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#17 テスト
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時間さえあれば、と言うか、俺にしてもヒロイン(男)にしても、部活動に参加しているわけではないので授業が終われば、ヒロイン(男)は俺のところにやってきて、勉強を教えてくれとせがんだ。
騎士学校でも優秀な成績を修めて、国立学校への転入を推薦された男がわざわざ俺に教えてもらうほど勉強できないはずがなく、少し教えればすぐに理解してしまう脳みそに教える必要があるのかと疑問に思ったけれど、「それも貴族の務めですよ」とケイシーに釘を刺されたせいでヒロイン(男)を拒めなかった。
俺の所へ来ることで皇女から逃げているなら仕方ないと思った時もあったけれど、貴族の務めなんて知ったものか、と拒めばよかった。
「なんでお前が俺よりいい成績取ってるんだよ……!」
張り出された順位表を睨みつける。
「偶然ですよ。点差も特にないじゃないですか」
俺よりも上に書かれた名前はたった一つ、アルフレッド・リースだけだった。今回は一位が取れると思っていただけに悔しくてたまらない。ため息を吐いてからその下に目を向けると、皇女の名前はなかった。彼女は普段から上位の成績だったのだが、今回は酷く順位を落としていた。と言っても十人以内に入っているがぎりぎりだ。ヒロイン(男)に現を抜かしすぎたか?
視線を感じて振り返ると、その皇女がこちらを物凄い形相で睨みつけていた。ヒロイン(男)が俺と話していたりするのが気に入らないのだろう。俺だって出来ることなら関わり合いになりたくないが、勝手に来るのだから拒みようがない。俺が拒絶すればそれこそ、皇女を取られたからだと変な噂が流されてしまう。
そう言えばこの前、父から返信が届いていた。皇女のことについてはこちらに任せるように、と書かれていて、状況を悪化させないためにもあまり刺激するなと書かれていた。もちろんそのつもりだったけれど、元凶がのこのことやってくるのだから困ったものだ。
隣を見上げると、こちらを見てどうしたの? と言わんばかりに首をかしげる。あざとい。前世では目にしたことのない淡い水色の髪の毛に、優しくこちらを見る紫紺の瞳。微笑まれると彼に落ちる女性の気持ちが物凄く分かってしまう。そんな気持ちはぶんと首を振って払いのけ、彼から顔を背けた。
「寮に戻る」
「あ、俺も一緒に……」
「お前は先生から呼び出されてただろ?」
すっかり忘れていたのか、ヒロイン(男)は「あ」と言って立ち止まる。
「終わったら、部屋に行ってもいいかな?」
「ダメ」
「終わったら行くね!」
ヒロイン(男)はそう言うと俺に背を向けて走り出してしまった。人の言うこと、全くもって聞きやしねえ……!
こういうことになれば、怒りの矛先は俺に向けられるのは何となく察していた。平穏な学校生活を送りたいから可能な限りヒロイン(男)とは距離を置いていたはずなのに、どうしてこうなった。
「ねえ、シェラード公爵令息。あなた、アルフレッドに何を吹き込んだの?」
寮へ戻ろうとする俺の前に現れたのは皇女だ。護衛を引き連れて五対一で対峙するのは卑怯ではないだろうか。だが俺も公爵令息だ。そんな圧に屈しはしない。そもそもケイシーはどこへ行ったんだ。こういう時に俺の前に立たなくてどうする。
「どういうことでしょう?」
ヒロイン(男)は最初から皇女に対して好意を抱いているようには見えなかったが、都合よく改ざんされてしまっているのだろう。
「アルフレッドがあなたと一緒に居るなんて可笑しいじゃない」
「どうしてですか?」
「だって……、あなたは……」
ようやく自分が争いの火種になっていると気付いたようで、皇女はそれ以上、口にしなかった。それでもヒロイン(男)を諦めきれないのか、まだ俺がそそのかしていると思い込んでいるのか、皇女はまだ食い下がってくる。
「とにかく、アルフレッドに関わるのはやめて。彼は将来有望な人材なのよ」
確かに彼は数年に一人の逸材だろう。だが彼の将来を破滅に導いているのは紛れもなく皇女だ。まだ俺が本格的な抗議をしていないから何事もないように見えるが、本当に彼が皇女との婚約を解消する原因となればただでは済まされないだろう。皇位継承権もない彼女の伴侶となったところで、公爵家から婚約者を奪ったとなればどこも彼らを受け入れたりしない。それに公爵家も他の貴族に対して圧力をかけるだろう。
本当に二人が心の底から愛し合い、二人で一緒に居られるのなら貧しい生活でも構わない。そう言うなら話は別だが、贅を尽くしてきた皇女にそんな生活は無理だ。
もう父の耳にこの話が入った時点で皇女は詰んでいる。そして公爵家の使用人がヒロイン(男)に対して好意的なのを見ると、情状酌量の余地がある、と言ったところか。ま、俺から見ても、ヒロイン(男)は被害者だ。
「俺だって出来ることなら――……」
関わりたくないですよ、と言おうとしたところで、俺の言葉を遮るように後ろから大声が聞こえてきた。
「クラリッサ皇女殿下!」
ぐいと腕を引っ張られて、目の前にデカイ背中が立ちふさがる。
「アルフレッド!」
「シェラード公爵令息に、何をしているんです?」
嬉々とした皇女に対して、驚くほど低い声を出すヒロイン(男)。
ああ、もう、お前が出てくると話がややこしくなるから引っ込んでいてくれ。
騎士学校でも優秀な成績を修めて、国立学校への転入を推薦された男がわざわざ俺に教えてもらうほど勉強できないはずがなく、少し教えればすぐに理解してしまう脳みそに教える必要があるのかと疑問に思ったけれど、「それも貴族の務めですよ」とケイシーに釘を刺されたせいでヒロイン(男)を拒めなかった。
俺の所へ来ることで皇女から逃げているなら仕方ないと思った時もあったけれど、貴族の務めなんて知ったものか、と拒めばよかった。
「なんでお前が俺よりいい成績取ってるんだよ……!」
張り出された順位表を睨みつける。
「偶然ですよ。点差も特にないじゃないですか」
俺よりも上に書かれた名前はたった一つ、アルフレッド・リースだけだった。今回は一位が取れると思っていただけに悔しくてたまらない。ため息を吐いてからその下に目を向けると、皇女の名前はなかった。彼女は普段から上位の成績だったのだが、今回は酷く順位を落としていた。と言っても十人以内に入っているがぎりぎりだ。ヒロイン(男)に現を抜かしすぎたか?
視線を感じて振り返ると、その皇女がこちらを物凄い形相で睨みつけていた。ヒロイン(男)が俺と話していたりするのが気に入らないのだろう。俺だって出来ることなら関わり合いになりたくないが、勝手に来るのだから拒みようがない。俺が拒絶すればそれこそ、皇女を取られたからだと変な噂が流されてしまう。
そう言えばこの前、父から返信が届いていた。皇女のことについてはこちらに任せるように、と書かれていて、状況を悪化させないためにもあまり刺激するなと書かれていた。もちろんそのつもりだったけれど、元凶がのこのことやってくるのだから困ったものだ。
隣を見上げると、こちらを見てどうしたの? と言わんばかりに首をかしげる。あざとい。前世では目にしたことのない淡い水色の髪の毛に、優しくこちらを見る紫紺の瞳。微笑まれると彼に落ちる女性の気持ちが物凄く分かってしまう。そんな気持ちはぶんと首を振って払いのけ、彼から顔を背けた。
「寮に戻る」
「あ、俺も一緒に……」
「お前は先生から呼び出されてただろ?」
すっかり忘れていたのか、ヒロイン(男)は「あ」と言って立ち止まる。
「終わったら、部屋に行ってもいいかな?」
「ダメ」
「終わったら行くね!」
ヒロイン(男)はそう言うと俺に背を向けて走り出してしまった。人の言うこと、全くもって聞きやしねえ……!
こういうことになれば、怒りの矛先は俺に向けられるのは何となく察していた。平穏な学校生活を送りたいから可能な限りヒロイン(男)とは距離を置いていたはずなのに、どうしてこうなった。
「ねえ、シェラード公爵令息。あなた、アルフレッドに何を吹き込んだの?」
寮へ戻ろうとする俺の前に現れたのは皇女だ。護衛を引き連れて五対一で対峙するのは卑怯ではないだろうか。だが俺も公爵令息だ。そんな圧に屈しはしない。そもそもケイシーはどこへ行ったんだ。こういう時に俺の前に立たなくてどうする。
「どういうことでしょう?」
ヒロイン(男)は最初から皇女に対して好意を抱いているようには見えなかったが、都合よく改ざんされてしまっているのだろう。
「アルフレッドがあなたと一緒に居るなんて可笑しいじゃない」
「どうしてですか?」
「だって……、あなたは……」
ようやく自分が争いの火種になっていると気付いたようで、皇女はそれ以上、口にしなかった。それでもヒロイン(男)を諦めきれないのか、まだ俺がそそのかしていると思い込んでいるのか、皇女はまだ食い下がってくる。
「とにかく、アルフレッドに関わるのはやめて。彼は将来有望な人材なのよ」
確かに彼は数年に一人の逸材だろう。だが彼の将来を破滅に導いているのは紛れもなく皇女だ。まだ俺が本格的な抗議をしていないから何事もないように見えるが、本当に彼が皇女との婚約を解消する原因となればただでは済まされないだろう。皇位継承権もない彼女の伴侶となったところで、公爵家から婚約者を奪ったとなればどこも彼らを受け入れたりしない。それに公爵家も他の貴族に対して圧力をかけるだろう。
本当に二人が心の底から愛し合い、二人で一緒に居られるのなら貧しい生活でも構わない。そう言うなら話は別だが、贅を尽くしてきた皇女にそんな生活は無理だ。
もう父の耳にこの話が入った時点で皇女は詰んでいる。そして公爵家の使用人がヒロイン(男)に対して好意的なのを見ると、情状酌量の余地がある、と言ったところか。ま、俺から見ても、ヒロイン(男)は被害者だ。
「俺だって出来ることなら――……」
関わりたくないですよ、と言おうとしたところで、俺の言葉を遮るように後ろから大声が聞こえてきた。
「クラリッサ皇女殿下!」
ぐいと腕を引っ張られて、目の前にデカイ背中が立ちふさがる。
「アルフレッド!」
「シェラード公爵令息に、何をしているんです?」
嬉々とした皇女に対して、驚くほど低い声を出すヒロイン(男)。
ああ、もう、お前が出てくると話がややこしくなるから引っ込んでいてくれ。
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