離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.44

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『き…気をつけます…』
「もうちょっと気楽に仕事しろ」
『え…』
「失敗したって俺がフォローする。気、張りすぎだ」
『はい…』

確かにそうかもしれない。

本社勤務してからずっと誰にも迷惑をかけてはいけない、という思考が支配していた。

担当エリア店舗が決まってからはその思いがさらに強固なものになった気がする。

自分でも気づかなかったことを如月さんは私以上に理解していた。

本当に彼はよく見ている。

「ボサっとしてないで行くぞ。歓迎会」
『あ、はい』

私は慌ててデスクから立ち上がった。

必要なものをバッグに仕舞い込んでオフィスを出る如月さんを追いかける。

その大きな背中は私の数歩先を行く。

『あの、ところで…』
「ん?」
『歓迎会の会場ってどこなんですか?』
「なんだ、聞いてないのか?」
『はい。相澤さんと一緒に行く予定だったので…』
「駅前の串焼き屋だ」
『へぇ…』

オフィスを出て先を行く如月さんに私は尋ねた。

幹事は相澤さんだと聞いている。

彼女とは似ても似つかないお店のチョイス。

私は少し驚きを隠せなかった。

『相澤さんらしくないお店のチョイスですね』
「……結局、千葉さんが決めてくれたらしい」
『ああ…なるほど』

そういえば相澤さんが歓迎会のお店が決まらない、と嘆いてた時千葉さんが「一緒に探してあげる」と言っていたっけ。

そもそもなんで彼女が幹事なのだろうか。

仕切り役は相澤さんに一番向かない。

「相澤が幹事やるって珍しく言い出したと思ったらこれだ。
任せるんじゃなかった」
『あはは…
まあ、幹事ってガラじゃないですからね。相澤さんは』

自分から言い出したとは初耳だ。

なぜなんだろう。

私は少し違和感を感じたが、本人がいないので答えは出なかった。

後で彼女に聞いてみよう。

時間はたっぷりある。

私達は駅に向かって一歩一歩、足を進めていく。

道中、如月さんは色んな話を私に振ってくれた。

仕事の話や休日の過ごし方など他愛ない話題を。

気まずい空気が流れないように気を遣ってくれていた。

「ちょっとコンビニ寄っていいか?」
『え?
あ、はい…』

駅が近づき、コンビニの明かりが見えた時。

如月さんは無意識に視線をそちらに向けていた。

何か欲しいものでもあるのだろうか。

彼の言葉に私が頷くと少し急ぎ足で如月さんはコンビニへと消えていく。

店先で待つことにする。

金曜日の夜。

駅はいつもより賑わっている。

翌日が休日だからだろうか。

仕事帰りの人たちが友人や同僚たちと飲み屋へ急ぐ背中がちらほら見える。

所謂、華金だ。

「悪い、待たせた」
『いえ…』

時間にするとニ、三分。

如月さんはすぐに戻ってきた。

手には小振りな缶が握られている。

よく見るとパッケージに【ウコン】と描かれていた。

二日酔い対策だろう。
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