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#40 青空
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翌朝、俺たちはサラリスと別れを告げて下山した。
「サラリスはそろそろ寿命を迎えるんだって」
竜は太古から存在していたと言われていたし、さすがに不死の生き物はいないと言うことか。初めて見る存在にビビりまくっていたが、どうやら夜の間は俺たちを守ってくれていたようだし、悪い奴ではなかった。
「と言っても、俺たちが死ぬまでは生きているらいくて、眠りについたらもう目覚めないだろうと」
「誤解ってわけじゃないけど、分かりあえてよかったな」
「ええ。俺の祖先がしたことは許されないことだけど、俺自身には悪意も敵意もないって分かってくれたら、親切にしてくれたよ」
そう言ってアルフレッドはサラリスがいるであろう頂上を見つめた。
「年に一回ぐらいは様子を見に行こうかなって思ってる」
「そうしてやったほうがいい」
「さすがに夏だけどね」
雪山登山は懲り懲りだとアルフレッドは笑った。
台車の轍を目印に上ってきた俺と違って、アルフレッドはしっかりルートを覚えていた。なんやかんや帰る気でいたのか、と思うと、あんな目に遭いながらも諦めていないアルフレッドに僅かながら誇らしい気持ちになって、こういうのを惚れ直す、と言うんだな、と思った。
下山もそう簡単ではなかったが、二人で励ましあいながらなんとか麓までたどり着いた。
「ヴィンス!!」
まず最初に飛び込んできたのは父さんだった。ぎゅっと抱きしめられたあと、俺の顔を見つめて弱弱しくぱしり、と頬を叩かれる。この強さが父さんにとっては限界だったのだと思うと、やっぱり俺に対しては甘やかしまくっている。だがこれまで父さんに手を上げられたことはなかったから、今回はよほどのことだったのだと自覚する。
「……勝手なことをするんじゃない」
「すみませんでした」
「どれほど心配したと思っているんだ。……もう」
そう言って父さんはもう一度、俺の体を抱きしめた。それからふと、ケイシーの存在を思い出した。
「あの、ケイシーは……」
「屋敷で待たせている。彼にとっての罰だ」
「俺が悪いんです」
「うん、でも、お咎めなしってわけにもいかないからね」
俺の行動でケイシーが罰せられるのは分かっていたことだ。少しだけ気落ちしていると、ぽん、と頭を撫でられる。
「家族としては心配したけど、友人を助けに行くっていう気概は悪いことじゃないよ」
「……はい」
友人ではなく、大切な人だと言いたかったが、さすがに公衆の面前でカミングアウトは両親のためにもやめておいたほうがいいだろう。ちらりと父さんの視線がアルフレッドに向く。
「君がアルフレッド君だね。よく戻ってきた」
「いえ……、とんでもないです」
「竜と、話をしてきたのかね」
そう言って父さんは空を見上げる。まだサラリスが眠りについていないせいか、俺が出たときと色は変わらない。
「はい。彼の怒りは俺たちの祖先が竜、サラリスに対して無礼を働いたことから始まっています」
「怒り……?」
「ええ。母さんは怒っていないと説明していたようですが、俺が会いに行ったとき、彼は激怒していました。首筋には小さくですがそれでもはっきりと刃物による傷跡が残っていました。サラリスはこの地を守護する竜でしたが、祖先たちの裏切りにより守護をやめ、人による争いが起こるようになりました」
もう神のような存在ではないか。それに刃物を向けるなんてさすがは人間と言うべきか、なんと言うべきか。みんな黙ってアルフレッドの話を聞いているので、辺りはシンと静まり返っていた。
「サラリスはそろそろ寿命を迎えます。眠りに就けば、もう目が覚めることはないと」
「それで竜の守護がなくなるとこの地はどうなるんだい?」
「もうこの地はサラリスが守護しているわけではありませんから、特に変わることはないでしょう」
「そうか。ありがとう」
父さんがそう言って話が終わった時、ふっと空が明るくなった。全員が空を見上げる。そこにはとても眩しい青空が広がっていた。
「サラリスはそろそろ寿命を迎えるんだって」
竜は太古から存在していたと言われていたし、さすがに不死の生き物はいないと言うことか。初めて見る存在にビビりまくっていたが、どうやら夜の間は俺たちを守ってくれていたようだし、悪い奴ではなかった。
「と言っても、俺たちが死ぬまでは生きているらいくて、眠りについたらもう目覚めないだろうと」
「誤解ってわけじゃないけど、分かりあえてよかったな」
「ええ。俺の祖先がしたことは許されないことだけど、俺自身には悪意も敵意もないって分かってくれたら、親切にしてくれたよ」
そう言ってアルフレッドはサラリスがいるであろう頂上を見つめた。
「年に一回ぐらいは様子を見に行こうかなって思ってる」
「そうしてやったほうがいい」
「さすがに夏だけどね」
雪山登山は懲り懲りだとアルフレッドは笑った。
台車の轍を目印に上ってきた俺と違って、アルフレッドはしっかりルートを覚えていた。なんやかんや帰る気でいたのか、と思うと、あんな目に遭いながらも諦めていないアルフレッドに僅かながら誇らしい気持ちになって、こういうのを惚れ直す、と言うんだな、と思った。
下山もそう簡単ではなかったが、二人で励ましあいながらなんとか麓までたどり着いた。
「ヴィンス!!」
まず最初に飛び込んできたのは父さんだった。ぎゅっと抱きしめられたあと、俺の顔を見つめて弱弱しくぱしり、と頬を叩かれる。この強さが父さんにとっては限界だったのだと思うと、やっぱり俺に対しては甘やかしまくっている。だがこれまで父さんに手を上げられたことはなかったから、今回はよほどのことだったのだと自覚する。
「……勝手なことをするんじゃない」
「すみませんでした」
「どれほど心配したと思っているんだ。……もう」
そう言って父さんはもう一度、俺の体を抱きしめた。それからふと、ケイシーの存在を思い出した。
「あの、ケイシーは……」
「屋敷で待たせている。彼にとっての罰だ」
「俺が悪いんです」
「うん、でも、お咎めなしってわけにもいかないからね」
俺の行動でケイシーが罰せられるのは分かっていたことだ。少しだけ気落ちしていると、ぽん、と頭を撫でられる。
「家族としては心配したけど、友人を助けに行くっていう気概は悪いことじゃないよ」
「……はい」
友人ではなく、大切な人だと言いたかったが、さすがに公衆の面前でカミングアウトは両親のためにもやめておいたほうがいいだろう。ちらりと父さんの視線がアルフレッドに向く。
「君がアルフレッド君だね。よく戻ってきた」
「いえ……、とんでもないです」
「竜と、話をしてきたのかね」
そう言って父さんは空を見上げる。まだサラリスが眠りについていないせいか、俺が出たときと色は変わらない。
「はい。彼の怒りは俺たちの祖先が竜、サラリスに対して無礼を働いたことから始まっています」
「怒り……?」
「ええ。母さんは怒っていないと説明していたようですが、俺が会いに行ったとき、彼は激怒していました。首筋には小さくですがそれでもはっきりと刃物による傷跡が残っていました。サラリスはこの地を守護する竜でしたが、祖先たちの裏切りにより守護をやめ、人による争いが起こるようになりました」
もう神のような存在ではないか。それに刃物を向けるなんてさすがは人間と言うべきか、なんと言うべきか。みんな黙ってアルフレッドの話を聞いているので、辺りはシンと静まり返っていた。
「サラリスはそろそろ寿命を迎えます。眠りに就けば、もう目が覚めることはないと」
「それで竜の守護がなくなるとこの地はどうなるんだい?」
「もうこの地はサラリスが守護しているわけではありませんから、特に変わることはないでしょう」
「そうか。ありがとう」
父さんがそう言って話が終わった時、ふっと空が明るくなった。全員が空を見上げる。そこにはとても眩しい青空が広がっていた。
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