離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.67

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「いっぱい話していっぱい喧嘩しよう」
『ぇ…喧嘩?』
「そ。溜め込まないこと。約束ね」
『うん…』

蒼ちゃんはコツン、と額を互いに合わせて言った。

二人の視線が絡み合う。

喧嘩をする約束なんて変なの。

こんなカップルどこにもいないだろう。

「……あのさ」
『ん?』
「これはまぁ、提案なんだけど…」
『?』
「……ここで一緒に暮らす気はない?」
『ぇ…』
「完璧に移り住めとは言わないけど、俺たちが話し合わなかったのって忙しさが原因でしょ?」
『まぁ…うん。そうだね』
「美愛の休日の日だけでもいいからこの部屋にいてほしい」
『………』

確かに、私達はお互いに忙しい。

休日が被ることは少ないだろう。

別々に暮らしてたらまた三年前と同じことの繰り返しになる。

互いにすれ違いが生じるだろう。

『それって…』
「ん?」
『今日、ここに泊まれってこと?』
「いや、そうは言ってないよ。今日泊まってもこの部屋なんもないから不便でしょ。ちゃんと今日は家まで送る」
『…ん』
「今度休みとるからさ、一緒に家具とか買って住める準備しようよ」
『……考えとく』
「うん。そうして」

急な申し出に私はすぐに頷くことはできなかった。

今のこの状況は復縁したということなのだろうか。

なんだかいつもとあまり変わらな過ぎて実感湧かない。

「美愛はもう週末休み確定?」
『別にそういうわけじゃないよ。会社は休みだけど巡回の日になることだってあるし』
「巡回?」
『ああ…ごめん。店舗の巡回。最近、やっと担当エリア決まったから』

本社が基本、週末休みなので週末に巡回等がなければ休日になる。

先日、ようやく担当エリアが決まったので優雅な週末休みも今週までだろう。

来週からは平日休みが組み込まれるはずだ。

「じゃあ、平日も休める?」
『うん。毎月二日は希望休出せるから』
「今度、休み合わせてデートしようか」
『ぇ…ぅ…うん』

デート。

なんだか言葉にすると気恥ずかしい。

お互い仕事が忙しいのですぐには無理だろう。

それまでは合間で時間を作るしかない。

「来週も休みは週末?」
『ぁー…どうだろ。平日休みになるかも。巡回あるし』
「じゃあうちにおいで。泊まらなくてもいいから」
『うん。休みわかったら連絡するね』
「待ってる」

蒼ちゃんの部屋に来たとしても彼は仕事だろう。

一緒に過ごせる時間は数時間。

これでは前と同じことの繰り返しだ。

彼の提案を真剣に考えてみる必要があるみたい。

「今日はもう帰ろうか。送るよ」
『うん。ありがとう』
「カレー御馳走様。美味しかったよ」
『残り、朝にでもあっためて食べて』

その夜、私は蒼ちゃんの車でマンションまで送ってもらった。

彼のマンションを出た際に気づいたのだが、ここから本社まではそこそこに近い。

朝の通勤ラッシュからは免れそうだ。

電車通勤から自転車通勤へ。

とても魅力的ではある。

だが、よく考えよう。

簡単に決めていいことではない。

その夜、私の自宅マンションに着いたのは零時を過ぎた頃だった。

今日一日で色んなことがあった。

これでよかったのか正直私にもわからない。

だけどこれで前に小さな一歩を歩めた気がする。
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