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#11 収穫祭
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エスコートを断られ、生徒会からも除名され、順調に婚約破棄へと進んでいる。正直なところ、こちらから皇女の行いを理由に婚約破棄してもいいぐらいだ。先手を打った方がいいかもしれない。ああ、タウンハウスに帰宅している時に少しぐらいは両親に相談しておくべきだった。
ヒロイン(男)について俺が気づく前にケイシーがそこそこ調べていたから、父から命令があったのかもしれない。状況を知りつつも俺に何も言わないということは、俺がアクションを起こすまで静観しているつもりなのか、それとも下手に口出しして俺が癇癪を起しても困るから放置しているのか。後者っぽいな。
記憶を取り戻す前の俺だったらヒロイン(男)に敵意をむき出しにしていただろうし、皇女が他の男にうつつを抜かしているなんて聞いたら、相手を突き止めて問い詰めていただろう。学校でこんなことをされたら派手に暴れていたに違いない。そう考えると以前までの俺は本当にクソガキだったんだな。
だから俺がヒロイン(男)をいじめているなんて噂が流されても否定する奴が出て来ないんだ。人望が無さ過ぎる。
いよいよ明日から収穫祭だ。衣装も数日前に届いて準備万端だ。どうやらヒロイン(男)と皇女の衣装も出来たと他の生徒たちが騒いでいた。この二人を好意的に見るのは皇女の取り巻き達で、二人の豪華絢爛な衣装は皇女の予算からは賄いきれず、足りない分は国庫から出されたと聞いて苦笑する生徒のほうが多かった。
もしも俺がエスコートする予定だったら皇女に支払われる維持費で足りたはずだ。皇女をエスコートするとなればそれなりの衣装が必要だし、何よりヒロイン(男)にエスコートするよう頼んだのは皇女だから衣装を用意するのも皇女の役目だ。
明日に備えて早く休もうと寮へ向かう道中、男女の言い合う声が聞こえてきた。収穫祭の舞踏会を楽しみにしているカップルは多いのに、前日に喧嘩する奴なんているのか、と思ったが、知っている声だ。出来ることなら関わりたくない。
「やっぱり明日は婚約している方と舞踏会に行ってください」
「今更、何を言っているの? あなた。もう衣装だって用意してしまったのよ」
「そもそも俺は、一緒に行くとは一言も言っていません。衣装だって皇女が勝手に作ったんじゃないですか」
最初こそは皇女に遠慮していたけれど言わずにいたら増長しだしたのか。さすがのヒロイン(男)もこれ以上は迷惑だとはっきり告げた。入学前から乗り気ではなさそうだったが、断らないのをいいことに全て皇女が勝手に決めてしまったようだ。せめて衣装を作る前から言ったほうが良かったのではないか?
「そんなこと言われても、もうシェラード公爵令息にはエスコートを断ったわ。…………もしかして、彼から何か言われたの!?」
「違いますっ!」
あまりの大声に木に止まっていた鳥が一斉に羽ばたきだす。
「あの人は! …………シェラード公爵令息はそんなこと一切していません。噂されてることだって、俺は一回もされたことないです」
「嘘よ。あなたが気付いていないだけで、使用人に命じているかもしれないでしょう? あなたは彼のことを何も知らないからそんなことを言えるの。目立ちたがりで幼稚、傲慢で不遜。最低な男よ」
吐き捨てるようにそう言われて、ずきりと胸が痛む。
「でも皇女の婚約者でしょう?」
「親が勝手に決めただけでわたくしの意思でも何でもないわ」
皇族なんて自分の意思で結婚できるはずがないのに、ヒロイン(男)と出会ってしまって皇女は変わってしまったのだろう。まるでおとぎ話に出てくる王子様を彷彿とさせるルックス。頭も悪くないし、騎士学校に通っていたから運動神経だっていい。女なら誰だって彼に惹かれる。
「……でも」
「とにかく、明日は用意した衣装を着て、わたくしをエスコートしてもらうわ。分かったわね」
そう言い切ると皇女は反論など聞きたくないと言わんばかりに歩き出してしまった。俺は気付かれないよう木の影に隠れて皇女をやり過ごす。
「こんなところで何をしているんですか?」
思わぬところから声を掛けられてびくりと体が跳ねる。ゆっくり振り返ると水色の髪の毛が目に入った。
「盗み聞きをしていたわけじゃない」
ほとんど話は聞いてしまったけれどこれは偶然だ。
「まあ、人通りの多い場所でしたからね。他の人にも聞こえてしまったかもしれません」
「大丈夫なのか?」
それは俺にも言える話なのだが、どこかやつれたような顔をするヒロイン(男)が少しだけ気になった。転入して早々に皇女から気に入られて、どこへ行くにも彼には皇女が付きまとった。嫌がらせだってされている。ただでさえ平民がこの学校に来るのは心労が多いだろうに。
俺がそう尋ねるとヒロイン(男)は驚いたように目を見開く。それから少しだけ笑って、
「優しいんですね」
と言った。
「どこが!?」
「だってこうやって俺のことを気に掛けてくれるじゃないですか」
「本当に優しい奴だったら、皇女からお前を守ってやるだろ。人目があれば俺はお前にこうやって話しかけたりもしない。だから優しい奴なんかじゃない」
分かっているのかいないのか、ヒロイン(男)は「そっか」と言って少しうれしそうに笑った。
ヒロイン(男)について俺が気づく前にケイシーがそこそこ調べていたから、父から命令があったのかもしれない。状況を知りつつも俺に何も言わないということは、俺がアクションを起こすまで静観しているつもりなのか、それとも下手に口出しして俺が癇癪を起しても困るから放置しているのか。後者っぽいな。
記憶を取り戻す前の俺だったらヒロイン(男)に敵意をむき出しにしていただろうし、皇女が他の男にうつつを抜かしているなんて聞いたら、相手を突き止めて問い詰めていただろう。学校でこんなことをされたら派手に暴れていたに違いない。そう考えると以前までの俺は本当にクソガキだったんだな。
だから俺がヒロイン(男)をいじめているなんて噂が流されても否定する奴が出て来ないんだ。人望が無さ過ぎる。
いよいよ明日から収穫祭だ。衣装も数日前に届いて準備万端だ。どうやらヒロイン(男)と皇女の衣装も出来たと他の生徒たちが騒いでいた。この二人を好意的に見るのは皇女の取り巻き達で、二人の豪華絢爛な衣装は皇女の予算からは賄いきれず、足りない分は国庫から出されたと聞いて苦笑する生徒のほうが多かった。
もしも俺がエスコートする予定だったら皇女に支払われる維持費で足りたはずだ。皇女をエスコートするとなればそれなりの衣装が必要だし、何よりヒロイン(男)にエスコートするよう頼んだのは皇女だから衣装を用意するのも皇女の役目だ。
明日に備えて早く休もうと寮へ向かう道中、男女の言い合う声が聞こえてきた。収穫祭の舞踏会を楽しみにしているカップルは多いのに、前日に喧嘩する奴なんているのか、と思ったが、知っている声だ。出来ることなら関わりたくない。
「やっぱり明日は婚約している方と舞踏会に行ってください」
「今更、何を言っているの? あなた。もう衣装だって用意してしまったのよ」
「そもそも俺は、一緒に行くとは一言も言っていません。衣装だって皇女が勝手に作ったんじゃないですか」
最初こそは皇女に遠慮していたけれど言わずにいたら増長しだしたのか。さすがのヒロイン(男)もこれ以上は迷惑だとはっきり告げた。入学前から乗り気ではなさそうだったが、断らないのをいいことに全て皇女が勝手に決めてしまったようだ。せめて衣装を作る前から言ったほうが良かったのではないか?
「そんなこと言われても、もうシェラード公爵令息にはエスコートを断ったわ。…………もしかして、彼から何か言われたの!?」
「違いますっ!」
あまりの大声に木に止まっていた鳥が一斉に羽ばたきだす。
「あの人は! …………シェラード公爵令息はそんなこと一切していません。噂されてることだって、俺は一回もされたことないです」
「嘘よ。あなたが気付いていないだけで、使用人に命じているかもしれないでしょう? あなたは彼のことを何も知らないからそんなことを言えるの。目立ちたがりで幼稚、傲慢で不遜。最低な男よ」
吐き捨てるようにそう言われて、ずきりと胸が痛む。
「でも皇女の婚約者でしょう?」
「親が勝手に決めただけでわたくしの意思でも何でもないわ」
皇族なんて自分の意思で結婚できるはずがないのに、ヒロイン(男)と出会ってしまって皇女は変わってしまったのだろう。まるでおとぎ話に出てくる王子様を彷彿とさせるルックス。頭も悪くないし、騎士学校に通っていたから運動神経だっていい。女なら誰だって彼に惹かれる。
「……でも」
「とにかく、明日は用意した衣装を着て、わたくしをエスコートしてもらうわ。分かったわね」
そう言い切ると皇女は反論など聞きたくないと言わんばかりに歩き出してしまった。俺は気付かれないよう木の影に隠れて皇女をやり過ごす。
「こんなところで何をしているんですか?」
思わぬところから声を掛けられてびくりと体が跳ねる。ゆっくり振り返ると水色の髪の毛が目に入った。
「盗み聞きをしていたわけじゃない」
ほとんど話は聞いてしまったけれどこれは偶然だ。
「まあ、人通りの多い場所でしたからね。他の人にも聞こえてしまったかもしれません」
「大丈夫なのか?」
それは俺にも言える話なのだが、どこかやつれたような顔をするヒロイン(男)が少しだけ気になった。転入して早々に皇女から気に入られて、どこへ行くにも彼には皇女が付きまとった。嫌がらせだってされている。ただでさえ平民がこの学校に来るのは心労が多いだろうに。
俺がそう尋ねるとヒロイン(男)は驚いたように目を見開く。それから少しだけ笑って、
「優しいんですね」
と言った。
「どこが!?」
「だってこうやって俺のことを気に掛けてくれるじゃないですか」
「本当に優しい奴だったら、皇女からお前を守ってやるだろ。人目があれば俺はお前にこうやって話しかけたりもしない。だから優しい奴なんかじゃない」
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