異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ

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#19 ケイシー

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 皇女の婚約者でもある俺がヒロイン(男)に対してフラットな対応をしていたのだから、多少は好感度が上がってしまうのも頷ける。けれどヒロイン(男)は入学してからちゃんと俺と距離を取っていて、彼から声を掛けてくるなんて滅多になかった。

 それなのに舞踏会が終わってから一変した。未だ俺はその現実を受け止めきれずにいる。

「ケイシー」

「はい」

「おかしいと思わないか?」

「何がですか?」

 俺の半歩後ろで直立しているケイシーを見る。彼は真っすぐ前を見ていて、俺に視線すら向けない。

「婚約者が奪われそうになっているのに、その相手と仲良くするってあり得るのか?」

「関係性にもよると思います」

「関係性、ねえ……」

「えーっと……、俺としてはシェラード公爵令息と仲良く出来たら嬉しいなあ、って」

「お前には聞いてねえよ」

「ひどい!」

 ぴえん、とでも言いたそうな顔が余計に腹立つのに、いまいち怒り切れないのは顔面が良いからだ。これだからイケメンは。

「テストは終わっただろ? 騎士って普段は訓練とかするんじゃないのか?」

「剣の訓練は毎朝やってますよ。夕方は人目があるんで避けてるんですよ」

 避けてる理由は分かるが、「立派な騎士になるのが夢なら訓練したほうが良いんじゃないか?」と突き放す。ふくれっ面をされても可愛くはない。ケイシーが淹れたお茶を口に含む。

 きっとヒロイン(男)が剣を振っている姿を目にしたら、女子は全員落ちるんだろうな、と想像する。そしてそこにやってくる皇女。うん、剣の訓練なんてとてもできないだろう。

「意地悪は良くないですよ、ヴィンセント様」

「そうだそうだ!」

「お前はどっちの使用人なんだよ!」

 振り返って文句を言うと、ケイシーは相変わらず真っすぐを見ていて俺には目を合わさない。なぜケイシーがヒロイン(男)の肩を持つのか。

 きっと何か裏があるに違いない。

「あ、あの……、シェラード公爵令息」

「なんだよ」

 ヒロイン(男)を見ると指先をもじもじとさせて上目遣いで俺を見ている。くそ、かわいくない! と必死に考えてしまうあたり、顔の良さに俺まで絆されそうになっている。

「名前で、呼んでもいいですか?」

 わざわざ改まって聞くことか? と思ったが、何となく思い通りにさせるのも癪だったので、

「ダメだ」

 と断った。

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