団長様、再婚しましょう!~お転婆聖女の無茶苦茶な求婚~

甘寧

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 この国には年に一度、聖誕祭と呼ばれる祭りがある。

 聖女であるシャルルにとって、最も重要で責任のある至極面倒な祭りが近々開催される。シャルルはここ数日、祭りの準備と段取り、更には祝詞の暗記に頭をフル回転させていた。

「もぉぉぉ無理ですわ!」

 その結果、我慢の限界を迎えたシャルルは被っていたベールを叩き落とし、その場から駆け出してしまった。

「あ!聖女様!」
「逃げたぞ!!追えぇ!」

 慌ててルイスを初めとする、神官や神女達がシャルルを捕まえようと追いかけた。


 ***


「はぁ……はぁ、ここまで来れば……」

 木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中って事で、人の蔓延る街の中へ逃げ込んだはいいものの……

「聖女様--!!無駄な抵抗は止めて出てきなさぁい!!」
「チッ」

 神官や神女教会の手の者が執拗く、中々逃げ切れずにいた。
 慣れ親しんだ街だけあって、シャルルの顔を知らないものがいないというのも盲点だった。

「あっちで見た」や「こっちに逃げ込んだ」などのまさかの援軍に、逃げ道を徐々に奪われている。

「完全に墓穴を掘りましたわ……」

 今更後悔しても遅いのだが、こちらにも意地がある。何としてでも逃げ切ってみせる。

 人の気配から逃れようと、自然と薄暗い路地裏へと足が進む。

「ここなら……──ん?」

 ホッとしながら顔を上げたら、何やら物騒な風貌の男らと目が合った。

 そして、一人の男が背負っている大きな麻袋が激しく動いている。これは、聞かなくとも中身は十中八九人に違いない。

「何だ?若ぇ姉ちゃんが飛び込んできたぞ」
「こりゃいいや。こいつも連れてこうぜ。そこそこ高く売れそうだ」

 こんな場面に出くわしたら震え上がって助けを乞うのが一般的。下手に抵抗すれば、この手のヤツは簡単に命を奪ってくるのだが……

「さあ、怪我したくなきゃ大人しくしてな」

 下劣な笑みを浮かべた男がシャルルの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。だが、シャルルに触れそうになった瞬間、バチッと静電気のようなものが手に走った。

「ッ!?」

 男は何が起こったのか分からないと言った表情で自分の手を見ながら茫然としている。

「おい!どうした!早くしろ!」
「あ、ああ」

 他の男に急かされ再び手を伸ばしてきたが、今度は見えない力に体ごと弾かれた。ガシャンッ!と大きな音を立てて壁に全身を打ち付けた。

 これに驚いたのは他の男ら。

「なッ!!」
「何が起きた!?」

 そりゃ驚いて当然だ。か弱い女一人に大柄な男が簡単に打ちのめされたんだから。

「貴方達、私を知らないという事はこの国の者じゃないわね?」

 意味ありげに言えば、完全に怯えた表情に変わった。

「あ、あんた、何者……」
「あらあら、女性に名を聞くには礼儀がなってませんわ。それより、そちらの袋は?ああ、下手なことをすれば……分かってますわね?」

 警告するように目を細め、チラッと気絶している男を見ながら呟いた。ゾッと顔を青ざめた男らが首が取れんばかりに頷いたのを見て、麻袋に手をかけた。

「まあ」

 中を見て驚いた。

「何故、貴方が?」

 そこにいたのは、涙を大きな瞳一杯に溜めたリオネルだった。

 拘束された縄を解き、口枷にしていた布を取ってやると、勢いよくシャルルに抱き着いてきた。

「遅いよ!馬鹿!」

 口では生意気を言っているが、この子はまだ五歳。怖くないはずがない。恐怖で震えているところに聞き覚えのある声が聞こえて、嬉しさと不安が変な混ざり方をしたのだろう。

「ふふ、ごめんなさい。怖い思いをさせましたね」
「本当だよ!」

 これだけ文句を言える体力があるなら大丈夫。そう思いながらリオネルの頭を撫でて落ち着かせていると、おずおずと男が近寄って来た。

「……あ、あの、もしかしてその坊主、姉御のお知合いっスか?」
「ええ。私の義理の息子ですの」
「「え!?」」

 リオネルを胸に抱きしめながら、しれっと言い切った。仰天したように目を見開く男達だったが、すぐに「違うだろ!」と否定の言葉が飛んでくる。

「もう、そんなに恥ずかしがらないでもいいんですのよ?ほらほら母の胸で泣きなさい」
「調子に乗るな!」
「照れ屋さん」

 胸を広げて待ち構えるが、顔を真っ赤にしたリオネルはその胸に飛び込んでは来てくれなかった。

「さて、願望はさておき」
「願望って………」

 ふぅと息を吐き、男らに向き合った。

「この子を攫った理由をお伺いいたしましょうか?事の次第ではタダでは済みませんわよ?」

 鋭い眼光を向けられ、ゴクッと喉が鳴った。
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