76 / 130
同棲
ep.76
しおりを挟む
「そろそろ行こうか」
『あ、うん。そうだね…
彗くん、ご馳走様』
「またおいで」
食休みを終え、蒼ちゃんは立ち上がった。
時刻は二十一時を過ぎている。
結構のんびりしていたようだ。
「会計…」
「ああ…いいよ。俺の奢り」
『彗くん!』
やっぱり。
予想はしていたが、彗くんはやはりそう言ってきた。
拒絶しても無理だとはわかっているが、一度声を上げてみる。
「……いいの?」
「うん。そのかわりまた来て」
「…ん。またね」
「また」
私と蒼ちゃんは店を出た。
パーキングまでの短い距離を私達は歩み出す。
どちらからともなく互いに手を握りながら。
互いの小指だけを握り合った。
私達の手の握り方はいつもこう。
「美愛…」
『……!』
蒼ちゃんの車に乗り込むと彼は間髪入れずに私にふわっと抱きついてきた。
ほのかに柑橘系の香りが鼻を擽る。
驚いて私は言葉も出なかった。
『そ…蒼ちゃん…?どうしたの?』
「やばい…」
『え…?』
「今日このまま帰したくない」
『………』
私は困惑した。
蒼ちゃんの低い声が耳元で囁かれる。
彼がこんなこと言うの初めて聞いた。
どうしたのだろう。
蒼ちゃんらしくない。
「連れ帰っていい…?」
『へ…?連れ…?』
泊まれということだろうか。
蒼ちゃんは額を突き合わせてこちらを見つめてくる。
私は目を逸らせず、視線を泳がせた。
「だめ…?」
『き…急に言われても…
着替えとかないし…』
「コンビニがある」
『明日私、仕事…』
「俺んとこのが近いじゃん」
『…………』
私は逃げ道を探すように言葉を続けるが、蒼ちゃんがそれを拒絶する。
どんなに逃げる道の言葉を発しても彼が即座にその案を遮断した。
逃す気はないよう。
私も子供ではない。
泊まるということの本当の意味は理解している。
そこまで無知ではない。
『…ぁ…あの…私…』
「嫌なら俺殴って」
『え…?
…んっ…』
蒼ちゃんは一言そう言って私の唇に口付けてきた。
触れるだけのキスから啄むようなキスへと。
私の後頭部を抱えて数分間、彼は私の唇を求めてきた。
溢れるその愛情に私は応えるのに精一杯。
男性とキスをするのは数年ぶり。
もうキャパオーバーだ。
「…顔真っ赤」
『!
だっ…だって…!』
「帰ろうか。コンビニ寄って」
唇を離すと蒼ちゃんは私の顔をみてくすり、と笑みを浮かべた。
二十八にもなった女がただキスしただけで顔を真っ赤にするなんてそりゃ、笑うだろう。
自分でも情けない。
彼は私が承諾していないにも関わらず、車を自分の自宅マンションへ走らせた。
道中、車内で蒼ちゃんは運転しながら私の手を繋いでいた。
二人の間に会話はない。
『あ、うん。そうだね…
彗くん、ご馳走様』
「またおいで」
食休みを終え、蒼ちゃんは立ち上がった。
時刻は二十一時を過ぎている。
結構のんびりしていたようだ。
「会計…」
「ああ…いいよ。俺の奢り」
『彗くん!』
やっぱり。
予想はしていたが、彗くんはやはりそう言ってきた。
拒絶しても無理だとはわかっているが、一度声を上げてみる。
「……いいの?」
「うん。そのかわりまた来て」
「…ん。またね」
「また」
私と蒼ちゃんは店を出た。
パーキングまでの短い距離を私達は歩み出す。
どちらからともなく互いに手を握りながら。
互いの小指だけを握り合った。
私達の手の握り方はいつもこう。
「美愛…」
『……!』
蒼ちゃんの車に乗り込むと彼は間髪入れずに私にふわっと抱きついてきた。
ほのかに柑橘系の香りが鼻を擽る。
驚いて私は言葉も出なかった。
『そ…蒼ちゃん…?どうしたの?』
「やばい…」
『え…?』
「今日このまま帰したくない」
『………』
私は困惑した。
蒼ちゃんの低い声が耳元で囁かれる。
彼がこんなこと言うの初めて聞いた。
どうしたのだろう。
蒼ちゃんらしくない。
「連れ帰っていい…?」
『へ…?連れ…?』
泊まれということだろうか。
蒼ちゃんは額を突き合わせてこちらを見つめてくる。
私は目を逸らせず、視線を泳がせた。
「だめ…?」
『き…急に言われても…
着替えとかないし…』
「コンビニがある」
『明日私、仕事…』
「俺んとこのが近いじゃん」
『…………』
私は逃げ道を探すように言葉を続けるが、蒼ちゃんがそれを拒絶する。
どんなに逃げる道の言葉を発しても彼が即座にその案を遮断した。
逃す気はないよう。
私も子供ではない。
泊まるということの本当の意味は理解している。
そこまで無知ではない。
『…ぁ…あの…私…』
「嫌なら俺殴って」
『え…?
…んっ…』
蒼ちゃんは一言そう言って私の唇に口付けてきた。
触れるだけのキスから啄むようなキスへと。
私の後頭部を抱えて数分間、彼は私の唇を求めてきた。
溢れるその愛情に私は応えるのに精一杯。
男性とキスをするのは数年ぶり。
もうキャパオーバーだ。
「…顔真っ赤」
『!
だっ…だって…!』
「帰ろうか。コンビニ寄って」
唇を離すと蒼ちゃんは私の顔をみてくすり、と笑みを浮かべた。
二十八にもなった女がただキスしただけで顔を真っ赤にするなんてそりゃ、笑うだろう。
自分でも情けない。
彼は私が承諾していないにも関わらず、車を自分の自宅マンションへ走らせた。
道中、車内で蒼ちゃんは運転しながら私の手を繋いでいた。
二人の間に会話はない。
13
あなたにおすすめの小説
僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜
柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。
僕の名は、周防楓。
女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?
とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。
高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。
明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!!
そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。
「なぁ、俺と結婚しないか?」
直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。
便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。
利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。
ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。
しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、
「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」
と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。
大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!
※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)
※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる