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「はぁ?」
リーゼは今しがたジルベールから手渡されたものを見て、顔を顰めて心底面倒臭そうに封を開けた。
黙って読み進めていく内に、リーゼの雰囲気が不穏なものに変わっていくのが分かった。
「あれだけ盛大に婚約破棄を宣言しておいて、やっぱり君しかいないだ?寝言は寝て言えってんだ!!浮気相手はどうした!!」
グシャッと手紙を握り潰すと、勢いよく机を殴りつけた。
「ええ~、補足させていただきますと、アリアナ嬢との関係は続けているようですが、なにぶん片田舎の子爵令嬢ですので妃教育の方が思うように進まず、教育者の方がたが匙を投げ始めてるのです。更にアリアナ嬢もあの性格ですので、わがまま放題で手を焼いているようです」
「そんなもの私には関係なくない?そんな女を選んだ奴が悪いだけでしょ?」
「ごもっともでございます。ですが、国としてはそうはいかないのです」
ジルベールに淡々と説明され、リーゼは頭が痛くなった。
要は『浮気相手が頭悪すぎて隣に置いておくと僕の評判が悪くなるし、君が妃になってよ。いいじゃん、僕の事好きでしょ?浮気相手は側室にするから。ねっ』て事だろ!?あいつら、どんだけ人をコケにすれば気が済むんだ?
(もう、怒りを通り越して呆れてきたわ…)
「いかがなさいますか?ウィルフレッド様はリーゼ様の判断に任せると仰っておりましたが…」
頭を抱えているリーゼに向かって問いかけると、幽鬼のような顔をしたリーゼが顔を上げた。
手紙には、一度会って話がしたいと書いてあった。ここで断る事は簡単だが、向こうがそれで諦めてくれるとは到底思えない。
このままズルズルしつこくされる方が、神経を削られる。
「……一度会って話をつけてきます。もしかしたら不敬罪でしょっ引かれるかもしれませんが、そうなったら身柄の引き受けの方お願いしますとだけお伝えください」
「承知いたしました。お伝えしておきます」
ジルベールはフッと微笑むと、その場を後にして行った。
❊❊❊
その数日後、リーゼは重い足取りで城へとやって来た。
通されたのは花が咲き乱れる中庭。
まさかとは思うが…と思いながら歩いて行くと、真っ白な東屋にロドルフの姿があった。その場所はアリアナとの逢瀬場所でもあった。
よりもよって、この場所を選ぶか?本当にどんな神経してんだ?と会う前から苛立ちが止まらない。
「リーゼ!!」
リーゼの姿を見たロドルフは目を輝かせて手を振っている。
婚約者だった時ですらこんな表情見たことがない。もし、婚約者としての立場だったらそれなりに嬉しかっただろうが、今では嫌悪感で鳥肌もの。
「ロドルフ殿下、ごきげんよう」
一応、王子であるので頭は下げてやる。
「堅苦しい挨拶はいらない。私とお前との仲ではないか」
「いえ、既に婚約は破棄されておりますので、王子とただの令嬢です」
はっきり伝えてやると、分かり易く肩を落としていた。
別に気にするつもりもないので、声もかけずに黙って席に着くとロドルフも席に着いた。
「それで?お話とは?」
「まあ、そう急かさなくてもいいだろ?」
「いえ、こんな場面をアリアナ様に見られて要らない誤解をされるのが面倒ですので」
必死に引き留めようとする魂胆が見え見え。リーゼとしては一分一秒ですらこの場所にいたくないので、早急に話を終わらせたい。
ロドルフは諦めたように口を開いた。
「……リーゼには本当に悪い事をしたと思っている……本当にすまなかった」
「おや、珍しい。殿下でも謝る事が出来るんですね」
ロドルフが頭を下げるところなんて始めて見た。まあ、王族が簡単に頭を下げるものではないからな。
「ッな、なんと言ってくれてもいい。私が間違っていたんだ!!」
「そうですね。こうなると少し考えれば容易に分かった事。ですが、それを選んだのは他でもない貴方ですよ?」
「だ、だから、リーゼが戻ってきてくれれば……」
「いい加減にしてもらえます?」
相変わらず爪が甘くて聞いててイライラする。
「いいですか?殿下の元に戻って私になんの得が?貴方がたの尻拭いをさせられる未来しか見えませんけど?」
「王妃になれるんだぞ!!」
まったく、二言目には王妃になれると変わり映えのしない謳い文句を言う。
世の女性全員が、王妃になりたいなんて思ってると思うなよ!!
「そんなもの興味ありません。それに言ったはずです。私はウィル様の事を愛していると。あの方は殿下と違い、私の事を大切に扱ってくれますよ?」
「──ッ!!!」
頬を染めて言うと、ロドルフはギリッと歯を食いしばった。
ここで諦めてくれれば一番いいんだが、そう簡単にいくような相手ではない。
「は、叔父上の事を何も知らないお前が良く言う。お前は叔父上に遊ばれてるだけだ。今ならまだ間に合うぞ?私の元に戻ってこい」
自分の方が大事にできると言っているが、こちらからすればどの口が言ってんだって話。
「たとえ遊ばれていたとしても、貴方の元に戻るよりは何百倍もいいですね」
「き、貴様!!人が大人しく下手に出てると思って──!!」
睨みつけるように言うと、ロドルフは自分の思い通りにならない事に我慢の限界を迎えたらしく、遂にはリーゼに掴みかかろうとした。
だが、リーゼは真っ直ぐにロドルフを見てるだけで動こうとはしない。
「はい。そこまで~」
ロドルフの手がリーゼに届く寸前で止めに入った者がいた。髪の色から服装まで真黒で、正体を聞かなくても影の人物だと分かる装いだ。
「いけませんよ~殿下。女性に暴力なんて……あの方が知ったら命がありませんよ?」
細い目をうっすら開けて忠告すれば、ロドルフの肩がビクッと震えた。
「お前……叔父上の……」
「ご名答。危害を加えるつもりがなければまだお話できたのに、残念。お嬢様は連れてきますね」
そう言うなりリーゼを担ぎ上げ、その場を後にしようとしていた。ロドルフは慌てて「待て!!」と引き止めようとするが、振り返ることすらしない。
「私は諦めないからな!!お前は私のものだ!!」
負け惜しみのように叫ぶ声だけがその場に響いていた。
リーゼは今しがたジルベールから手渡されたものを見て、顔を顰めて心底面倒臭そうに封を開けた。
黙って読み進めていく内に、リーゼの雰囲気が不穏なものに変わっていくのが分かった。
「あれだけ盛大に婚約破棄を宣言しておいて、やっぱり君しかいないだ?寝言は寝て言えってんだ!!浮気相手はどうした!!」
グシャッと手紙を握り潰すと、勢いよく机を殴りつけた。
「ええ~、補足させていただきますと、アリアナ嬢との関係は続けているようですが、なにぶん片田舎の子爵令嬢ですので妃教育の方が思うように進まず、教育者の方がたが匙を投げ始めてるのです。更にアリアナ嬢もあの性格ですので、わがまま放題で手を焼いているようです」
「そんなもの私には関係なくない?そんな女を選んだ奴が悪いだけでしょ?」
「ごもっともでございます。ですが、国としてはそうはいかないのです」
ジルベールに淡々と説明され、リーゼは頭が痛くなった。
要は『浮気相手が頭悪すぎて隣に置いておくと僕の評判が悪くなるし、君が妃になってよ。いいじゃん、僕の事好きでしょ?浮気相手は側室にするから。ねっ』て事だろ!?あいつら、どんだけ人をコケにすれば気が済むんだ?
(もう、怒りを通り越して呆れてきたわ…)
「いかがなさいますか?ウィルフレッド様はリーゼ様の判断に任せると仰っておりましたが…」
頭を抱えているリーゼに向かって問いかけると、幽鬼のような顔をしたリーゼが顔を上げた。
手紙には、一度会って話がしたいと書いてあった。ここで断る事は簡単だが、向こうがそれで諦めてくれるとは到底思えない。
このままズルズルしつこくされる方が、神経を削られる。
「……一度会って話をつけてきます。もしかしたら不敬罪でしょっ引かれるかもしれませんが、そうなったら身柄の引き受けの方お願いしますとだけお伝えください」
「承知いたしました。お伝えしておきます」
ジルベールはフッと微笑むと、その場を後にして行った。
❊❊❊
その数日後、リーゼは重い足取りで城へとやって来た。
通されたのは花が咲き乱れる中庭。
まさかとは思うが…と思いながら歩いて行くと、真っ白な東屋にロドルフの姿があった。その場所はアリアナとの逢瀬場所でもあった。
よりもよって、この場所を選ぶか?本当にどんな神経してんだ?と会う前から苛立ちが止まらない。
「リーゼ!!」
リーゼの姿を見たロドルフは目を輝かせて手を振っている。
婚約者だった時ですらこんな表情見たことがない。もし、婚約者としての立場だったらそれなりに嬉しかっただろうが、今では嫌悪感で鳥肌もの。
「ロドルフ殿下、ごきげんよう」
一応、王子であるので頭は下げてやる。
「堅苦しい挨拶はいらない。私とお前との仲ではないか」
「いえ、既に婚約は破棄されておりますので、王子とただの令嬢です」
はっきり伝えてやると、分かり易く肩を落としていた。
別に気にするつもりもないので、声もかけずに黙って席に着くとロドルフも席に着いた。
「それで?お話とは?」
「まあ、そう急かさなくてもいいだろ?」
「いえ、こんな場面をアリアナ様に見られて要らない誤解をされるのが面倒ですので」
必死に引き留めようとする魂胆が見え見え。リーゼとしては一分一秒ですらこの場所にいたくないので、早急に話を終わらせたい。
ロドルフは諦めたように口を開いた。
「……リーゼには本当に悪い事をしたと思っている……本当にすまなかった」
「おや、珍しい。殿下でも謝る事が出来るんですね」
ロドルフが頭を下げるところなんて始めて見た。まあ、王族が簡単に頭を下げるものではないからな。
「ッな、なんと言ってくれてもいい。私が間違っていたんだ!!」
「そうですね。こうなると少し考えれば容易に分かった事。ですが、それを選んだのは他でもない貴方ですよ?」
「だ、だから、リーゼが戻ってきてくれれば……」
「いい加減にしてもらえます?」
相変わらず爪が甘くて聞いててイライラする。
「いいですか?殿下の元に戻って私になんの得が?貴方がたの尻拭いをさせられる未来しか見えませんけど?」
「王妃になれるんだぞ!!」
まったく、二言目には王妃になれると変わり映えのしない謳い文句を言う。
世の女性全員が、王妃になりたいなんて思ってると思うなよ!!
「そんなもの興味ありません。それに言ったはずです。私はウィル様の事を愛していると。あの方は殿下と違い、私の事を大切に扱ってくれますよ?」
「──ッ!!!」
頬を染めて言うと、ロドルフはギリッと歯を食いしばった。
ここで諦めてくれれば一番いいんだが、そう簡単にいくような相手ではない。
「は、叔父上の事を何も知らないお前が良く言う。お前は叔父上に遊ばれてるだけだ。今ならまだ間に合うぞ?私の元に戻ってこい」
自分の方が大事にできると言っているが、こちらからすればどの口が言ってんだって話。
「たとえ遊ばれていたとしても、貴方の元に戻るよりは何百倍もいいですね」
「き、貴様!!人が大人しく下手に出てると思って──!!」
睨みつけるように言うと、ロドルフは自分の思い通りにならない事に我慢の限界を迎えたらしく、遂にはリーゼに掴みかかろうとした。
だが、リーゼは真っ直ぐにロドルフを見てるだけで動こうとはしない。
「はい。そこまで~」
ロドルフの手がリーゼに届く寸前で止めに入った者がいた。髪の色から服装まで真黒で、正体を聞かなくても影の人物だと分かる装いだ。
「いけませんよ~殿下。女性に暴力なんて……あの方が知ったら命がありませんよ?」
細い目をうっすら開けて忠告すれば、ロドルフの肩がビクッと震えた。
「お前……叔父上の……」
「ご名答。危害を加えるつもりがなければまだお話できたのに、残念。お嬢様は連れてきますね」
そう言うなりリーゼを担ぎ上げ、その場を後にしようとしていた。ロドルフは慌てて「待て!!」と引き止めようとするが、振り返ることすらしない。
「私は諦めないからな!!お前は私のものだ!!」
負け惜しみのように叫ぶ声だけがその場に響いていた。
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