ゆきばあの、あしあと

当麻月菜

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祖母に捧げるラブソング

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 扉が閉まり、電車がゆっくりと動き出す。

 ホームにいる矢田が口をパクパクさせて何か言っているが、羽咲には聞こえない。

「……いいのか?」
「なにが?」
「友達見捨てて、俺んとこきたから」
「いい。それに友達じゃない」

 ただのクラスメイトだよと、伝えようとしたけれど、それより前に大和が口を開く。

「え?知り合いじゃないなら、絡まれてたってことか?」
「ははは……」

 絡まれるとは、ナンパと言いがかりと二種類ある。大和はどっちの意味で問うたのだろう。どうせ、後者だ。決まってる。

「それより、これ。この前、返し忘れてごめん」

 会田のことを説明するのが面倒になり、羽咲は手に持ったままの帽子を大和にかぶせた。

「ああ」

 許可なくスキンシップを取ったけれど、大和は不満を言うことなく帽子の位置を直してくれる。

「あとお茶も、どうぞ」
「どうも」

 ついでに水筒を差し出したら、大和は素直に受け取りつつも、なぜか複雑な表情を浮かべている。

「もしかして、スポドリ派だった?」
「いや違うけど。なぁ……このお茶って何茶?」
「ん?麦茶だよ」
「嘘だろ。俺の知ってる麦茶は、あんな味しないぞ」

 怒ってるわけじゃないが、大和は納得できない顔をしている。そんな大和を、地下鉄に乗っている人たちが、チラチラ見ている。

 ただ水筒の中身の話をしているだけなのに人を惹きつけるなんて、すごいイケメンっぷりだ。

 そんな風に羽咲が他のことに気を取られているのに気づいていないのか、大和は水筒のふたを開けて一口飲む。

「やっぱこれ、麦茶じゃないぞ。なんか入ってるのか?」

 しつこく尋ねる大和に、羽咲はふふっと笑いを漏らす。

「そう。入っている。熱中症対策に梅干し入れといたの」
「あーーーそれかぁーー」

 難解なパズルが解けたように、大和は笑顔になる。至近距離でそれを見た羽咲は、そっと視線をずらす。眩しすぎるし、心臓に良くない。

 大和といえば、今度はズボンのポケットからスマホを取り出し、何かを検索している。

 忙しい人だ、と羽咲が心の中で呟いたと同時に、地下鉄は乗換駅である栄に到着した。



 無事に乗り換えを終えて金山に到着した二人は、大和を先頭にしてカラオケサークルの人達が待つカラオケ店に向かう。

 遊びに行くのも、新幹線に乗るのも、全て東山線で事足りるので、羽咲にとって金山は未開の地だ。

 一方、大和はホームのようで、目的地に進む足取りに迷いがない。

「大和君って、この辺り詳しいの?」
「いや、全然」
「でもサクサク歩いてるじゃん」
「あー、事前に地図確認しといたから」

 大したことないといった感じで答えた大和に、羽咲は目を丸くする。

「地図見ただけで、知らない場所に行けるなんて……すごっ」
「羽咲さんだってこの前、不動産屋まで迷わず行けたじゃないっすか」
「あれは、まあまあ近所だったし、運が良かっただけだよ」
「あんとき、運頼りで炎天下を歩かされてたってわけか、俺」

 とりとめもない会話をしてたら、大和が不機嫌になってしまい、羽咲はしまったと心の中で焦る。

「大和君って、カラオケ行ったりする?女の子に結構誘われるんじゃないの?」
「行きませんけど?あと、話題変えるなら、もっとマシなやつにしたらどうっすか?」
「……そうだね」

 更に大和を不機嫌にさせてしまった羽咲は、その後は黙って歩き続けた。
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