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イケおじとは聞いてない
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日が落ち辺りは暗闇が包みこんでいる。静かで穏やかに流れる時間…リディアは自室で本を読んでいた。
「おい」
「…やっぱり来た」
闇夜に紛れるよう黒装束に身を包んだティルが、静粛を破ってやって来た。
昼間の様子から、高確率でやってくると思っていたリディアは驚きもしない。わざわざやって来た理由も検討がついている。
「お前正気か!?本気で一回りも上のおっさんの元に嫁ごうって思ってんのか!?」
ほらな。だと思ったよ。開口一番の言葉がこれだ。
「父上の友人だからって常人だとは限らないんだぞ!?変人だったらどうすんだ!?」
「ん~…そこは考えてなかったけど、特殊嗜好持ちはちょっと嫌だな。痛いのはちょっと……嗜む程度なら要相談……」
困ったように返すと「そう言う事じゃない!!」とテーブルを叩きながら怒鳴られた。
今日はヤケに突っかかってくる。何をそんなに苛立っているのやら…とリディアが困ったように眉を歪めていた。
「……俺がいるだろ……」
顔を俯かせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。心做しか、耳が赤く染ってる気がする。
リディアは「ああ」とポンッと手を叩いた。
この人は自分の玩具が他人の手に渡るのが気に食わないだけなんだ。それならティルが苛立っている理由に合点がいく。
「あのねぇ、私の事とやかく言う前に自分の事も考えなさいよ。いつまでペンペン草を相手にしてるつもり?いい加減自分に見合った相手を見つけた方がいいわよ?」
役目は違えど、跡継ぎが欲しいのは同じ事。聞く所によると、エグい数の縁談話があるとかないとか…王族ともなると、それ相応の身分や教養がないとな。
どちらにせよ、リディアには縁の無い話だ。うんうんと納得する様に頷いていた。
「はっ」
ティルは吐き捨てるように息を吐いた。
「そうか…分かった。もう何も言わない。勝手にすればいい」
そう言い捨てると、ティナの顔を見ることなくその場を後にして行った。
***
数日後、陛下から連絡があり、相手方から婚約を受け入れると言う返事をもらったと聞いた。相手の気持ちがいつ変わるか分からぬと、善は急げという事で早速身支度を整えて馬車を走らせている所。
あれからティルは一度もリディアの元を訪れていない。
「……言い過ぎたか?」
走る馬車の中から外を見ながら呟いた。
これまで頻繁に顔を見せていた者が急に来なくなると、寂しいと言うよりは心配になる。まあ、ティルに至っては簡単に言葉を交わすどころか、顔を合わせるのだって困難な人。今までがおかしかったのだ。
とはいえ、最後に一言ぐらい挨拶はしておきたかった。
「お嬢様、どうしたんです?」
「ああ、何でもないわ」
付き添いの二コルが怪訝な顔をしながら訊ねてきた。一人でも行けると言ったが、相手は陛下の友人で辺境伯という事で、使用人全員が「一人では何をしでかすか分からない」と付き添いという名のお目付け役を付けてきた。
(本当に失礼だよね)
これでも時と場合は弁えていると思ってる。
「それにしても、随分森深いですね」
二コルが外を眺めながらぼやいた。
事前に聞いてはいたが、想像していたよりも幾分も森深い……道は険しくなり、馬車がギリギリ通れるほどの道幅。屋根は枝が当たりバチバチいっている。木々に覆われている為、陽の光が遮られて辺りは薄暗い。獣のが多いと言うのも頷ける。
暫く行くとようやく道が開けてきて、大きな屋敷の前に着いた。
「ここが……」
そこは陽の光が燦々と降り注いでいてポカポカと暖かい。屋敷の周りには色とりどりの花が咲いており蝶や鳥、リスやウサギまでいる。まるで絵本の中に入り込んでしまった様な光景に、先ほどまでぼやいていた二コルも言葉を失っている。
「……君がリディア嬢かい?」
あまりの美しさに目を奪われていて、人の気配に気が付かなかった。
「失礼いたしました。リディア・ベルフォートと申します。国王陛下からのご紹介でお伺いさせていただきました」
慌てて取り繕うに名を名乗る。
「ああ、ヴィルから話は聞いている。私はヴェルナー・リッツ・ハイデベルク。辺境伯なんて呼ばれているが、そんな大した者じゃないから気楽にしてくれ」
「フッ」と優しく微笑む姿にリディアは釘付けになっている。
(な、ななな……!!)
婚約者が来ると言うのに、整えていないぼさぼさの髪。ジャケットを羽織らずシャツだけの軽装の上に、ボタンが上まで留められていないので、肌が露わになっている。リディアを見つめる目の下には隈まで出来ている。
一回り上だと聞いていたから多少の覚悟はしていたが、これは……
(いい!!)
リディアはうっすらと頬を染めながら小さく拳を作った。
年上独特の色気。それに大人びたハスキーな声がまた色気を増大してくれる。ここまでの険しい道のりを鑑みても最高の優良物件。あの二コルですら、頬を染めてうっとりと見惚れている。
「どうした?馬車に酔ったか?」
「い、いえ!!あまりにも素敵で……」
「ああ、ここに咲いているのは、殆ど野草だ。こうしてみると野草も捨てたものじゃないだろ?」
自分に見惚れているなんて思っていないヴェルナーは、周りに咲いている花に目をやりながら的外れな説明してくれる。そう言う意味じゃないんだが…と思いつつも「クスッ」と微笑み、屋敷に戻るヴェルナーの後を付いて行った。
「おい」
「…やっぱり来た」
闇夜に紛れるよう黒装束に身を包んだティルが、静粛を破ってやって来た。
昼間の様子から、高確率でやってくると思っていたリディアは驚きもしない。わざわざやって来た理由も検討がついている。
「お前正気か!?本気で一回りも上のおっさんの元に嫁ごうって思ってんのか!?」
ほらな。だと思ったよ。開口一番の言葉がこれだ。
「父上の友人だからって常人だとは限らないんだぞ!?変人だったらどうすんだ!?」
「ん~…そこは考えてなかったけど、特殊嗜好持ちはちょっと嫌だな。痛いのはちょっと……嗜む程度なら要相談……」
困ったように返すと「そう言う事じゃない!!」とテーブルを叩きながら怒鳴られた。
今日はヤケに突っかかってくる。何をそんなに苛立っているのやら…とリディアが困ったように眉を歪めていた。
「……俺がいるだろ……」
顔を俯かせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。心做しか、耳が赤く染ってる気がする。
リディアは「ああ」とポンッと手を叩いた。
この人は自分の玩具が他人の手に渡るのが気に食わないだけなんだ。それならティルが苛立っている理由に合点がいく。
「あのねぇ、私の事とやかく言う前に自分の事も考えなさいよ。いつまでペンペン草を相手にしてるつもり?いい加減自分に見合った相手を見つけた方がいいわよ?」
役目は違えど、跡継ぎが欲しいのは同じ事。聞く所によると、エグい数の縁談話があるとかないとか…王族ともなると、それ相応の身分や教養がないとな。
どちらにせよ、リディアには縁の無い話だ。うんうんと納得する様に頷いていた。
「はっ」
ティルは吐き捨てるように息を吐いた。
「そうか…分かった。もう何も言わない。勝手にすればいい」
そう言い捨てると、ティナの顔を見ることなくその場を後にして行った。
***
数日後、陛下から連絡があり、相手方から婚約を受け入れると言う返事をもらったと聞いた。相手の気持ちがいつ変わるか分からぬと、善は急げという事で早速身支度を整えて馬車を走らせている所。
あれからティルは一度もリディアの元を訪れていない。
「……言い過ぎたか?」
走る馬車の中から外を見ながら呟いた。
これまで頻繁に顔を見せていた者が急に来なくなると、寂しいと言うよりは心配になる。まあ、ティルに至っては簡単に言葉を交わすどころか、顔を合わせるのだって困難な人。今までがおかしかったのだ。
とはいえ、最後に一言ぐらい挨拶はしておきたかった。
「お嬢様、どうしたんです?」
「ああ、何でもないわ」
付き添いの二コルが怪訝な顔をしながら訊ねてきた。一人でも行けると言ったが、相手は陛下の友人で辺境伯という事で、使用人全員が「一人では何をしでかすか分からない」と付き添いという名のお目付け役を付けてきた。
(本当に失礼だよね)
これでも時と場合は弁えていると思ってる。
「それにしても、随分森深いですね」
二コルが外を眺めながらぼやいた。
事前に聞いてはいたが、想像していたよりも幾分も森深い……道は険しくなり、馬車がギリギリ通れるほどの道幅。屋根は枝が当たりバチバチいっている。木々に覆われている為、陽の光が遮られて辺りは薄暗い。獣のが多いと言うのも頷ける。
暫く行くとようやく道が開けてきて、大きな屋敷の前に着いた。
「ここが……」
そこは陽の光が燦々と降り注いでいてポカポカと暖かい。屋敷の周りには色とりどりの花が咲いており蝶や鳥、リスやウサギまでいる。まるで絵本の中に入り込んでしまった様な光景に、先ほどまでぼやいていた二コルも言葉を失っている。
「……君がリディア嬢かい?」
あまりの美しさに目を奪われていて、人の気配に気が付かなかった。
「失礼いたしました。リディア・ベルフォートと申します。国王陛下からのご紹介でお伺いさせていただきました」
慌てて取り繕うに名を名乗る。
「ああ、ヴィルから話は聞いている。私はヴェルナー・リッツ・ハイデベルク。辺境伯なんて呼ばれているが、そんな大した者じゃないから気楽にしてくれ」
「フッ」と優しく微笑む姿にリディアは釘付けになっている。
(な、ななな……!!)
婚約者が来ると言うのに、整えていないぼさぼさの髪。ジャケットを羽織らずシャツだけの軽装の上に、ボタンが上まで留められていないので、肌が露わになっている。リディアを見つめる目の下には隈まで出来ている。
一回り上だと聞いていたから多少の覚悟はしていたが、これは……
(いい!!)
リディアはうっすらと頬を染めながら小さく拳を作った。
年上独特の色気。それに大人びたハスキーな声がまた色気を増大してくれる。ここまでの険しい道のりを鑑みても最高の優良物件。あの二コルですら、頬を染めてうっとりと見惚れている。
「どうした?馬車に酔ったか?」
「い、いえ!!あまりにも素敵で……」
「ああ、ここに咲いているのは、殆ど野草だ。こうしてみると野草も捨てたものじゃないだろ?」
自分に見惚れているなんて思っていないヴェルナーは、周りに咲いている花に目をやりながら的外れな説明してくれる。そう言う意味じゃないんだが…と思いつつも「クスッ」と微笑み、屋敷に戻るヴェルナーの後を付いて行った。
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