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しおりを挟む「ーー軽蔑されましたか?」
向かい合ってダンスの型を組んで、ステップを踏み出したと同時に、フェルベラは恐る恐るリヒタスに問いかけた。
「まさか。惚れ直したよ。さすが僕の婚約者だ」
「ふふっ。リヒタスさん、今は私たちの会話なんて誰も聞いてないですから、演技しなくても良いですよ」
意外に完璧主義なんだなとフェルベラは感心したけれど、リヒタスはなぜかムッとする。
「僕は今日は一度も演技なんてしてないよ」
「……っ……え?」
「今日言ったことは全部本心。僕さぁ、ずっとフェルベラさんに惚れてるんだけど?」
「ど?って言われても……そんな……」
ダンスを踊りながらのだだくさな愛の告白。もう、何だそれと言いたい。
「気付いてなかったようだね。もしかして弟として僕のこと見てた?」
「ここはやっぱり王都。さすがに雪はそんなに降ってないですねー」
「誤魔化さないで」
「……」
キツイ口調で窘められて、フェルベラは目を泳がす。
だって二度目の婚約者に期待なんてしてなかったから。
リヒタスが自分のことを大事に扱うのは義務でしかないと思い込んでいたから。今日のサプライズだって、共同生活を送る者への労いからくるものだとしか思ってなかったから。
などということをどうして口に出して言えようか。
「ごめんなさい」
「あー、今ので全部なんかわかった」
「ほんと、ごめんなさい」
「謝罪は時として人の心を抉ることをフェルベラさんは覚えた方がいいよ」
「ごめ……いえ、心に刻みます」
「そうしてください」
ムスッとしたままリヒタスはダンスを踊り続ける。心なしかリードが荒いけれど、それに文句を言う権利はフェルベラには無い。
とにかく黙ったまま踊る。ある意味、こんなに緊張するダンスは生まれてはじめだ。
「僕さぁ……これからもっと頑張るよ」
しばらくフェルベラを好き勝手に振り回していたリヒタスは、急に優しいリードに変えてそう宣言した。
「だから、フェルベラさんも僕のこと、ちょっとは異性として意識して。ね?」
強く同意を求める「ね?」は、あまりに魅力的で、フェルベラは目眩すら覚えてしまう。
「……あんまり期待しないでね」
「うん。期待を超えるほど頑張るよ」
ルグ領に向かう途中に、フェルベラは何度も自分に言い聞かせた。
二度目の婚約者には何も期待しない。しちゃいけない。するだけ無駄、と。
ーーなのに。それなのに、
胸に埋め込んだ呪詛に近いその言葉を容易く打ち砕くリヒタスに、フェルベラはどうしたって彼との明るい未来を描く自分を止めることはできなかった。
◇◆◇◆おわり◆◇◆◇
最後まで読んでいただきありがとうございましたヽ(=´▽`=)ノ
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