話なるものを聞かされていた。 

 ただ神父の悦に入った朗読が無性に勘にさわる。ぶっちゃけ、腹立だしい。黙れこの馬鹿と、これまた悪態を付いてみる。神様の前でも、関係ない。

 それにこの程度で罰を下すほど神は狭小ではないとシャンティは信じている。......どうかそれくらいは、信じさせて欲しい。
 そして早く終われ。一刻も早く終われと、神に祈った。

 その願いが聞き届けられたのかはわからないけれど、神父はもったいぶった仕草で聖書を閉じる。演出大事とわかってはいるけれど、今のシャンティには、それすら嫌がらせにしか感じ取れない。

 そんなこんなで、シャンティは不機嫌マックスだった。

 けれど、やっぱり式は順調に進んでいく。

 今度は腕を掴んで立たされる。そして手袋をもぎ取られ、指輪をはめられる。その一つ一つのギルフォードの仕草は壊れ物を扱うような慎重で、それでいて優しい手付きだった。

 そして今度は花婿に指輪をはめろと、シャンティはそれを押し付けられる。

 余談だが、それらの儀式をアシストするのは、軍人2名。所謂ベストマンとメイドオブオナーと呼ばれる存在。
 ちなみにベストマンは初対面ではない。本日2度目。シャンティ側の厄介事を処理してくれた(はず)のエリアス。これが偽装劇だと知っているのにもかかわらず、いかにも花婿の友人です的な顔をしている。

 メイドオブオナーの方は初対面。ただなかなかの美人さんである。だが、今のシャンティにとっては、そんなことはどうでも良い。けれど、この女性も、シャンティとは初対面のはずなのに、長年の友人っぽいキャラを演じている。

 ......軍人とはいやはや恐ろしい。

 シャンティはそんなことを思いながら、操り人形のように、ぎくしゃくとギルフォードの指に指輪をはめた。武骨な指に、銀のリングが収まったのを見て、一先ずほっとする。

 だが、これはシャンティにとって余興にすぎなかった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...