離した手の温もり

橘 凛子

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同棲

ep.69

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『つ…疲れた…』
「お疲れ」

タイムミリットのお昼。

私はようやく戦略の配信を終わらせた。

皆んなはランチに出掛けていて、オフィスには如月さんだけしかいない。

相変わらず彼はコンビニ飯コース。

見慣れた光景だ。

デスクで私が項垂れていると彼が声をかけてくれた。

コトン、と栄養ドリンクを添えて。

『……ありがとうございます』
「原田、後ででいいんだが…」
『はい?』
「今月のスケジュールの配信、エリアに送るの忘れるなよ」
『……勝手に決めていいんですか?』
「仕事が回るなら好きに休め」
『午後一でやります』
「頼む」

今月のスケジュールとは私のシフトスケジュールのことだ。

私がいつどこにいるのか把握出来るようにエリア店舗に配信する必要がある。

緊急でなにか起こった時のために。

「とりあえずメシ行け。目が死んでるぞ」
『如月さんはまたコンビニ飯ですか?』
「ん?
あぁ…まぁな」
『よかったらお昼、ご一緒しません?食堂のランチも美味しいですよ』
「………いや、俺は…」
『私奢ります』
「馬鹿。社内で部下にそんなことさせられるわけないだろ」
『……社外ならいいんですか?』
「食堂行くぞ」

如月さんは余程、私に奢られるのが嫌らしい。

スタスタ、と前を行く彼を私は追いかけた。

向かう先はもちろん、社員食堂。

「あれ、原田さんと……如月さん?」
『お疲れ様です。千葉さん』
「珍しいわね。如月さんが社食なんて…」
『私がお誘いしたんです』
「へぇ…ふーん…?」
「な…なんだ」
『?』

社員食堂に着くと千葉さんと目が合い、呼び止められた。

彼女は意味ありげな視線を如月さんに送っている。

なんなのだろう。

私は首を傾げた。

千葉さんには頭が上がらないのか、彼は身を引いてたじろいでいる。

いつも冷静な如月さんがこんな風に動揺する姿は珍しい。

初めて見た気がする。

「私が誘ってもついてこない癖に原田さんならいいんだ?」
「………」
『ぁ、あの…私が無理に誘ったので…』

一応私はフォローした。

無理に誘ったつもりは全くないのだが。

「…まあ、いいわ。一緒に食べましょ」
「原田、何がいい?」
『へ?』
「メシ」
『いや、いいです。自分で払いますから…』

如月さんは財布を取り出して私の分のランチも払おうとしている。

当然、私はそれを阻止した。

そう何回も払ってもらうわけにはいかない。

ただの上司と部下の関係でしかないのだから。

「奢ってもらえばいいのに…」
『いやいや…無理です。私が奢りたいくらいなんですから』
「それは如月さんが許さないでしょ。あの人プライド高いから」
『詳しいですね』
「まあ、付き合い長いから」
『同期なんでしたっけ…』
「うん。そう。もう十年くらいの付き合いかな?」
『へぇ…』

今まで聞いたことないが、千葉さんって何歳なのだろうか。

若くは見えるが、二十代ではない。

社歴からそれはわかる。

中々女性の年齢を聞くのは抵抗感があり、ずっと聞けずじまいだった。

どのタイミングで聞くのが一番ベストなのだろう。

私は千葉さんと一旦別れて、食券を買いながら考え込む。

側から見ればランチメニューに悩む食いしん坊の女に見えるだろう。
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