銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ようやく見えてきました。イヴァル帝国の王都が。久しぶりではありませんか?」
「そうだね…」

 馬に揺られながらトラビスが僕を振り返り、嬉しそうに言う。
 その顔を見て、僕は少しだけ苛ついた。
 滅多に笑顔を見せないおまえがそんな顔をするのは、今度こそ僕を殺せることが嬉しいから?
 僕は息を吐いて小さく首を振る。
 リアムと離れてから、僕の思考がどんどんと黒く染まっていく。
 そして二度と戻ることはないと思っていた王都を目にして、僕の胸が苦しくなった。懐かしい感情と姉上や母上に申しわけない気持ちとラズールに会うことが怖い思いと。いろんな気持ちが混ざって苦しい。リアムが傍にいないことも寂しくて苦しい。でも不思議と殺されることは怖いと思わない。ずいぶんと前から覚悟はできていたから。
「少し暑いですね」と言いながら、トラビスがコートを脱ぐ。コートの下は、商人の格好ではなく濃い青色の軍服に着替えている。イヴァル帝国に入った日の朝に、国境近くの宿で着替えたのだ。
 僕はトラビスを一瞥すると、王都の高い塀を見ながら口を開く。

「イヴァルは北の国に比べると暖かいな。冬でも過ごしやすく良い国だ」
「当然です。ところで北の国とは?」
「デネス大国だよ。とても寒かった」
「そんな遠くまで行かれたのですか」
「そうだよ。いつ追手が来て殺されるかわからないから。自由があるうちに行ってみたかった」
「それは…バイロンの第二王子と一緒に…」
「うん。彼は優しいんだ。僕が心配だからとついて来てくれた」
「そうですか…。それは貴重な経験をされましたね。俺はまだデネスには行ったことがありません」
「へぇ?また今度話してやっても……」
「はい。ぜひお願いします」

 僕は苦い顔で口を噤んで前方を見つめる。
 今度ってなに。今度なんてないのに。トラビスと数日、二人きりで旅をして、少し心を許してしまった。口を緩めすぎた。
 リアムと出会って、この先もずっと生きていくのだと夢を見た。でも夢は夢だ。僕に未来はない。生まれた瞬間からそんなものはなかった。そして間もなく、僕はこの世界から消える。僕という存在を知る者は少ない。だから僕が消えても世界は何も変わらない。ただ…リアムにだけは忘れられたくない。隣国に僕という王子がいたことを、できれば忘れないで欲しい。リアムが覚えてさえいてくれたら、僕は満足だ。

「どうされました?フィル様もコートを脱ぎますか?」
「そうだね…」

 僕は馬を止めると、マントとコートを脱いだ。
 隣に来て手を差し出すトラビスに、訝しげな顔を見せる。

「なに?」
「コートをこちらへ。お持ちします」
「いいよ、別に…」

 コートを前に置いて首を振る。でも僕がマントを羽織っている間に、トラビスがコートを取り上げてしまった。

「これは綺麗にして後で部屋に届けます。フィル様、城内の部屋に入るまでは、銀髪を見られないように気をつけてください」
「わかってる」

 トラビスがうるさくて、僕は思いっきり嫌な顔をする。
 こいつはこんなに喋る奴だったのかと思いながら息を吐く。
 城にいる時は、顔を合わせても挨拶程度にしか言葉を交わしたことがなかったから、知らなかった。
 トラビスが僕を見て不思議そうに眉を動かした。

「なにか気分を害されることがありましたか?」

 僕は無言でトラビスを見て前を向く。

「なにも。早く姉上に会いたい」
「かしこまりました」

 トラビスが、馬の腹を蹴って速度をあげる。
 僕も遅れないようにロロの腹を蹴る。
 王都がどんどんと近づくにつれて、僕の鼓動が壊れそうなくらいに激しく鳴り始めた。

 
 
 
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