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#44 宮廷舞踏会
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「その青年、アルフレッド・リース。彼こそ、我がレオン・センターの実子でございます!」
センター男爵の高らかな宣言に、会場は一瞬で凍りついた。貴族たちが顔を見合わせ、音楽は止まり、静寂が広間を覆う。当のアルフレッドはまるで何かに殴られたような顔をして立ち尽くしていた。どんな言葉を掛ければいいのか分からない。
「ある……」
何か言葉を紡がなければ。俺が名前を呼ぼうとしたとき、再び、大広間の扉が大きく開け放たれた。
「お待ちください!」
その声の主は、裾の長い薄灰色のドレスを纏った一人の女性だった。薄水色の髪を持ち、隣にいるアルフレッドと瓜二つの女性。これまでは穏やかな表情ばかりが印象的だったが、いつになく厳しい顔をした彼女は怒りに震えながらも冷静だった。
「レオン・センター」
その声に、男爵の顔色が変わった。
「ずいぶんと好き勝手を言ってくれましたね」
「……お前」
「久しぶりです、男爵様。十六年ぶりかしら? お変わりないようで」
にこりと微笑んでいる顔はさすがはアルフレッドの母親。彼女こそがヒロインなのではないかというぐらい、周囲の男どもを魅了した。
「皆さまにお詫び申し上げます。先ほどの男爵の言葉には、重大な虚偽がございます」
彼女は会場を見回し、そして皇帝をまっすぐ見つめた。
「アルフレッド・リースは、レオン・センター男爵の子ではありません」
言葉の刃が会場を真っ二つに切り裂いた。センター男爵の顔がみるみる紅潮していく。
「バカな! 私がお前を召し抱え、生活の面倒を見てやったではないか!」
「だからといって、あなたの子になるわけではありません」
アルフレッドの母親は冷たく言い放つ。
「あなたは私に金を渡して関係を迫った。でも私は断った。あなたの息子? 笑わせないで」
衝撃の事実にどよめきが起こる。公爵家の情報でもアルフレッドは男爵の子供だと言われていた。アルフレッドの母はそれを使ってでも自身の子の出生を隠したかった、と言うわけか? だとしたらアルフレッドの父親はよほどの人物だ。
俺の思考を遮るように、突然、勘違い野郎に成り下がった男爵は怒りに震えながら叫ぶ。
「ならば誰の子だというのだッ!」
その問いに、アルフレッドの母はほんの一瞬だけ視線を伏せ、そして、ゆっくりと答えた。
「……それは、アルフレッド本人が知る時が来たら、私から話します」
その言葉に、アルフレッドの眉がわずかに動き、ようやく自分の母親を見た。しかし彼女の顔は、どこまでも冷静で毅然としていた。
沈黙の中、皇帝が立ち上がった。
「センター男爵。汝の言葉は、確認もないまま帝国の式典を混乱させた。よって、皇宮出入りの永久停止を命ずる」
「し、しかし陛下……!」
「これ以上言葉を重ねれば、名誉の剥奪も辞さぬ。引け」
その一言で、男爵は衛兵に連れられて舞踏会から退場させられた。 その間、アルフレッドの母は一歩も動かず、まっすぐに男爵を見つめていた。
やがて音楽が再開し、貴族たちはざわめきを残しつつも舞踏を続けた。だがアルフレッドは、母の元へと歩み寄る。
「……母さん」
「ごめんなさいね、アルフレッド。私のせいであなたの晴れ舞台に水を差してしまったわ」
アルフレッドが言いたいことはそうではないと分かりながらもこの場で詳細は話すつもりはないようで、アルフレッドの母はにこりと笑顔でアルフレッドを制している。しかしアルフレッドも自身に関わることをうやむやにされるのは嫌なようで、もう一度「母さん」と言った。
「テラスへ……、行きましょうか」
「……うん」
そう言って二人は並んで大広間のテラスへと向かった。俺はその後ろ姿を見送り、給仕が持ってきたグラスを手に取った。
センター男爵の高らかな宣言に、会場は一瞬で凍りついた。貴族たちが顔を見合わせ、音楽は止まり、静寂が広間を覆う。当のアルフレッドはまるで何かに殴られたような顔をして立ち尽くしていた。どんな言葉を掛ければいいのか分からない。
「ある……」
何か言葉を紡がなければ。俺が名前を呼ぼうとしたとき、再び、大広間の扉が大きく開け放たれた。
「お待ちください!」
その声の主は、裾の長い薄灰色のドレスを纏った一人の女性だった。薄水色の髪を持ち、隣にいるアルフレッドと瓜二つの女性。これまでは穏やかな表情ばかりが印象的だったが、いつになく厳しい顔をした彼女は怒りに震えながらも冷静だった。
「レオン・センター」
その声に、男爵の顔色が変わった。
「ずいぶんと好き勝手を言ってくれましたね」
「……お前」
「久しぶりです、男爵様。十六年ぶりかしら? お変わりないようで」
にこりと微笑んでいる顔はさすがはアルフレッドの母親。彼女こそがヒロインなのではないかというぐらい、周囲の男どもを魅了した。
「皆さまにお詫び申し上げます。先ほどの男爵の言葉には、重大な虚偽がございます」
彼女は会場を見回し、そして皇帝をまっすぐ見つめた。
「アルフレッド・リースは、レオン・センター男爵の子ではありません」
言葉の刃が会場を真っ二つに切り裂いた。センター男爵の顔がみるみる紅潮していく。
「バカな! 私がお前を召し抱え、生活の面倒を見てやったではないか!」
「だからといって、あなたの子になるわけではありません」
アルフレッドの母親は冷たく言い放つ。
「あなたは私に金を渡して関係を迫った。でも私は断った。あなたの息子? 笑わせないで」
衝撃の事実にどよめきが起こる。公爵家の情報でもアルフレッドは男爵の子供だと言われていた。アルフレッドの母はそれを使ってでも自身の子の出生を隠したかった、と言うわけか? だとしたらアルフレッドの父親はよほどの人物だ。
俺の思考を遮るように、突然、勘違い野郎に成り下がった男爵は怒りに震えながら叫ぶ。
「ならば誰の子だというのだッ!」
その問いに、アルフレッドの母はほんの一瞬だけ視線を伏せ、そして、ゆっくりと答えた。
「……それは、アルフレッド本人が知る時が来たら、私から話します」
その言葉に、アルフレッドの眉がわずかに動き、ようやく自分の母親を見た。しかし彼女の顔は、どこまでも冷静で毅然としていた。
沈黙の中、皇帝が立ち上がった。
「センター男爵。汝の言葉は、確認もないまま帝国の式典を混乱させた。よって、皇宮出入りの永久停止を命ずる」
「し、しかし陛下……!」
「これ以上言葉を重ねれば、名誉の剥奪も辞さぬ。引け」
その一言で、男爵は衛兵に連れられて舞踏会から退場させられた。 その間、アルフレッドの母は一歩も動かず、まっすぐに男爵を見つめていた。
やがて音楽が再開し、貴族たちはざわめきを残しつつも舞踏を続けた。だがアルフレッドは、母の元へと歩み寄る。
「……母さん」
「ごめんなさいね、アルフレッド。私のせいであなたの晴れ舞台に水を差してしまったわ」
アルフレッドが言いたいことはそうではないと分かりながらもこの場で詳細は話すつもりはないようで、アルフレッドの母はにこりと笑顔でアルフレッドを制している。しかしアルフレッドも自身に関わることをうやむやにされるのは嫌なようで、もう一度「母さん」と言った。
「テラスへ……、行きましょうか」
「……うん」
そう言って二人は並んで大広間のテラスへと向かった。俺はその後ろ姿を見送り、給仕が持ってきたグラスを手に取った。
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