ふれたら消える

明樹

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 夏樹はすぐに来た。塾終わりで、昊に会うために近くまで来ていたらしい。
 颯人が玄関で夏樹を迎え、部屋まで連れてきてくれた。

「よお。青が俺を呼ぶなんて珍しいな。どした?」
「塾で疲れてるのにごめん」
「大丈夫だ。どうせ昊に用事があったし。で、昊はどこ行ったん?」
「…篠山が来て、一緒に出てった」
「…は?」

 夏樹が渋い顔をして、俺と颯人の前に座る。そして「マジかよ」と呟き、腕を組んで天井をあおいだ。

「夏樹は知ってた?」

「ん?」と顔を下ろして夏樹が俺を見る。

「なにを?」
「昊が篠山とつき合ってること。去年からだって」
「あー…まあな」
「なんで教えてくんなかったの?」
「いや…あんまり公にできる話でもないかなと思って…ごめんな」

 夏樹が腕をほどいて頭を下げた。年下の俺にも、夏樹は素直に謝ることができ、対等に接してくれる。根っからの良い人なんだと思う。
 夏樹はもう一度、腕を組み直すと「でもなぁ」と再び呟く。

「なに?」
「昊さ、篠山があまりにもしつこくて、仕方がないからつき合うことになったみたいだけど、友達みたいな関係だったぞ?それに高校が離れたから、もう別れてるんだと思ってた。実際、会ってなかったはずなんだけど」
「そうなの?」

 俺は少し安心した。つき合ったけど友達みたいな関係って、ただの友達じゃん。昊に確かめてみないとわからないけど、夏樹の話からすると、恋人のような深い関係ではなさそうだ。もしも二人の間に何かあったとしたら、昊の態度で気づく自信がある。二人がつきあい始めた頃から今まで、昊に変な様子はなかった…。あ、一度あったな。俺と一緒に寝なくなった日。そうか、あの日からつきあい始めたんだな。だから昊の様子がおかしかったんだな。
 俺は納得して頷くと同時に、どうしてあの時、もっと深く昊に話を聞かなかったのかと後悔した。夏樹は、昊は仕方なく篠山とつき合うことになったと言った。何か弱味を握られているのかもしれない。俺が話を聞いていたら、昊を助けてあげられたかもしれない。でも、今からでも遅くない。昊が帰ってきたら聞いてみよう。昊を篠山から守るんだ。

「ねぇ夏樹さん。その、仕方なくって何か理由があるの?」

 颯人が、俺が気になっていた疑問を口にする。
 俺と颯人が夏樹を見たけど、「悪い。俺は知らない」と夏樹が首を横に振った。
 そうか、と俺は肩を落とした。
 しかし颯人は、夏樹から目をそらさずジッと見つめていた。
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