銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが水を持って戻ってきた。
 桶に入った水で顔を荒い、布を濡らして簡単に身体を拭く。背中はラズールに拭いてもらおうと布を渡す。
 僕の背中に布を当てたラズールが、小さく「あ」と声を漏らした。

「なに?」
「いえ…」
「もしかして、背中まで赤い痣が出てきた?」
「はい…」
「じゃあ急がないとだね。早くクルト王子の所へ行こう」
「はい…」

 いつもキビキビとしているラズールが頼りない返事をする。僕のせいなんだろうけど、いつも通りのラズールでいてほしい。
 背中を拭いてもらってシャツと上着を着る。そして振り向くと、僕はラズールの胸を軽く殴った。
 
「フィル様?」

 ラズールが胸を押さえて驚いた顔をする。
 僕は両手でラズールの上着の衿を掴んで引き寄せた。

「しっかりして。クルト王子の前で情けない姿をさらしたら許さないよ。これからおまえは大切な役目があるんだから」
「…かしこまりました」
「ん、わかったならいい。行こうか」
「はい」

 深く頷いたラズールから手を離すと、僕は机の上の、三通の手紙を上着のポケットに入れた。
 僕の後から天幕を出ながら「それは何ですか?」とラズールが聞いてくる。
 隣に来たラズールを見上げて、僕は「手紙だよ」と答えた。

「第二王子への…ですか」
「違う。大宰相や大臣、それとネロにだよ。トラビスに預かってもらうの」
「そうですか…」

 そう呟いてラズールは黙った。
 僕は挨拶をしてくる騎士達に挨拶を返しながら進み、トラビスの天幕に着いた。

「トラビス、僕だ」

 声をかけると、すぐにトラビスが出てくる。
 
「おはようございます」
「おはよう。クルト王子の様子は?」
「とても大人しかったですよ。あまり眠れてはなかったようですが」
「そう。入っても?」
「どうぞ」

 トラビスが持ち上げてくれた布をくぐって中に入る。
 僕とラズールの後にトラビスが入り、入口に結界を張った。
 クルト王子は、両手と両足は拘束されたままだったが、柱にくくり付けられてはいなかった。

「おはようございます、クルト王子。不便な格好にさせたままで、申しわけありません」
「別に不便でもない。横にはなれたからな」
「お話があると聞きました」
「ああ、答えが出た」
「そうですか。あなたの返答次第で拘束を解きます。軍を引いてくれますか?」
「ああ。軍を連れて王都に戻る」

 クルト王子が、僕の目を見て言う。嘘を言ってるようには感じない。

「約束してくださいますか」
「約束する。俺のことは信用できないだろうが…」
「今は信用します。でも、もし僕を騙したのなら、刺し違えてでも殺しますよ」
「ははっ、リアムの想い人は怖いな」
「国のためなら、僕は命を差し出せます」
「…そうか」

 クルト王子が目を見開き、そして伏せる。何かを考え込んでいるようだ。昨日から、よくそんな表情をする。
 僕は渋るトラビスに命じて、クルト王子の拘束を解いてもらった。

 
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