ふれたら消える

明樹

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 昨夜から昼まで、俺は幸せだった。
 だけど今は、とても不幸せだ。
 だって、俺の目の前で、青が女の子の部屋に入っていった。肩に腕まで回して。なに?彼女いるんじゃん。それなのに俺を抱いたのかよ。サイテーだな。
 

 休みの今日、少しでも早い方がいいと思い、柊木を呼び出した。いつも待ち合わせに使っていたカフェに現れた柊木の顔を見て、心が痛んだ。辛さから逃げるために柊木を利用して、今は幸せになったからと柊木と別れようとしている。我ながらひどいと思う。
 だから、罵られても殴れてもいい覚悟で別れを告げた。
 柊木は冷静だった。静かに「どうして?」と聞いた。

「ごめん、好きな人といたいから」
「ふーん、両思いになったんだ?」
「…そうだ」
「そっか。昊がそうしたいならいいよ。俺は少しの間だったけど、昊と付き合えて満足だよ」
「柊木…ありがとう」

 柊木は「最後まで下の名前で呼んでくれなかったね」と寂しそうに笑った。そして柊木を残して店を出て、青に「今から会いたい」とメールを送ったのだ。
 でも返事が来なかった。青も今日は休みだし、友達と出かけてるのかもしれないと、家へ帰ろうと駅に向かった。そこで女の子といる青を見かけ、心配になって後をつけた。
 賑やかな駅前から離れ、住宅街へ向かう二人の背中を見ながら、家まで送ってあげてるだけだと思った。だって青は優しいから。でもそうじゃなくて、青が女の子の肩を抱いてアパートの部屋の中に入ってしまった。
 すぐに出てくると期待したけど、しばらく待っても出てこなかった。
 ショックだった。手足の指先が急速に冷えてきた。だけど青を想う気持ちは冷めてくれない。きっと、もっとひどい仕打ちを受けても、俺は青を愛してるんだろう。
 心の中で知りうる限りの言葉で青を罵倒しながら家に帰る。
 でも青のこと、言えないよな。俺だって、柊木と付き合ってた。キスやセックスはしてないけど、それらしいことならしてたから。でも柊木には別れを告げた。悲しそうな顔をしてたけど、柊木は素直に受け入れてくれた。俺の本当の気持ちを、知っていたんだろう。
 あーあ、やっと青と繋がれて、これからは離れないと誓ったのにな。嬉しかったのにな。幸せは長く続かないもんだな。


 家に帰ると、母さんが玄関を入ったところに立っていた。俺を見て「おかえり」と笑ったけど、目が笑っていない。
 俺の心臓が早鐘を打ち始める。昨夜のこと、バレた?母さん、あの時と同じ顔をしている。怖い。
 しかし母さんは怒って暴れたりしなかった。ただ静かに、「今から出かけるから」と言った。
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