断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧

文字の大きさ
24 / 26

24

しおりを挟む
「リーゼ様!!」
「…………カナン」

 カナンは、リーゼに覆い被さっているロドルフを睨みつけると、躊躇なく脇腹を蹴り飛ばした。
 勢いよく壁に叩きつけられたロドルフは、そのまま気を失った様だった。

 ほっとしながら体を起こしたリーゼだが、実はドアが開いた時、飛び込んできたのがウィルフレッドではないことに、一瞬がっかりした自分がいた。

(ウィル様は戦場だって分かっているのに)

 助けに来てくれたカナンを否定するようで、そんな自分を恥じた。

「大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか最悪の事態は免れたわ」

 必死に笑顔を取り繕って言うが、リーゼの胸には赤く染まった無数のマークが…

 それを目にしたカナンは「処分いたします」と、据わった目で小刀を手にしている。
「ま、待った!!」と慌ててリーゼが止めるが、止めるなと言われてしまう。

「こんなクズの為に手を染めることはないのよ!?」

 今から人を殺めようとしている人に、一番効力のありそうな言葉をかけた。だが、カナンは「ふっ」とほくそ笑んだ。

「嫌ですねリーゼ様。私の本職忘れてしまいました?」
「…………あ」

 この人はシンの部下。侍女が板についていて、すっかり諜報員だという事を忘れていた。
 諜報という事は、言わば殺人のプロ。それこそ、全身の血を綺麗に抜いてくれそうな勢い。その表情は完全に暗殺者。

 今、まさに人が殺されそうになっている。

 そりゃ、こんな事されれば恨み辛みもある…それでも一応元婚約者だったという縁もあるし、何より目の前で人が死ぬ瞬間を見れば目覚めが悪い所の話ではない。

 リーゼはカナンを止めようと手を伸ばしたが、その手が届く前に「貴様!!」とロドルフが怒鳴りながら立ち上がった。

「私が誰か分かっての所業か!?」

 顔を真っ赤にし、脇腹を押さえながら虚勢を張ってくる。まあ、プライドだけは王子様なので仕方ない。

 正直、この場面で起きないで欲しかった…この人が間に入るとややこしくなるというか、確実に命の火が消える…

(折角生かしてやろうとしているのに…この馬鹿は!!)

 リーゼは痛む頭を押さえながら、カナンに「あの…」と声を掛けようとした。──が、とても掛けれるような雰囲気ではない。

「侍女風情がふざけた真似を…貴様、楽に死ねると思うなよ!!」

 あきらかに侍女の立ち振る舞いではないのに、今だに侍女だと思っている事に呆れる一方、お気楽な奴だなと思ってしまう。

 カナンはそんなロドルフの頬を掠めるように「ダンッ」と剣の刃を壁に突き立てた。

「それはこちらの台詞ですね。ああ、自己紹介が遅れました。私、で諜報を主に担っておるカナンと申します」
「な!?」

 怖いくらいの笑顔で”ヴェンデルス家”と強調するように言われると、先ほどまで真赤に染まっていた顔は徐々に青に変わっていく。

「き、貴様…叔父上の…!?」
「ええ、我が主は独占欲と嫉妬心が人一倍強いのです。婚約者であるリーゼ様を一人にするはずがないでしょう?そんなこと、甥である貴方が一番ご存じでは?」

 嘲笑うように問い詰めるが、ロドルフは聞いているのか聞いていないのか分からない。ようやく自分の置かれた立場を理解できたようだ。

「い、いくら叔父上の手の者だとしても、王子である私に手を出したんだぞ!!タダで済む訳がない!!」
「あははははははは!!なんておめでたい頭しているんでしょう!!」

 高笑いをするカナンに「何がおかしい!!」と牙をむく。

「貴方、令嬢を一人誘拐してるのよ?犯罪者が次期国王なんて冗談じゃない。それじゃなくとも、国民が黙っていないわよ」
「そ、それは、お前達が黙っていれば…」

 口ごもりながら小さな声で言い返してきたが、その応えは眩暈がするようなものだった。

 この期に及んで自分の保身ばかり…もう我々が黙っていた所で無駄な事。この様な事態に陥れのは、他でもない自分だ。

 先ほどまで笑顔だったカナンも、ロドルフのあまりの言い分に一瞬で表情が曇った。そして、乱暴にロドルフの胸倉を掴み、鋭い眼光を向けた。

「いい加減にしなさいよ。リーゼ様に手を出した時点で、お前はもうおしまいなのよ」
「違う…私は悪くない!!アリアナが…!!」
「人のせいにしてるんじゃないわよ!!」

 ガッ!!とロドルフの顔を殴りつけた。
 しっかり胸倉を掴んでいたので吹っ飛ぶことはなかったが、その顔は鼻血と涙でぐしゃぐしゃだった。ロドルフは痛みと恐怖で震えているが、カナンは離そうとはしない。

「…あら?やだ、粗相したの?汚いわね」

 よく見ると、ロドルフの足元がぐっしょりと濡れている。これほどまでも恐怖を体験したことがなく、限界を迎えたのだろう。屈辱と羞恥心で更に涙が溢れれている。

「さて、そろそろいいかしら?最期に言い残すことある?」
「…………」

 もういっそのこと殺せと言わんばかりに黙っているロドルフを見て、カナンは剣を振り上げた。

「ちょっと―!!」

 慌ててカナンを止めようとした所で、ポンと肩を掴まれた。

「カナン。待て」

 犬を止めるかのように声を掛けながら、剣を止めるように手を置いているのはシンだった。

 そしてリーゼの肩を掴んでいるのは…

「ウィル様!!」


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...