二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜

文字の大きさ
15 / 15

15

しおりを挟む

「ーー軽蔑されましたか?」

 向かい合ってダンスの型を組んで、ステップを踏み出したと同時に、フェルベラは恐る恐るリヒタスに問いかけた。

「まさか。惚れ直したよ。さすが僕の婚約者だ」
「ふふっ。リヒタスさん、今は私たちの会話なんて誰も聞いてないですから、演技しなくても良いですよ」

 意外に完璧主義なんだなとフェルベラは感心したけれど、リヒタスはなぜかムッとする。

「僕は今日は一度も演技なんてしてないよ」
「……っ……え?」
「今日言ったことは全部本心。僕さぁ、ずっとフェルベラさんに惚れてるんだけど?」
「ど?って言われても……そんな……」

 ダンスを踊りながらのだだくさな愛の告白。もう、何だそれと言いたい。

「気付いてなかったようだね。もしかして弟として僕のこと見てた?」
「ここはやっぱり王都。さすがに雪はそんなに降ってないですねー」
「誤魔化さないで」
「……」

 キツイ口調で窘められて、フェルベラは目を泳がす。

 だって二度目の婚約者に期待なんてしてなかったから。

 リヒタスが自分のことを大事に扱うのは義務でしかないと思い込んでいたから。今日のサプライズだって、共同生活を送る者への労いからくるものだとしか思ってなかったから。

 などということをどうして口に出して言えようか。

「ごめんなさい」
「あー、今ので全部なんかわかった」
「ほんと、ごめんなさい」
「謝罪は時として人の心を抉ることをフェルベラさんは覚えた方がいいよ」
「ごめ……いえ、心に刻みます」
「そうしてください」

 ムスッとしたままリヒタスはダンスを踊り続ける。心なしかリードが荒いけれど、それに文句を言う権利はフェルベラには無い。

 とにかく黙ったまま踊る。ある意味、こんなに緊張するダンスは生まれてはじめだ。

「僕さぁ……これからもっと頑張るよ」

 しばらくフェルベラを好き勝手に振り回していたリヒタスは、急に優しいリードに変えてそう宣言した。

「だから、フェルベラさんも僕のこと、ちょっとは異性として意識して。ね?」

 強く同意を求める「ね?」は、あまりに魅力的で、フェルベラは目眩すら覚えてしまう。

「……あんまり期待しないでね」
「うん。期待を超えるほど頑張るよ」

 ルグ領に向かう途中に、フェルベラは何度も自分に言い聞かせた。

 二度目の婚約者には何も期待しない。しちゃいけない。するだけ無駄、と。


 ーーなのに。それなのに、


 胸に埋め込んだ呪詛に近いその言葉を容易く打ち砕くリヒタスに、フェルベラはどうしたって彼との明るい未来を描く自分を止めることはできなかった。


◇◆◇◆おわり◆◇◆◇

最後まで読んでいただきありがとうございましたヽ(=´▽`=)ノ
しおりを挟む
感想 27

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(27件)

まめたぬき
2025.02.02 まめたぬき

面白くて一気読みしました!

全力で味方してくれる年下婚約者が可愛くて頼もしい
2人のやり取りにほっこり

妹、元婚約者、両親へのざまぁもスカッとしました

解除
pupuji
2025.01.20 pupuji

ひゃーーー!かわいい!かっこいい!!!ほれたぁぁぁぁぁ!!素敵だよ雪男!!ああ。。もっとバカ親とバカ妹とバカ元婚約者のざまぁが見たかったけど。まぁいいか。ああ。なんてかわいい辺境伯。いいなぁ。

解除
ru_ruru
2021.12.09 ru_ruru

一気に読みました!
めちゃくちゃ面白かったですっ(^^)
番外編的な、後日談的なのほしい…
(*´ω`*)
お気に入り登録しとこ〜っと♪♪
ありがとうございました〜!!

解除

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

〘完結〛わたし悪役令嬢じゃありませんけど?

桜井ことり
恋愛
伯爵令嬢ソフィアは優しく穏やかな性格で婚約者である公爵家の次男ライネルと順風満帆のはず?だった。

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

婚約破棄ならもうしましたよ?

春先 あみ
恋愛
リリア・ラテフィール伯爵令嬢の元にお約束の婚約破棄を突き付けてきたビーツ侯爵家嫡男とピピ男爵令嬢 しかし、彼等の断罪イベントは国家転覆を目論む巧妙な罠!?…だったらよかったなぁ!! リリアの親友、フィーナが主観でお送りします 「なんで今日の今なのよ!!婚約破棄ならとっくにしたじゃない!!」 ……… 初投稿作品です 恋愛コメディは初めて書きます 楽しんで頂ければ幸いです 感想等いただけるととても嬉しいです! 2019年3月25日、完結致しました! ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。