一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧

文字の大きさ
2 / 15

2

しおりを挟む
 それから一週間。

 なんとなく酒場から足が遠のいていたが、そろそろ女将の煮込み料理が恋しくなり、久しぶりに足を運んでみた。

「おや、見かけない顔だね」
「最近越してきたんです」

 流石に前の姿は出来ず、雀斑顔におさげと言う田舎の町娘姿でやって来た。

「そう言えば、この間ルイース様と揉めてた娘さん最近見ないね」
「ああ、あれからぱったり来なくなったねぇ」

 女将と常連客の会話に「ここにいますよ」と口元が緩むのを必死に抑え、心の中で呟いておいた。

「おや、なんだあんたら知らんのか?そのお嬢さん、何やらルイース様の反感を買ったらしくてな。血眼になって探してるって噂だよ?」

 横で飲んでいたもう一人の客の口からとんでもないことを聞かされたシャルロッテは「ブー!!!!」と勢いよく酒を吹き出した。

「大丈夫かい!?」とむせるシャルロッテに素早くタオルを渡しつつ背中をさすってくれるが、それどころでは無い。

 口の端から酒を零しながら、どういうことか聞き出そうとした。その時─…

「お、ルイース様じゃないか」

 心臓が口から出るかと思った。

「今ちょうど、噂していた所だよ」
「それは気になりますね」

 ルイースはシャルロッテに気付く様子もなく、カウンターに腰掛けた。
 当のシャルロッテは息を殺し、カウンターの端で小さくなって酒を飲み始めた。

「いやぁ、この間のお嬢さんをルイース様が探してるって話を聞いて、まさかなぁって思ってさ」

 あはははと冗談交じりに言ったが「そうですよ」と即答で返事が返ってきた。

「この店に来ればまた会えるかと思ったんですが…」
「え、あ、ああ、あのお嬢さんなら、あの日以降は来てないよ?」
「そうですか…」

 人当たりはいいがあまり他人に興味を持たず、去るもの追わず来る者は拒まずのイメージが強いルイース。そんな彼が、特定の人間に興味を示すなんて…その場にいた全員が驚愕の表情をした。

「ん?そちらのお嬢さんは?」

 急にこちらに視線を向けられ、ビクッと肩が跳ねた。

「ああ、この子は最近こっちに越してきたらしいんだよ」
「へぇ~、随分若く見えますが…」
「これでも一応、成人してますので」

 疑われないように必死に笑顔を取り繕い対応するが、ルイースの鋭い目は中々逸らしてくれない。
 気にしたら負けだと思い酒を呷るが、これ程までに喉を通らない酒は初めてだった。

 しばらくすると諦めたのか、溜息を吐きながら席を立った。

「…また来ます。もし、来たらすぐに教えて下さい」

 それだけ伝えると、酒も飲まずに店を出て行った。何やら慌てた様子にその場にいた者らは「何があったんだ?」と口々に噂しだし、シャルロッテは居心地の悪さに酔いもそこそこで家に帰ることにした。


 ❊❊❊


 ドンドンドンッ!!

 次の日の早朝、けたたましい音でシャルロッテの目が覚めた。
 外はまだ日が昇り始めたばかりで、鳥の声もまばら。なんなら朝霧がかかっている始末。

「一体、誰よ…」

 そう呟くが、一人だけ思い当たる節がある。

 月に一度、珍しい薬草や薬に使われる材料を届けてくれる、薬の移動販売屋がいる。そろそろ来る頃だなと思ってはいたが…

 この場所を知っているのはそいつしかいない。何より、こちらの都合を考えず非常識な時間に訪れてくるなんて、奴しか考えられない。

「もぉ~、分かった分かった。今開けるわよ」

 気だるそうに体を起こし、鳴り止まない扉へと近付いた。

「はいはい。何度も言うようだけど、時間を考えて─…」

 扉を開けながら顔を上げると、そこには仁王立ちのルイースが立っていた。

「………間違えました………」

 何事も無かった様に扉を閉めようとしたが、いち早く足を入れられ閉めることが出来ない。

「ちょっと!!人を呼ぶわよ!!」
「こんな森の奥に人が来ると?」
「─ぐっ」

 澄ました顔で言い返してくるが、扉をしっかりと持って離さない。その力の強さときたら、本当に魔導師か?と疑うほど。

(…ちょっと待て…)

 良く考えたら、この人は仮の姿しか知らない。シャルロッテとは初めましての初対面。ならば、逆にここで下手に狼狽える方が怪しまれる。

 気持ちを落ち着かせるために「ふぅ」と小さく息を吐くと、笑顔でルイースに向き合った。

「誰かと思えば、魔導師様じゃないですか。一体、こんな寂れた場所に何用で?」

 腕を組み、引き攣る顔を誤魔化しながら精一杯強がって見せたが、ルイースの表情は強ばったままシャルロッテを見つめていた。

「なんだ?」と怪訝な表情を見せるシャルロッテに対して、ルイースの表情は更に険しくなっていく。

「…貴女は、いつもその様な格好で客人をもてなすんですか?」

 そう言われて「ああ」と納得がいった。

 叩き起されて着替える間もなかったので、今のシャルロッテは夜着のまま。透き通るような白い肩や脚が剥き出しになり、谷間を強調する豊満な胸を見せつけられては、目のやり場に困るのだろう。

「いくらなんでも警戒心が無さすぎませんか?それでは襲ってくださいと言っているようなものです」

 まっことその通りだが、別にあんたに言われる筋合いは無い。ましてや、こんな時間にやって来る様な奴に言われたくない。お節介もここまで来ると鬱陶しい。

「…悪いけど、朝っぱらからお小言を聞くつもりはないの。用がないなら帰ってくださる?」

 キツめに言い返したが、ルイースは「いいえ」と口にすると、シャルロッテを逃がさないように壁に追い込んだ。

「帰りませんよ。貴女には責任を取っていただく必要がある」

 剣呑な光を目に灯しながら眇めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。 ……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。 ※不定期更新です。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...