離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.46

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「ここにいたのか」
『……ぁ。
如月さん』

私が外のベンチで一息ついていると、店のドアが音を立てて開いた。

視線をそちらに向けると顔を真っ赤にさせた如月さんが呆れた顔で立っている。

だいぶ飲んでいるようだ。

「もうギブアップか?」
『……すぐ戻りますよ。ちょっと休憩です』
「悪いな、無理させて」
『え?』
「歓迎会、嫌がってただろ。挨拶回りまでさせて悪かった」
『……まぁ、しょうがないですよ。しないわけにはいかないですから。嫌ですけど』

可能ならば避けて通りたい道ではあった。

だが、歓迎会に参加する以上ある程度は覚悟していた。

如月さん以外のエリアマネージャーがあんなに来ているのは予想外だったが。

七、八人くらいはいた気がする。

彼は遠慮がちに私の隣に腰掛けた。

微かに煌めく夜空を如月さんは見上げて小さく息を吐く。

恐らく彼も酔い覚ましで店から逃げてきたのだろう。

「原田は平気そうだな。結構飲まされてたみたいだが…」
『如月さんよりは耐性ありますから』
「羨ましいな」
『結構飲みました?』
「……二杯くらいだ」
『え、大丈夫ですか?』

この間一緒に飲んだ時は一杯が限界だ、と言っていた。

大丈夫なのだろうか。

見た目的には赤面してる以外、いつもと変わりなさそうに見える。

「一気に飲まなきゃ平気だ」
『あんまり無理して飲まないで下さいね』
「ああ。わかってる」

ふと、思い出した。

そういえば蒼ちゃんに歓迎会の場所、教えていない。

私はジャケットのポケットからスマホを取りだし、彼に連絡した。

返事はすぐにチャットメッセージで返ってきた。

ただ一言了解、と。

『私、戻りますけど如月さんまだここにいますか?』
「ああ。もう少し休んでからいく」
『じゃあ、またあとで』

私は如月さんに一声かけてから店に戻った。

賑やかな声の中にまた紛れていく。

騒がしさが私を包んだ。

この雰囲気、やはり苦手だ。

その夜。

一次会がお開きになったのは二十二時過ぎ。

長い長い歓迎会がようやく終えた。

「原田さん、二次会いく?」
『あ…えっと、迎えが来てるので。
ごめんなさい…』
「あ、そうなんだ?
じゃ、また今度だね。お疲れ様」
『はい。お疲れ様です』

串焼き屋の店先で皆んなが二次会の相談をしている頃。

私は帰るタイミングを見計らっていた。

女性社員の一人がそれを察したのだろうか。

話を振ってくれた。

これで帰れる。

一応如月さんにだけは挨拶していこう。

『如月さん』
「原田。
帰るか?」
『はい。お疲れ様です』
「お疲れ。気をつけてな」
『失礼します』

如月さんも二次会に参加するのだろう。

二次会参加者の傍らに彼はいた。

私は軽く挨拶してから彼等の元を去る。

一歩足を進めて歩み出そうと正面を見た。
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