ゆきばあの、あしあと

当麻月菜

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初バイトからの、初インバイト

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 終業式を終えて帰宅した羽咲は、帰り際に会った名無しの少年のことは伏せて、アルバイトの許可だけを母親に求めた。

 校則はアルバイトを禁止してないけれど、きっと母親は難色を示すだろう。そう決めつけていた羽咲は、奏海から聞いた話を少々脚色して伝える気でいた。

 しかし母親は、羽咲が「実は友達からアルバイトに誘われたんだけど……」と、切り出したところであっさり許可を出した。

 戸惑ったのは、羽咲の方だ。本当に?四十九日前なのに、いいの??と、詰め寄る羽咲に、母親は呆れ顔でこう言った。

『ママもパパも四十九日前だけど、働いてるでしょ?それに四十九日って、何でもかんでも自粛するんじゃなくって、おばあちゃんにこれまでの感謝を伝えるためにあるのよ』 

 これ以上ないほどわかりやすく説明してくれた羽咲は、念のため父親にもスマホで連絡を取った。

 夜勤中の父親からの返事は夕食を過ぎた後だったけれど、母親とほぼ同じ返事だった。

『羽咲、それはいい経験だ!!何があっても頑張れ!!ガッツだぞ!!』

 元アスリート社員らしい熱血エールまでいただき、これはもうウジウジ考える必要はないと判断し、奏海にバイトができる旨を連絡した。

 それから、初バイトはいつにするか。喫茶店はどこにあるのか。何時に出勤か。ついでに、何を着ていけばいいか。他愛もない話題も交えて、羽咲は長い時間、奏海とメッセージのやり取りをし続けた。

 でも、そんなことをしながら、羽咲の心の一部は別のところにあった。

 ──四十九日は、おばあちゃんにこれまでの感謝を伝えるためにある。

 当たり前のことだというように淡々と説明されたけれど、羽咲は素直に聞き入れることができなかった。

「おばあちゃんは、今頃私に感謝されても……迷惑なんじゃないの?」

 スマホをいじる手を止めて、羽咲は溜息を吐く。

 祖母に対して、感謝の気持ちは誰よりもある。でも、そういう気持ちを持っていても、伝える資格のある人と、無い人がいるのではないか。

 そして、資格があるかどうか決められるのは、神様ではなく、伝えたいと思う側でもなく、受け取る側のみ。

 羽咲の感謝の気持ちを受け取ってくれる人は、もうこの世にはいない。伝える資格があるかどうか、教えてくれる人も、もういない。

「なら、私は……どうすればいいんだろう」 

 奏海とのメッセージのやり取りを終えた羽咲は、自室の窓辺に立つ。夜空に浮かぶ月は、羽咲を見下ろしてはいるが、何かを導いてくれるわけじゃない。

「……そうだよねぇ、自分で探さなきゃ」 

 コツンと窓ガラスに額をつけて、羽咲は目を閉じる。

 迷っていても、後悔し続けても、じっとしているだけじゃ何も変わらない。

 まずは、アルバイトを頑張ろう。出来ないことができるようになったら、天国にいる祖母は、自分のことを少しは見直してくれるかもしれない。

 その決意は、自分を慰めるものだとわかっていても、羽咲は僅かに救われた気持ちになった。





 ──それから数日が過ぎて、夏休み、最初の水曜日が来た。

 カーテンを閉め切った薄暗い羽咲の部屋に、ピピピッ!と、スマホのアラームが鳴り響く。

「……う……ううーん」

 タオルケットから手を出した羽咲は、枕元のにあるスマホを掴んでアラームを解除する。そして、再びタオルケットを身体に巻き付け、目を閉じようとしたけれど──

「ちょっと……え?な、何!?」

 ジリジリジリジリッーーー!!っと、年季の入った目覚まし時計が鳴り響き、羽咲は飛び起きた。
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