断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧

文字の大きさ
22 / 26

22

しおりを挟む
 ええ~…僕はヴェンデルス家の諜報を任されているシンという者です。
 今、僕はお嬢さんを嵌めて婚約者を奪い取った相手、アリアナと言う女狐…違った。令嬢を連れ戻す為に戦場に来ているんだけど…

「離せ!!」
「駄目ですって!!」

 目の前で繰り広げられているのは、暴れる我が主を必死に抑える部下の人ら。

 事の発端は数分前、僕の部下であるカナンから届いた伝書が原因。

 そこにはお嬢さんが殿下に攫われたことが記されてあって、それを知った主が剣を手に飛び出そうとしているのだ。

 その表情は、到底騎士とは言えぬ恐ろしいものだったと、後に止めに入った騎士らが口にしていた。

「団長!!落ち着いてください!!」
「おい!!しっかり抑えろ!!今行かせたら殿下の命がない!!」

 この光景を見て、シンは腹を抱えて笑っている。

「えぇい離せ!!これ以上、引き留めるならお前達もタダではすまんぞ!!」

 その言葉に騎士達は怖気づき、動きが止まった。どいつも自分の命の方が大事らしい。まあ、そりゃそうだ。

 シンは仕方ないとばかりに、足早に出て行こうとするウィルフレッドの前に立ちはだかった。

「…なんだ?止めるようならば、いくらお前でも容赦はせんぞ」
「やだなぁ、おっかない顔して。そんな顔でお嬢さんを迎えに行くんですか?」

 この人は、お嬢さんが嫌がることはしない。だからお嬢さんの名前を出せば落ち着くことはしないが、話は聞くようになるんだよ。

 その証拠に、ウィルフレッドは何とか足を踏ん張って堪えるように立ち止まった。ようやく解放された騎士達は、その場に倒れ込むようにしてしゃがみこんだ。

「まったく、向こうにはカナンもいるんですよ?その為に置いてきたんじゃないですか」
「それは分かっている。だが、万が一の場合もあるだろ」
「それは聞き気付てならないですねぇ。僕の部下が万が一なんて状況作る訳ないでしょ?」
「は、随分と部下を買っているな。珍しい事もある」

 カナンの実力は上司である僕が保証する。

 その部下を侮辱されとなれば黙ってはいられないと、鋭い目つきでウィルフレッドを睨みつけた。

 それこそ一発触発の状態で、先ほどよりも状況が悪化している事に騎士達は顔を真っ青にしながらも、どうすることも出来ずただ眺める事しかできない。

 この二人が対立したら怪我どころでは済まない事を知っているからこそ、口を挟めない。そんな騎士達の様子をシンは横目で確認すると、気持ちを落ち着かせるために息を深く吸った。

「…お嬢さんが大事なのは分かってるよ?けど、目の前の事を投げうってまで助けて欲しいと思う?」
「何?」
「あのお嬢さんのことだ。ここで任務を放り出して助けに行ってごらんよ。きっと、軽蔑されると思うけど?」

 真っ当な事を言われ、ウィルフレッドはバツが悪そうに黙ってしまった。

「まずは、こっちを終わらせてから助けに行った方がお嬢さんの好感もいいんじゃないんですか?」

 シンは騎士達に目配せすると「そ、そうですよ!!」と同調してきた。

 ウィルフレッドは頭を豪快に搔きむしると、舌打ちをしてからこちらに向き合った。

「…分かった。そういうことなら、この任務は今日中…いや、半日で片を付ける!!」
「「はぁぁぁぁ!?」」

 力強く言い切ったウィルフレッドに、その場にいた全員が声を荒げた。

「無茶ですよ!!」
「そんな化け物じゃないんだから…」
「最低でも数日はかかります!!」

 口々に言うが、ウィルフレッド騎士達が「ヒュッ」と息を飲むほど冷たい視線を向けた。

「ほお?やっても見ぬうちから出来ないと…お前達は誰の元で育った?俺だろ?こんな事で弱音を吐くな!!」

 この場合、弱音とか云々の話じゃないが、今のウィルフレッドにはその言葉は届かないだろうと、騎士達は顔面蒼白になっている。

(無茶ぶりにも程があるっての…)

 シンですらそう思ってしまう。
 騎士らは思い足取りで持ち場に戻ろうとしていた。それをシンが苦笑いを浮かべながら見ていると…

「何の騒ぎです?」

 顔を覗かせたのはアリアナ。ウィルフレッドはその姿を目にすると、眉間に皺を寄せ詰め寄った。

「…お前…」
「あら、嫌ですわ。恐いお顔…」
「黙れ!!お前、ロドルフがリーゼを攫う事を知っていたな!!」

 怒りに任せたウィルフレッドを相手にすれば、大抵の者は怯えたり凄んだりするが、アリアナは違う。

「まあ、そうなんですか?」

 自分は何も知らぬ存ぜぬと言う雰囲気で言い切った。

 だが、気付かれぬように手で口元隠していはいたが、シンからはしっかりとほくそ笑んでいるのが見えた。

「そうなれば、リーゼ様は殿下のお手付きとなってしまいますわね」

 嬉しそうに言いながら、ウィルフレッドの傍へと寄る。

 この女はようやく落ち着いた爆弾に再び火種を付けるつもりか!?と、その場にいる全員がハラハラしながら見守っている。

「安心してください。ウィルフレッド様にはわたくしがおりますわ。身も心もしっかりと癒して差し上げます。…何なら今からでも…」

 上目遣いで擦り寄るが、それを見下ろすウィルフレッドの眼は蔑むように酷く冷たい。

「リーゼは簡単に抱かれるような女ではない。お前と一緒にするな」
「はっ、そんな痩せ我慢を…殿下に抱かれてしまえばリーゼ様は貴方のものではなくなるのよ!?わたくしが声を掛けてあげているんだから、応えるのが筋ではなくって!?」

 何だこの女…頭が悪いとかいうレベルじゃない。道徳的におかしい。

 シンはあまりの物言いに唖然としたが、今はそんな事よりウィルフレッドをこれ以上刺激しない事が重要だった。

「はいはい。そこまで」

 ウィルフレッドが爆発する前に、止めに入ったが「何なのあんた」と、これまたゴミを見るような目で見られ、笑顔が引き攣ったが何とか誤魔化した。

「お初にお目にかかりますね。僕は、ヴェンデルス家の諜報─」
「長ったらしい自己紹介は要らないのよ。あんたが誰なのかなんてどうでもいいの。早くそこをどいて頂戴」
「…………」

 あまりの言い草に、シンは笑顔のまま黙ってしまった。

「あぁ~…と…主?僕って、女の子には手は出さない主義なんだよね」
「…それは初耳だな」
「うん。だけど、その誓いが今日ひっくり返りそうだよ」

 スンッとシンの顔から笑顔が引き、薄らと目を開けながらアリアナを睨みつけた。
 アリアナは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げたが、シンは気にせずアリアナの髪を掴み上げた。
「きゃぁ!!」と叫び声と共に、必死に掴んでいる手を振りほどこうとするが、すればするど痛みが走る。

「お前いい加減にしろよ?僕の手を煩わせるな、面倒臭い。黙って言うこと聞けば、痛い目に合わなくて済んだのにね。残念。…僕の機嫌ひとつで、首が飛ぶかもよ?」

 スッと首を指でなぞると、アリアリは更に顔色を悪くした。

「─う、ウィルフレッド様!!助けて!!」

 涙目で訴えるが、ウィルフレッドは冷たい視線を送るばかりで助けようとはしない。

 アリアナはこのままでは自分の命が危ないと、必死に叫んだ。

「な、なんの権限があってこんな事─!!わたくしは次期王太子妃よ!!こんな事許されるはずないわ!!」
「許す許さないもこっちが決めること。あんたは今から王都に戻って、然るべき処罰を言い渡されるんだよ」
「は!?」

 ようやく自分の立場に気が付いたアリアナは「嫌よ!!」「何でこんな事に!!」「私は悪くない!!」等と必死に抵抗するが、シン相手には為す術もない。

 アリアナは引き摺られるようにして、連れていかれた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...