銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「フィル様?」と声をかけられて、ハッと意識を戻す。

「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「疲れたのなら、仰ってくださいよ。フィル様はネロに玉座を譲って、この先何をするつもりですか?」

 僕は隣に顔を向けて、かすかに笑う。

「今のトラビスなら、僕の気持ちがよくわかると思う。…僕は死ぬ前に、リアムに会いたい。お互いに忘れてしまったりして、すれ違ったままは嫌だ。もう一度、気持ちを伝えたい」
「では、バイロン国に行かれるのですか?」
「うん」

 頷いた僕の視界が涙でにじむ。
 トラビスが慌てて「どうしましたっ?」と手を伸ばして僕に触れる。
 僕は袖で目を押さえたけど、涙が止まらない。リアムと出会ってから、僕は泣き虫になってしまった。昔はラズールの前でしか泣かなかったのに。今は誰の前でも泣いてしまう。こんなに弱くて、王なんてできない。
 僕は目を押えたまま声を絞り出した。

「リアムが…牢に入れられてるって…。クルト王子に…毒を飲まされて、苦しんでるって…」
「なんだと?あのクソ王子がっ!自分の弟をっ」
「だから…リアムを助けたい。牢から出して、治してあげたいんだ…っ」
「わかりました」

 トラビスが、あやすように僕の背中を軽く叩く。
 想いを吐き出したおかげか、僕の涙がようやく止まった。
 トラビスが僕の顔を覗き込み、優しく目を細める。だけど僕は知ってるよ。ネロには、もっと優しい目をしていることを。

「またバイロン国に潜入ですね?任せてください。今度こそ、絶対に傍を離れません」
「なに言ってるの?つい先ほど、ネロを守るって約束したじゃないか。おまえは王城に戻るんだよ」

 僕が首を傾げて言うと、トラビスが目を見開いて叫んだ。

「はあっ?では誰を連れて行くと言うんですか!ラズールですか?アイツが素直にリアム王子を助けるとは思えないですけどっ」
「わかってる。だからラズールも連れて行かない。僕一人で行く」
「ダメです!いくらなんでもそれは危険です!」
「どうして?ネロに玉座を譲るんだから、僕はもう、ただの人だよ?」
「理屈ではそうですけど、それでもあなたは、我々イヴァルの民にとっては大切な方です!危険だとわかる場所に、一人では行かせません!」

 ああ…嬉しいな。この国で、僕の味方はラズールだけだと思っていたけど、トラビスもこんなに思ってくれていたんだ。
 嬉しくて、自然と口角が上がってしまう。
 途端にトラビスが「なにを笑ってるんですかっ」と怒る。
 僕はシャツの袖をめくって、腕をトラビスに見せた。

「おまえは怒りっぽいね。気をつけないと、ネロに嫌われるよ?…ねぇ、この赤い痣を、もう一度見て。僕はもうすぐ死ぬ。だからお願い。最後に望みを叶えさせて。じゃないと、死んだ後におまえを呪うからね」
「フィル様…」

 トラビスの凛々しい眉毛が下がる。
 呪うという言葉に反応したんじゃなくて、もうすぐ死ぬという僕を、哀れんでくれているんだ。
 僕は適当なことを言ってるんじゃない。ネロからイヴァル帝国にまつわる話を聞いて、痣のことを考えて、わかったんだ。
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