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#20 ケイシー
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ケイシーが俺の使用人として働き始めたのは四年前の十二になった直後だった。
ケイシーの両親も公爵家に仕えていて母親は侍女頭だ。だから俺と同い年と言うのもあり、小さい頃から一緒に遊んでいた。いや、ケイシーからしたら遊ばされていた、と言ったところだろうか。
我儘放題で育った俺はケイシーに対しても無理難題を良く言っていた。物を奪うなんて当たり前で気に入らないことがあればケイシーの母親に言いつけ、いつしかケイシーが俺の前で表情を崩すことが無くなった。きっと彼に恨まれているのだろう。公爵家の息子でなければ絶対に関わりたくないはずなのに、学校にまで付いていかなければならなくなって心底辟易しているはずだ。
俺は名前で呼ぶことを承諾していないのに、ヒロイン(男)は「じゃあ、ヴィンセント様。また明日」と言って部屋を出て行った。その後ろ姿を見つめて扉が閉まると同時に大きく息を吐いた。
「どういうつもりなんだ?」
妙に肩入れしているのは気付いている。いい加減、その腹のうちに抱えている気持ちを吐き出してほしくてケイシーを問い詰める。
「何のことでしょう?」
「しらばっくれるな。父さんからはあまり皇女を刺激するなと言われているんだ。アイツと仲良くするのは得策ではないだろう?」
「そうですが、ヴィンセント様もアルフレッド様を避けるよう指示しておりませんよね?」
のうのうとそう言いのけたケイシーに怒りが沸いたのは言うまでもない。
「じゃあ、俺が中に入れるなって言えば、入れないのか?」
「…………まあ、それはもう時すでに遅し、ってやつですよ。今更拒絶しても、あの方は何としてでも部屋に入るでしょうし」
「けど…………」
皇女に目を付けられたくないから、ヒロイン(男)とは出来る限り距離を置きたい。ケイシーは俺の気持ちだって分かっているはずなのに、どうしてこのことに関しては物分かりが悪いのか。
「自分としてはあの方に助けられた恩もありますので、無下にできないという弱みがあります」
「助けられた?」
「ええ。皇都の広場でのことですよ」
魚の入った水を頭からかぶった時のことか。びしょ濡れで家に帰るよりもまだマシな状態だったが、ケイシーは自分の主人を助けてもらった恩がヒロイン(男)にあるということか。だからと言って主人の意向を無視して部屋の中に引き入れるのはどう考えても可笑しい。
あいつが刺客だったらどうするつもりなのか。まあ、それはあり得ないことなんだが。
「それにヴィンセント様も教科書を与えたりしてこっそり助けていたじゃないですか。仲良くしたいのかと思っていましたよ」
「あれは!」
あれはヒロイン(男)がいじめられるのは俺のせいもあると思っていたからだ。夕暮れの誰もいない教室で破れた教科書をかき集めている人を見たら助けたくなるだろう。
「それにヴィンセント様も彼と会ってから変わられましたし」
「…………へ?」
「以前と比べてとても穏やかになったじゃないですか。無理難題も言わなくなったし。……皇女からエスコートを断られて、ご自身の行動を顧みたのだと思ったのです」
ああ、そう言えば、俺が前世の記憶を取り戻したのは、彼に初めて会った日だった。すっかり忘れていた。俺が劇的に変わったのは前世の記憶が蘇ったせいだったが、そのことを知っているのは俺だけだ。周囲の人間は豹変した理由を皇女からエスコートを断られたショックと、人当たりのいいヒロイン(男)の影響だと考えたのだろう。
まあ、そう思うのも無理もない。中身がそのまま別人に変わってしまったようなものなのだから。
「だからこれからもアルフレッド様とは仲良くした方が、ヴィンセント様のためだと思っております」
いきなり前世の記憶が~なんて言ったとしても、ケイシーは俺の頭が狂ったとしか思わないだろう。
「むしろ、ご友人になられたほうが、ゆくゆくはヴィンセント様のためになります」
それはヒロイン(男)が皇女に全く興味がないからだろうか? 珍しく言い切ったことに疑問を覚えて首をかしげたが、ケイシーはそれ以上、語ろうとはしてくれなかった。
ケイシーの両親も公爵家に仕えていて母親は侍女頭だ。だから俺と同い年と言うのもあり、小さい頃から一緒に遊んでいた。いや、ケイシーからしたら遊ばされていた、と言ったところだろうか。
我儘放題で育った俺はケイシーに対しても無理難題を良く言っていた。物を奪うなんて当たり前で気に入らないことがあればケイシーの母親に言いつけ、いつしかケイシーが俺の前で表情を崩すことが無くなった。きっと彼に恨まれているのだろう。公爵家の息子でなければ絶対に関わりたくないはずなのに、学校にまで付いていかなければならなくなって心底辟易しているはずだ。
俺は名前で呼ぶことを承諾していないのに、ヒロイン(男)は「じゃあ、ヴィンセント様。また明日」と言って部屋を出て行った。その後ろ姿を見つめて扉が閉まると同時に大きく息を吐いた。
「どういうつもりなんだ?」
妙に肩入れしているのは気付いている。いい加減、その腹のうちに抱えている気持ちを吐き出してほしくてケイシーを問い詰める。
「何のことでしょう?」
「しらばっくれるな。父さんからはあまり皇女を刺激するなと言われているんだ。アイツと仲良くするのは得策ではないだろう?」
「そうですが、ヴィンセント様もアルフレッド様を避けるよう指示しておりませんよね?」
のうのうとそう言いのけたケイシーに怒りが沸いたのは言うまでもない。
「じゃあ、俺が中に入れるなって言えば、入れないのか?」
「…………まあ、それはもう時すでに遅し、ってやつですよ。今更拒絶しても、あの方は何としてでも部屋に入るでしょうし」
「けど…………」
皇女に目を付けられたくないから、ヒロイン(男)とは出来る限り距離を置きたい。ケイシーは俺の気持ちだって分かっているはずなのに、どうしてこのことに関しては物分かりが悪いのか。
「自分としてはあの方に助けられた恩もありますので、無下にできないという弱みがあります」
「助けられた?」
「ええ。皇都の広場でのことですよ」
魚の入った水を頭からかぶった時のことか。びしょ濡れで家に帰るよりもまだマシな状態だったが、ケイシーは自分の主人を助けてもらった恩がヒロイン(男)にあるということか。だからと言って主人の意向を無視して部屋の中に引き入れるのはどう考えても可笑しい。
あいつが刺客だったらどうするつもりなのか。まあ、それはあり得ないことなんだが。
「それにヴィンセント様も教科書を与えたりしてこっそり助けていたじゃないですか。仲良くしたいのかと思っていましたよ」
「あれは!」
あれはヒロイン(男)がいじめられるのは俺のせいもあると思っていたからだ。夕暮れの誰もいない教室で破れた教科書をかき集めている人を見たら助けたくなるだろう。
「それにヴィンセント様も彼と会ってから変わられましたし」
「…………へ?」
「以前と比べてとても穏やかになったじゃないですか。無理難題も言わなくなったし。……皇女からエスコートを断られて、ご自身の行動を顧みたのだと思ったのです」
ああ、そう言えば、俺が前世の記憶を取り戻したのは、彼に初めて会った日だった。すっかり忘れていた。俺が劇的に変わったのは前世の記憶が蘇ったせいだったが、そのことを知っているのは俺だけだ。周囲の人間は豹変した理由を皇女からエスコートを断られたショックと、人当たりのいいヒロイン(男)の影響だと考えたのだろう。
まあ、そう思うのも無理もない。中身がそのまま別人に変わってしまったようなものなのだから。
「だからこれからもアルフレッド様とは仲良くした方が、ヴィンセント様のためだと思っております」
いきなり前世の記憶が~なんて言ったとしても、ケイシーは俺の頭が狂ったとしか思わないだろう。
「むしろ、ご友人になられたほうが、ゆくゆくはヴィンセント様のためになります」
それはヒロイン(男)が皇女に全く興味がないからだろうか? 珍しく言い切ったことに疑問を覚えて首をかしげたが、ケイシーはそれ以上、語ろうとはしてくれなかった。
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