最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧

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始まり、そして、終わりの時

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「──んっ!!!??」

突然ですが、今私は上司でもありこの国の最高魔導師でもあり結婚したい男不動のNO.1であるホルスト・ジンドルフにキスされております。

何故この様な事になったのか……事の始まりは、数時間前。
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。
いつもの様に出勤し、いつもの様に自分の持ち場へと着き業務に取り掛かる。
そう、これがいつもの私の日課。

しかし、今日は違った。

いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。

(……え?なんで?)

呆然とする私の肩にポンッと手を置いてきた人物がいた。
それは──……

「……ジンドルフ様。私の机は何処ですか?」

キッと睨みつけながら尋ねたが、ジンドルフは私を見ながら微笑むだけ。

このジンドルフと言う男は、確かに格好良い。
銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。
ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。
その都度ジンドルフが微笑みながら優しく追い返す。
この事務員だって半数以上はジンドルフにお近ずきになりたい女性だ。
私からしたからいい迷惑でしかない。
私は本気で魔術協会の事務員になりたくて必死に勉強もしたし、何度も面接を受けた。
こうして、念願の事務員になれたんだ。
ジンドルフなんかに現を抜かしている場合では無いのだ。

それに皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする……

(これは私の野性的な勘だけどね)

だから、私はいくら上司であっても極力近づかない、話さない、気にしないを貫いた。

まあ、その甲斐あってか平穏な毎日を過ごせていた。
それなのに……

「ステフィ・フェルスター。君は今日から僕の直属の部下に昇進だ」

「は?」

(今、この男はなんて言った?直属?部下?誰が?)

「君の机は既に僕の部屋に運んであるから」

ヒラヒラと手を振りながら固まる私を置いて、自分の部屋へと戻って行った。

取り残された私は周りにいたお姉様方に「どういう事!?」と詰め寄られた挙句「なんであんたなの!?」「私と代わって!!」と散々怒鳴られ罵られた。
そりゃそうだ。容姿は十人並。体型も悪くなければ良くもない。全てにおいて並でしかなかった私はノーマーク。
そんな私が直属の部下に昇進してしまったんだから。
ジンドルフ目当てで入ってきた奴からしたら青天の霹靂だったろう。

しかし、このままでは仕事が出来ない。
仕方なくジンドルフの待つ部屋へと出向いた。

コンコン

「失礼します」

ジンドルフは最高魔導師なので、自分の執務室を持っている。
ゆっくり扉を開けると、相変わらず笑顔のジンドルフが執務机に肘を付いてこちらを見ていた。

「ジンドルフ様。今回の昇進の件、私には苦重すぎます。辞退させてください」

部屋に入るなり、私は辞退を申し出た。
当たり前だ。これから出勤する度、罵られるなんて御免こうむりたい。
しかし、ジンドルフは「却下」と私の申し出を瞬時に破棄した。

「何故です!?私よりも素晴らしい方がいらっしゃいます!!その方々の方が──!!」

そこまで言ったところで声が出なくなった。
ジンドルフが私の声を奪ったからだ。
パクパクと口を動かしても声が出ない。
ジンドルフの方を見ると、相変わらず変わらぬ笑顔を私に向けているが、その笑顔が恐ろしく思えた。

「ステフィ・フィルター。これは決定事項なんだよ?」

ガタッと立ち上がり、ゆっくりこちらに向かってくるジンドルフに私の体は自然と震えだし、涙が頬を伝った。

「──……あぁ。やはり、君は僕の本性に気づいているようだね」

優しく私の涙を拭ってくれたが、震えは止まらない。

(……本性?何言ってるのこの人)

「ふふ。意味がわからないって顔をしているね。僕はね、昔から気に入ったものは自分の元に置いおく主義でね」

淡々と話すジンドルフだが、その話と今の現状にどの様な繋がりがあるのか全く掴めない。
私が困惑していると「まだ分からない?」とジンドルフが言うが、分からない。

「僕は、君が気に入っているんだよ」

(は?)

「その証拠に、見たまえ」

(なに……これ……)

そう言われ、続き部屋になっている隣の部屋を見ると壁一面に私の姿絵が飾られていた。
その普通ではない光景に私の全身の血が一気に引いていくのが分かった。

(こんなの、普通じゃない……)

しかし姿絵をよく見ると、幼少期の頃のものもある。
私が魔術協会に初めて足を踏み入れたのは就職活動中の頃。
当然成人済み。

(……どういう……)

「ステフィ・フィルター。いや、ステイ。僕と君が初めて会ったのは君が5歳の頃だ。僕が迷子になった君を助けたんだけど、覚えてない?僕に泣きながら縋り、その涙を僕が舐めとってあげると君は怯えた表情で僕を見てきたよね?その姿に僕は初めて興奮したんだよ。そして、どんな手を使ってでも君を手に入れると決めたんだ」

私がジンドルフを避けていたのは、闇でもなんでもない。
幼少期の頃の恐怖心トラウマだったんだ。

そこまで分かるとは、私は直感でこの場から逃げなければと自然と体が動いた。
しかし扉に手が届く前に、ジンドルフに捕まった。
その頃には、私は恐怖心で涙がとめどなく溢れて顔はぐちゃぐちゃだった。

「あぁ~ぁ、こんなに泣いたら目が腫れるじゃないか」

ペロッと涙を舐め取られると、ゾワッと悪寒が走った。

「さて、そろそろステイの声を聞かせてくれる?」

「あっ」

そう言うと、私の声が戻ってきた。

「ジ、ジンドルフ様。こんな事、やめましょう?私達上司と部下じゃないですか」

私は必死にこの状況を打破する術を探った。
しかしジンドルフは私を壁に追いやったまま離れようとしない。

「それがどうしたの?言っとくけど、君を魔術協会ここに来るように仕向けたのも、君に男が居ないのも全部僕が裏で手を回して仕向けた事だからね」

そう言えば、こんな私でも何人かには告白された事がある。
でも、次の日には必ず断りの返事が来た。

(そうか……全部コイツのせいか……)

何故返事を返す前に断られるのか謎だったけど、これで理解出来た。
周りはカップルだらけで、羨ましいと思いながら寂しい十代を過ごしたのは全て目の前にいるジンドルフこいつのせいだったのだ。
すると、恐怖心より腹立たしさが勝った。

「ふざけんじゃないわよ!!あんたのせいで私がどんだけ寂しい十代過ごしたと思ってんの!?」

私はグッとジンドルフの、胸元を掴み怒鳴っていた。

「言っとくけどね、私はものじゃないの!!私はあんたのものになるなんて真っ平ごめんよ!!私は自分が好きになった人と一緒になるの!!あんたも私の様に寂しい毎日を過ごしてみなさいよ!!」

一気に捲し立てると、ジンドルフは目を丸くして言葉を失っていた。
一瞬言い過ぎたか!?と思ったが、私の十代を奪った罪はこんな事では軽すぎる。

暫く黙っていたジンドルフだったが「ふっ」と微笑むと、私の顎を持ち上げ唇を重ねた。

「──んっ!!!??」

急な事に頭が追い付かなかったが、息が出来なくなり意識が浮上した。
慌てて唇を離し、唇を拭った。

「何するんですか!?」

「僕とキスして唇を拭う子初めて見たなぁ。……結構凹むよね」

そう言うジンドルフの目は冷たかった。
その表情にビクッと肩が震えた。

「……ねぇ、ステイは男が欲しかったの?」

再び壁に追いやられ、逃げ道を塞がれた。

「……そりゃ……」

(欲しいです……)

「ふ~ん。それは、別に僕でも言い訳でしょ?」

(だから、お前みたいな重い奴は論外なんだって!!)

……──と言いたいところをグッと堪えた。
これ以上下手なことを言えば確実に、この部屋から出れなくなると野生の勘が働いたからだ。

「……あの、ジンドルフ様と私では釣り合わない……と言うか……他のお姉様方が黙っていない……と言うか……」

当たり障りのない告白された時に断るテンプレの様な答えだが、これが一番最善な選択だと思った。

「ふ~ん。『お前みたいな重い奴は論外』じゃないの?」

「へ?」

サァ-と血の気が引いた。

(──心を……!?)

「ふふ。伊達に最高魔導師やってないよ僕。──しかし、そんな風に思われていたのは心外だな」

妖艶に微笑むジンドルフだが、目が笑っていない。

「まあ、時間は沢山あるし、今からゆっくり僕の事を知ってくれればいいから。──あぁ、僕はステイの事はなんでも知ってるから安心して?」

そう言うなり私を腕に抱き、隣の部屋にあるベッドに連れていかれチュッと額にキスを落とされたかと思ったら、部屋全体に結界が張られた。

「僕は仕事があるから、君はそこで大人しくしててね」

気づくとジンドルフは結界の外に出ており、続き部屋の扉を閉めようとしていた。

「やだ!!やめて!!出して!!誰か!!」

私は必死に叫んだが、この結界は音が漏れないようになってるらしく声が外に届かない。
絶望感で一杯になった私は、キィィと閉まる扉を黙って見てるしか無かった。






あれから何年経ったんだろう……
私は相変わらずあの部屋に囚われている。
いつの間にか私はにより仕事を辞めており、いつの間にか私の事は皆の記憶から忘れ去られた様だ。
そして、今日も──……

「ステイ」

ご主人様のお帰りだ。
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